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15.距離が縮まる?

 訓練所に辿り着いたアリナ達は、何人かの男達に迎え入れられていた。

 例によって黒髪黒目の彼らは、カヨウとキリカに気付くと、一斉に駆け寄ってきたのである。

 アリナがその屈強な男達に恐れ戦くのも、何らおかしい話ではなかった。

 男達はカヨウの後ろにいるアリナを見つけると、「あんたが噂の新しい妹さんか!」と意外に親しみやすい笑顔で受け入れた為、アリナはびっくりしてしまった。

 ヴァースアックに対する印象が、少しずつだが変わっていくのを、アリナは実感していた。

 その後、彼らが剣を交える姿、体を鍛える為のトレーニングなどを行う姿を見学しながら、アリナは誰かに聞かせるつもりでもなく、ぽろっとこぼした。


「やっぱりヴァースアックの人って、凄く強いのよね...」

「まあなー。オレ達の本業はこれだし」


 呟きを拾い、カヨウは近くに立て掛けられていた竹刀を手に取り、何気なくそれを振った。

 ヒュン、と音を立てて、真っ直ぐに降り下ろされる。


「まあ、オレ達は別に剣の腕が格別いい訳じゃねえんだよ。ただ、オレ達ヴァースアックは物すげえ殺気を放てるってだけで。オレ達が速いんじゃなくて、相手が遅くなるんだ」

「つまり...殺気で相手を圧倒して、動けないところをばん!...ってこと?」

「そうそう。だから、ヴァースアック同士で争う場合は、純粋な力比べになる。ヴァースアックの奴らは、小さい時から大抵の殺気には慣れるからなあ。とんでもねえ異常な殺気は無理だけど」

「ヴァースアック同士で争うことなんて、あるの?」


 驚き、思わず問いかけると、カヨウはどこか渋い顔付きになった。


「あー...いや、まあ...」

「あ、わたし聞いたことあるよ。確か、何代か前の当主さんは、当主になる為に兄弟を皆、殺しちゃったんでしょ?」

「ええっ!?」


 キリカの口かららしくない物騒な話が出て来て、アリナは目を見開き声を上げる。

 カヨウは苦笑しながら、


「よく知ってんなお前。誰に聞いたんよ」

「うーんと、カイロウお兄ちゃんとレイシンお兄ちゃんが話してた気がするなー」

「そっか、あの二人が...」


 一瞬遠い目をした後、カヨウは明るく笑った。


「つってもそんなんは特例だ特例!少なくとも、オレ達兄弟はあり得ないね!」

「うん、というかそんなことになったらわたしが許さないんだよ!皆の秘密を暴露していくんだよ!」

「うおぉ、それは絶対に駄目なやつだ!止めろ、止めるんだ、キリカー!!」


 ふざけあう二人。微笑ましい光景に、アリナの頬も緩みかけたが、


「あ、でもだからってオレ達をなめるんじゃあねえぞ。確かにオレ達は殺気が使えなくなったら大陸一の剣士とかには負けるかもしれんが...カイロウ兄さんは違う」


 僅かに低くなったその声に、違和感を覚えた。


「あの人は、本物の化けものだ」

「カ、ヨウ?」


 カヨウが、その鋭い目でどこを見据えているのか分からなくて、アリナの声は掠れてしまう。

 ぶるり、と体が震えた。

 カヨウは再び何かを言おうとして、そして。


「えい」

「ごべらっ!?」


 キリカのアッパーが顎に直撃した為、カヨウは舌を噛んだ。


「だ、だにするだああ!!おでのイケメンフェイスが崩れたらどうするど!」

「カヨウお兄ちゃんは元々イケメンじゃないから大丈夫だよ」

「ぐっは!オレのハートがブロークン!」


 キリカは崩れ落ちたカヨウを見下ろし、淡々と述べる。


「わたしはアリナのお姉さんだもん。アリナを怖がらせようとする人は皆、わたしが阻止するんだよ」

「...キリカ」

「だから、ね、アリナ!安心してね!」


 にっこりして、キリカはアリナの肩を抱く。


「...ありがとう、キリカ」


 伝わってくる少女の温かさに、アリナは精一杯の感謝を告げた。





「...遅い」


 ヒソラは苛々と、玄関を歩き回っていた。もう少しで日が暮れてしまうのだ。

 使用人が微笑ましげにヒソラを見ているのが分かるが、恥ずかしいとは思いつつそこを離れることはない。

 それもこれも、キリカ達の帰りが遅いのが原因である。

 まだアリナに案内をしているのだろうか。この地に特に見所のある場所はあまりないというのに。


「...まさか」


 襲われているのではなかろうか。あのカヨウに。

 いくら兄とはいえ、カヨウも男である。美少女二人を前にして、奴が大人しくするだろうか。いや、しない。


「く、くそおおおお!!あの、ロリコンめえええええ!!」


 心の中で、物凄い勢いでカヨウへの呪詛を吐きつつ、ヒソラは屋敷を飛び出した。

 ごっつん☆


「だあっ!?」

「きゃっ!?」


 その結果、今まさに扉を開けようとしていたアリナと、衝突した。


「うおっ、ヒソラ?」

「ヒソラお兄ちゃん何やってるの?アリナ大丈夫!?」


 尻餅をついたアリナにキリカが手を差しのべる。

 カヨウは、倒れまいと踏み留まったヒソラに、呆れたように声をかけた。


「とんだお出迎えだなあ、おい」

「うぐ...全っ部カヨウ兄さんのせいだ!!このロリコンめ!!」

「何で!?」





 屋敷の、皆で話したり寛いだりすることの多い大部屋、居間に入り、改めてヒソラは尋ねた。

「それで?どこ行ってたんだよ、こんな遅くまで」

「折角だから皆のお手伝いしてきたんだよ!」

「ああ、だから汚れてんの...」


 ヒソラは、キリカの怪しい黒服に所々僅かに付いている土を眺める。


「...ねえ、ヒソラお兄ちゃん」

「な、何だよ」

「いつになったらアリナに謝るのかな?わたし、ずっと待ってるのに全然そんな素振り見せないよねえ?」

「うっ...」


 ヒソラは顔をしかめ、カヨウと何やら会話しているアリナを見やった。

 朝の食堂でぶちまけた通り、ヒソラにとってのアリナの認識は、赤の他人である。

 あまり他人と関わりたくないというのが本音であるが、キリカがそれを許さない。


「ちゃんと謝ってくれないと、わたしもちょっと本気出そっかなー。どれがいいと思う?ヒソラお兄ちゃんが服に虫が入って泣いたお話とか...」

「だーっ分かった分かったよ!」


 ヒソラは、彼女の元へ大股で歩いていく。アリナが自分を見ると、顔を背け、ぶっきらぼうに早口で言った。


「...悪かったな」

「え?えっと、何がでしたっけ?」

「はっ!?だ、だから!さっきぶつかったのだよ!」

「あ、ああ!別に大丈夫ですよ。あたしも避けられなかったし...あれ、でも避けたらむしろヒソラさんが危なかった...?」

「とーにーかーく!ごめんな!」


 謝罪にしては随分乱暴なそれに、アリナは困ったように笑って緩く頷いた。

 キリカは、まあいいだろうとでも言いたげに腕を組み、カヨウは茶化そうとしてヒソラから本日二度目となるアッパーをくらった。

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