14.少しは働け
中庭を離れ、再びしばらく屋敷内を案内された後、食堂で昼食をとり、アリナ達は外へ出た。
「どこに行くの?」
アリナが尋ねると、カヨウはやや考えてからのんびりと答える。
「そーだな、じゃあ訓練所にでも行くかー」
「よーし行こう、アリナ!近いから大丈夫だよー!」
屋敷の外には、ヴァースアック一族が育てる畑が広がっている。皆昼時で休憩中なのか、畑仕事をしている者の姿は見えなかった。
アリナ達は畑の脇を通って進む。
「...長閑ね」
「そりゃあここは他から離れてるからな。自然と共に生きてんのよオレ達は」
「カヨウお兄ちゃんが言うと何か変な感じだね!あっ、働いてないからか!」
「お、おうキリカ...ちょっと傷付くから止めようぜ...」
わざとらしく胸を押さえるカヨウを放っておき、キリカはアリナに微笑みかける。
「わたしも時々皆のお手伝いするけど、畑仕事って大変なんだよ!畝を作ったり肥料をやったり、虫取りもしなきゃならないからね。皆すごい人達なんだよ!」
「そうね...感謝しなくちゃいけないわね」
「うん!美味しい野菜をいつもありがとうってね!」
キリカはとびきりの笑顔を浮かべると、至極嬉しそうに軽くスキップをした。
「ふう...心が痛いぜ」
「カヨウもお手伝いしたらいいんじゃないの?」
「オ、オレだって時々カイロウ兄さんにおつかい頼まれてるし!す、少しは働いてるし!」
狼狽した様子でカヨウは明後日の方向を向いた。
「カヨウお兄ちゃんはともかく、ほら見えたよ!」
キリカの指差す方に、アリナ達がいる屋敷までの大きさはないものの、立派な建物が聳えていた。
「カイロウ兄さん」
カイロウがいつもいる部屋、すなわち執務室に、一人ふらりと彼は現れた。
「どうした、ミカゲツ」
手元の資料から目を放すことはなく、カイロウは答える。
共に仕事をしているレイシンは、今はそこにはいなかった。
「何故あの女の願い事を律儀に守る必要があるんですか?」
「...率直だな」
カイロウはようやくミカゲツに視線を投げる。ミカゲツは、常と変わらず笑顔だった。
「僕はあの女が嫌いです。カイロウ兄さんは違うんですか?裏切られたというのに」
「何故お前がそこまで怒る」
「怒りますよ、だって僕にも手をかけてきたんですよ。その上...」
「ミカゲツ」
戒めるような声に、ミカゲツは口をつぐんだ。
「アリナには、そのことは関係ない」
「...でしょうね。分かっていますよ。アリナに罪はない。悪いのはあの女だ」
「ミサにも事情があった。それだけの話だ」
「...ええ。邪魔してすみませんでした。失礼します」
ミカゲツは軽く頭を下げ、部屋を出る。それと入れ替わるように、レイシンが入ってきた。
「今、ミカゲツがいたんですか?」
「ああ」
「全く...少しは手伝ってほしいものですね」
「...そうだな」
カイロウは一切変わらない無表情で静かに答えると、再び資料に目を落とした。
「まあ、オレ達は別に剣の腕が格別いい訳じゃねえんだよ。ただ、オレ達ヴァースアックは物すげえ殺気を放てるってだけで。オレ達が速いんじゃなくて、相手が遅くなるんだ」
「つまり...殺気で相手を圧倒して、動けないところをばん!...ってこと?」
「そうそう」
一方、訓練所にてアリナは何故かカヨウから戦闘の話を聞いているところだった。




