表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/85

1.顔見せのようなもの

見切り発車かつ衝動書き。

「だから、言ってんだろうが!」


 苛ついているような青年の声が、屋敷中に響く。


「分かってないのは兄さんの方ですよ」


 また別の青年が、冷ややかに答えた。


「はあ、兄さん二人のことは、俺には理解出来ないね」


 その少年は、呆れたようにため息を吐いた。


 彼ら三人の間には、険悪な空気が漂っている。


「おっぱいこそ至高だろうが!!」

「ふざけないでくださいお尻が一番です!」

「脚だ、脚に決まってるよ!」


 ただし、その内容は非常に下品であったが。


「お前らほんっと馬鹿だな。おっぱいこそ正義!大きい小さいはあるがそれ全て含めておっぱいは最高なんだよ!!いいか、オレ達は皆おっぱいによって育てられたんだ!!オレの夢はな、色んなおっぱいに包まれて死ぬことだっ!!」


 一番声が大きく堂々とした青年は、真っ黒な髪に大きな黒目、威圧感を与える高身長であり、初めて見た者はまあ取りあえずちょっと怖がるような容姿であった。


「ふっ、やっぱり分かってませんね。いいですか、例えば女の子が内股で床に座ったとします。その時!少し潰れて横に余っているぐらいのもの!そこにあるのは限りないエロス!!これこそ僕の理想っ!!」


 力説するのは線の細い美青年である。ややくせ毛の、淡い茶色がかった黒髪に、切れ長の目の色は黒。年頃の娘が見たらキャーキャー言われそうなイケメンだ。


「ふう、兄さん二人には俺の気持ちは分からないだろうけど...脚ってさ、男の憧れなんだよ。分かるかな、分かんないだろうね。細過ぎる脚よりも、ムチッとした健康的な脚の方が俺は好きだし、スラッとして姿勢が良いのは好感持てるよね」


 冷めているようで真剣に語る少年は、お尻推しの青年と似ている顔立ちだ。だが青みがかった黒髪はサラサラで、黒目は青年より大きい。お姉様方に好かれそうな美少年である。


「くぅっ、お前らに話してる時間が勿体ねえ!オレは街に繰り出してナンパしてくる!!」

「カヨウ兄さんストップ、僕も行きます!ヒソラはどうする?」

「じゃあ俺も行くよ。ミカゲツ兄さんがまず声かけて次に俺が出るから、カヨウ兄さんは見てて」


 弟二人、ミカゲツ(お尻。美青年)とヒソラ(脚。美少年)にそう言われ、カヨウ(おっぱい。イケメンじゃない)は、わなわなと震える。


「オレをなめるんじゃねえ!!見てろよ女の一人や二人すぐに」

「すぐに、何だ?」


 カヨウ(おっぱい)の動きが止まった。いや、ミカゲツ(お尻)とヒソラ(脚)も同様である。


「レイシン、兄さん...」


 三人が喚いていた部屋の中にいつの間にかいたのは、紫がかった黒髪に切れ長黒目の、美青年であった。

 ミカゲツ(お尻)、ヒソラ(脚)によく似ているが、その顔は酷く冷たい。


「い、いや、違うんだって、オレはその...」

「カヨウ兄さんに無理矢理させられました」

「同じく」

「てめえらあああああ!!ミカゲツ、ヒソラあああああ!」


 カヨウ(おっぱい)が絶叫する。

 レイシン(怖いお兄さん)は、怒りに任せ叫んだ。


「全員同罪だ馬鹿者!!というか街に行って声をかける暇があるなら働けアホ共おおおおおお!!」








 ヴァースアックという名を知らぬ者はいない。

 ヴァースアックは泣く子も黙る、恐ろしい一族である。

 剣を極める者なら、一度は相手をしてみたいと願うだろう。

 噂しか知らぬ者なら、絶対に会いたくないと願うだろう。

 ヴァースアックは、剣の道を極める者達であり、冷酷であり、悪魔。敵に回った者には容赦をしない。

 ヴァースアック一族の者と相対した者は、まず圧倒的な力の差に絶望するだろう。そして、彼らの放つ凄まじい殺気の前に、動きを止められ、そのまま一瞬で命を刈り取られる。

 黒い悪魔。彼らの一番一般的な呼び名はそれだ。

 ヴァースアック一族の者は、ほとんどが黒髪であり、黒目だ。元々髪が黒でない者も染色して黒にすることが度々ある。夜の闇に紛れるには最適だ。

 しかしながら、彼らは、闇討ちや不意打ちといった真似を良しとしなかった。

 正々堂々と戦い、勝つ。彼らはそれを決して破らない。何故なら、彼らは圧倒的だからだ。正々堂々と戦っても不意打ちをして戦っても、どちらにしても勝つのだから、正々堂々と戦って気分良く勝った方がいいに決まっている、とはヴァースアックの初代、剣王と呼ばれた男の言葉である。

