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16.楽園に手を伸ばす

下ネタ注意

 ヒソラから素直じゃない謝罪を受けた後、アリナは着替えとタオルを持って浴室へ向かっていた。

 この屋敷に相応しく大きいそれを、アリナはとても気に入っていた。むしろあんなに綺麗で広いお風呂が嫌いな人なんているのだろうか、とさえ思う。

 今日はキリカと共に住民達の農作業を手伝って、汗だくなのだ。早くさっぱりしなければ。

 思わず鼻歌交じりで歩いていると、「あっ!」という声がしたので立ち止まる。

 見ると、同じような装備のキリカが後ろから駆け寄ってきた。


「アリナ!お風呂?」

「ええ、そうよ」

「じゃあ、わたしも一緒に入っていい!?」

「あ、うん。いいわよ」

「やったー!!アーリナとおっふろっ」


 にこにこしながら嬉しそうに歌うキリカに、アリナの頬は緩む。可愛い、キリカ可愛い。


 二人の女の子は、和やかな雰囲気で浴室へと消えていった。



 数分後。


「あー...顎がいてぇ...」


 二度アッパーをくらった顎を優しくさすりながら、カヨウはだらだらと脱衣場へ入室していた。


「んお?」


 先に誰か入っているようだ。物音がする。

 ま、まさかアリナ?これが伝説のラッキースケベというやつか!?

 胸を高鳴らせるカヨウだったが、置かれている衣服がキリカのものであることに気付き、がっくりと肩を落とす。


「何だキリカか...」


 正直いってキリカは幼女と同じだ。キリカに欲情する程、己は変態ではないのだ。

 中にいるのがキリカなら別に一緒に入って構わない。だって相手幼女だし。というかきょうだいだし。

 いそいそと衣服を脱ぎ、タオルを肩にかけ浴室のドアを開ける。


「キリカー、入んぞー」

「え?」


 しかし、カヨウの目に飛び込んできたのは、暴力的なまでの肌色だった。


「...え?」


 カヨウはあんぐりと口を開ける。

 目の前にあるのは、云わば、双丘であった。

 それも、ただの双丘ではない。カヨウが最も理想とする、爆には決して届かない程度の巨の大きさ、かつ非常に美しく形が保たれたものであった。

 瑞々しいなんてものではない、それ以上に汚れを知らない、神聖とさえ言えるものだった。

 それでいて彼女は、胸だけでなく、抜群、いや奇跡のプロポーションを持っていた。

 これ程までに魅力的な体があるだろうか?いや、ない。

 故に、カヨウ自身が雄々しく屹立したのも、仕方のないことなのだ。


「えっ、えっ、えっ...!?」


 彼女は細い肩を震わせて、己の体を抱き、後ずさる。


 いかん!

 楽園が逃げてしまう!

 今まで追い求めてきた楽園がすぐ目の前にあるというのに、それを逃すなど、男ではない!

 カヨウは大きく一歩を踏み出した。


「ちょっ...カヨウ!怖い!来ないで!」

「いざ行かん、パーラダーイス!!」

「いやあああああ!?」


 ばっ!と手を広げたカヨウに、彼女は悲鳴を上げて踞った。

 そして。


「カヨウお兄ちゃんの馬鹿ーっ!!」


 彼女の後方から投げつけられた桶が見事眉間にぶち当たり、カヨウの意識は闇に飲まれた。





「...ヨウ、カヨウ!」

「うひっ?」

「ああ、良かった。びっくりしたぞ。あんなことになるなんて」

「あ...あれ?」


 カヨウはゆっくりと身を起こした。

 すぐそこにいる、優しく笑っている人物を、信じられない気持ちで、見つめた。


「...兄さん」

「ん?レイシンがきたのか?」


 振り返って確認する彼に、カヨウは小さく首を振り、言った。


「いや、何でもねえよ...兄貴」

「そうか?まだ、頭痛い?」

「や、別に...オレ、どうなったんだっけ?」

「竹刀を勢い良く振り上げ過ぎて、手から離れたんだよ。それで竹刀が宙を舞って、カヨウの頭に落ちた。レイシンは今父さんを呼びにいってるよ」

「奇跡的だなおい...」


 ぼやくカヨウに、彼は困ったように笑った。


「危なかったんだぞ?もっと注意してくれ、ひやりとした」

「うん...悪いな、兄貴」


 カヨウは、ぼんやりと彼を眺めた。

 こんな風に、穏やかに、静かに笑う人だった。

 誰よりも優しくて、虫も殺せないような人だった。

 自然が好きで、紅茶をいれたりお菓子を作るのが上手くて、それを食べた皆の笑顔が好きな人だった。

 皆、彼が大好きだった。


 今はもう、いない。

 殺された。

 あの男が、殺したのだから。





「...絶対だ!絶対だよ!繰り返すに決まってる!俺はこの人を追放することを望むっ!!」

「悪いけど、わたしも!カヨウお兄ちゃんならやりかねないよ!」

「あはは、カヨウ兄さんに対する信用の低いこと。ねえ、レイシン兄さん」

「うむ...確かにこのアホならやりそうだ...だが、まあ一応初犯だしな...」

「三日目だよ!?まだアリナが来て三日目!なのにカヨウお兄ちゃんは手を出そうとしたんだよ!?アリナの男の人のトラウマが蘇るなんて考えもせずに!」

「追放!追放!」

「追放!追放!」

「おめえら何言ってんだ!?」


 がばっ、と身を起こすと、絶対零度の視線が向かってきた。

 「うおっ」と声を上げつつ、カヨウは状況を整理する。

 ここは、居間である。いるのは、レイシン、ミカゲツ、ヒソラ、キリカ、キリカに抱き締められているアリナ。

 自分はちゃんと服を着せられており、更に縄で椅子に縛られていた。


「な、何だこれ?」

「カヨウお兄ちゃん...言い残すことは?」

「えっ!?何?ちょっと待て、あれ...」


 睨むキリカに言われ、カヨウは必死で頭を働かせる。

 しかし、分からない。


「...すまん、実は風呂に入ろうとした辺りから記憶がない...オレ、何したんだっけ?」

「...あー...」


 カヨウの必死さから、それが嘘ではないと伝わったのだろうか。

 微妙な空気の中、ミカゲツは笑いを噛み殺しながら、カヨウの肩を叩いた。


「カヨウ兄さんって、残念な人ですね」

「えっ!?ちょっと待って、俺何したの!?おい、おいってばー!!」

「カヨウ」

「あ、アリナ!俺は一体」


 その瞬間。

 アリナはカヨウにビンタをした。

 硬直するカヨウ、キリカ、ヒソラ。ため息を吐くレイシン。珍しく爆笑するミカゲツ。

 アリナは真っ赤になって、告げた。


「つ、次は、許さないから!!」

「...え、えちょっ待っ結局俺は何をしたのー!?」


 こうして、カヨウは記憶を失い、楽園を再び探究することになったのだった。

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