 ヴァースアック一族は、例外はあるが、剣を職とする者がほとんどだ。一族の当主となるのは、大抵が、初代の直系の子孫の、長男である。

 ヴァースアックに手を出した者は、一族に敵と見なされ、協力を得られなくなる。

 戦争に一族の者が加勢すれば、勝利するというジンクスがあり、様々な国から重宝されると同時に恐れられている。

 ヴァースアックは、いわば傭兵団のようなものだ。金を支払われれば動く。ヴァースアックに手を貸された兵士は勇気づけられ、敵となってしまった兵士は、戦意を喪失する。

 とはいえ、それは国同士の争いの場合だ。

 一般人ならば、よっぽどの命知らずか、自殺志願者でない限り、ヴァースアックに関わらない。それは世の中の常識である。

 故に、悪魔。

 関わってはならないもの。

 もし関わってヴァースアックの機嫌を損ねたら、必ず殺される。

 そう噂されている。

 しかしながら、ヴァースアック一族が暮らすその土地は今、非常に穏やかな時間が流れていた。





「...で?」

「で?って言っても、どうせ聞いてくれないくせに...」

「今何か言ったか」

「イエナニモ」


 おっぱいと叫んでいたちょっと強面の青年、カヨウは、屋敷の玄関の前、怖いお兄さんレイシンの前で、正座していた。カヨウの隣には仲良くミカゲツ(お尻)とヒソラ(脚)が並んでいる。

 レイシン(怖いお兄さん)は、竹刀を担ぎながらカヨウ達三人の弟の前をうろうろしている。超怖い。


「お前らアホ共に聞く、ヴァースアックの名前を汚す気があるのか、ないのか」

「そんなのある訳ねえじゃねえか!そもそもオレ達ただ盛り上がってお話してただけなんだぜ!?」

「そうですよレイシン兄さん!カヨウ兄さんはともかく、僕とヒソラはただ」


 ピシャッ!!


「黙れ」

「おお...いぇえ...」


 レイシン(怖いお兄さん)の竹刀が降り下ろされた音は、弟三人を黙らせるには十分だった。


「私はお前らが猥談していたことに怒っているんじゃない。お前らがちっっっとも働こうとしないことに怒っているんだ」

「いや、でも最近大規模な戦争とかないし?むしろいいことなんじゃないかなー、なんて...」

「そうですよ、家事は使用人がやってくれますし」

「俺達、手持ちぶさたでさ...」

「やるべき仕事は一杯あるだろうが!!」


 ピシャッ!!


「レイシン兄さんそれ止めてよ、怖いよ!」

「いいぞヒソラもっと言ってやれ!」

「レイシン兄さんはヒソラには若干、いやかなり微妙ですが甘いですからね、さあ行けヒソラ!」

「お前らちっとは反省しろっ!!」


 レイシン(怖いお兄さん)がブチギレて竹刀を叩き下ろす、その時。

 鈴を転がすような声が、レイシン(怖いお兄さん)の背後からした。


「カヨウお兄ちゃん、カイロウお兄ちゃんが呼んでるよー」

「しゃぁきたあっ!!ナイスキリカ!てな訳でグッバイレイシン兄さん、ミカゲツ、ヒソラ!」

「あの裏切り者あああああああ」

「...終わった...」


 ヒソラ(脚)は絶叫し、生け贄を失ったミカゲツ(お尻)は肩を落とした。

 レイシン(怖いお兄さん)は苦々しい顔で、喜び勇んで駆けていったカヨウ(おっぱい)を見送り、己の後ろにいる少女に声をかける。


「キリカ、カイロウ兄さんは何て?」

「よく分からないけど、カヨウお兄ちゃんじゃないと駄目なことだって」


 キリカと呼ばれた睫毛の長いぱっちり二重で青い目の美少女は、玄関から入ってくる風に銀色の髪をなびかせ、答えた。





「カイロウ兄さーん!その節はありがとう!おかげでオレは生き延びられたぜ!」

「...何の話だ?」


 雑多なその部屋にいるのは、正に悪魔であった。

 真っ黒な髪に、鋭く光る真っ黒な目。冷たい印象を与える顔立ち。その男はカヨウ(おっぱい)に少し似ていたが、人好きする顔のカヨウ(おっぱい)とは明らかに異なっていた。

 男を見た者は震え、許しを乞うだろう。

 その男こそ、ヴァースアック一族、前当主の長男であり現当主であるカイロウだ。


「ま、まあ気にしないでくれよ!それで、オレに話って?」

「この少女を探して、連れてきてくれ」


 渡された写真をじっくりと眺める。

 うおっ年の割におっぱいでかっ、などと考えながらカヨウは困った声を出した。


「こんな女の子連れてきてどうすんだよ。ヒソラの彼女にでもさせんのか?」

「いや...キリカと同じだ」

「ほー、なーる。てことは、オレ達の妹になるっつーことな?」

「そうだ」

「おっけーおっけー、オレにかかればらくしょーよ」

「これが、彼女の情報だ」


 一枚の紙を受け取り、カヨウはざっと目を通す。


「ふんふん、アリナっつーのな。年は15...お、キリカと同じか。分かったぜ、カイロウ兄さん。オレが責任を持って連れてくる」

「頼んだぞ」


 カヨウは紙をひらひらと揺らしながら、その部屋を出た。


 かくして、悪魔達に一人の妹が増えようとしていた。

 ヴァースアック一族現当主、前当主の長男、カイロウ。超怖い人。この人をキレさせたら色々と終わる。しかし短気な訳ではない。バツイチ。25歳。

 次男、レイシン。真面目かつ厳しい性格で、常に早足で行動し、日々ヴァースアック一族の為に身を削っている。23歳。

 三男カヨウ。自他共に認めるだらしない性格。しかし気安いので慕われている。歌がうまい。22歳。

 四男ミカゲツ。穏やかかつ温和。ただし己の好きなものを悪く言われると烈火の如く怒る。本気で怒ると怖い。19歳。

 五男ヒソラ。考え過ぎるタイプ。冷めてるように見られることが多い。悩みが多く、相談役には向いていない。16歳。

 長女キリカ。養子であり兄五人とは血の繋がりはないが、それがどうした。裏表のない性格で兄に対してよく「わあゲスだね!」と言う。15歳。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