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イマノキ式異世界勇者シリーズ  作者: イマノキ・スギロウ
第一章 『召喚されし召喚士!』 
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第03話「下準備」

 ファレルがグリンエンド王国に召喚された次の日、ファレルはさっそく王国を救うための手を講じるためにミリアリスに頼んで魔導士長を呼んでもらい、準備に取り掛かり始めた。


「さて、じゃあこれから王宮魔導士のあんた達には俺の仕事を手伝ってもらう」


「一体なにをするつもりなんじゃ小僧?」


「安心しろじいさん。そんな難しいことじゃないから」


「き、貴様! 王宮魔導士長である儂に向かって!」


「あーもう、いちいちその反応めんどくさいなー、…わーたっよ、じゃあ魔導士長様、とりあえず今からこれを大量に作ってほしいんですけどよろしいですか?」


 ファレルはため息を吐きながら一枚の紙を取り出して魔導士長に見せた。


「…なんじゃこれは? ………ん、こ、これは! まさかこれを貴様が描いたのか!?」


「俺が冒険者と仕事してた時によく使ってた召喚陣だ。今回は時間がないから大分簡単に描いたけどそっちで使ってる召喚陣よりは術式を細かく書いてあるから書き直せば俺の目的以外でもそこそこ応用が利くはずだ」


「貴様、い、いやお主、こんな緻密な召喚陣を片手間で書いたと言うのか!?」


「緻密って、これよりすごい召喚陣や召喚法なんて俺の居たトコにならいくつもあったぞ、ここだと王家の魔導書に書いてあったような技術はどうしたんだよ?」


「この地の召喚魔法はかつて起こった大陸戦争の影響で使い手と知識のほとんどが失われてしまったのじゃ、今は口伝や魔導書によってわずかづつその当時の技術を復活させていっとるのが現状じゃ」


「………なるほど」


 魔導士長の答えにファレルは納得し、魔導士長もまた初めて見る召喚陣に心躍らせ嬉々として部下とともに召喚陣の量産作業に取り掛かった。


 それから2日後、召喚陣の大量生産が進む中、ファレルは別の準備を始めた。


「ミリアリス、この国の詳細な地図ってあるか?」


「はい、ございますよ。国境の戦況図でしたらすぐに、」


「あーそうじゃなくて、国境より手前の詳細な地図が良いんだけど…」


「国境の手前ですか? わ、分かりました、すぐに手配させます」


「頼むな、あ、あとその地図に載ってる土地に詳しい奴も何人か頼むよ、なるべく細かく知ってる奴を」


「はい、承りました」


 ファレルの頼みを今一つ理解しきれないミリアリスであったが、それでも彼女は「必要なことなのだろう」と考え、ファレルの要望通りに地図とその土地に詳しい地元出身の兵士を揃えてくれた。


「こちらの山は地図ではそうは見えませんが、ところどころ岩場が多く、谷のようになっている所もあります」

「…ふんふん、なるほど、じゃあこっちの河は深さはどれくらいだ? あと魚は居るのか?」


「そちらは…」


 兵士たちの話を統合してより詳細な地図を作り上げる作業は連日夜中まで及び、3日掛かってようやく終わりを迎えた。情報を聞き出された兵士たちはくたくたになっていたが、ファレルまったく疲れた様子を見せず、ぴんぴんしていた。


「よしと、じゃあ後はあれだけか…」


「あれってなんですかファレル様?」


「お、ミリアリス、ちょうどよかった。お前に頼みたい事があるんだけど、」


「頼みたいこと?」


 ミリアリスはまた地図や国内の情報を用意するのかと思っていたが、ファレルの口から出た言葉はそんなミリアリスの予想をはるかに超えるものだった。


「ファ、ファレル様、いくらなんでもそれは無理です。第一それは以前私たちもやろうとして失敗しております。なによりその手段を取るのには時間が…、」


「大丈夫だって、俺の方法ならあっという間だから」


「……その作戦、本当に成功するのですか?」


「俺だけじゃ無理だな、俺じゃお前以外の奴を信用させられないからな」


「ファ、ファレル様? それではまるで私はもうファレル様の言動をすべて信じているかのように聞こえますよ?」


「違うのか? 少なくともこの国の状況を包み隠さずに話したり、求めるべき時にきちんと助けてほしいって素直に言えるお前の事は信じるに値するって俺は思ってるけどな? そういう生き方が出来る奴はいい女になるぜ。俺が保証してやるよ」


「…………/// そ、その、こういう場合なんとお答えするのがよろしいのでしょう? ああ、よい言葉が思い浮かびません…、」


「どうしたミリアリス? 顔赤いだぞ?」


「うあ、ええと、その、み、見ないでください! 分かりました、なんとか手筈は整えますのであとで詳細を説明して下さい!!」


 絶叫気味の声を出しながらに廊下の彼方に走り去っていくミリアリスを見送ったファレルはそれとなく赤くなった顔の理由に察しがつきながらも内心に浮かんだ言葉を飲み込んでまだやり残している準備を終わらせるべく、魔導士長達の居る部屋へと向かって歩き出した。



 さらに数日後、準備が完了したとして会議の間に騎士団長と魔導士長、ミリアリスにファレルが集まり、今後のファレルの作戦が説明された。


 説明を聞き終わった後、それまでファレルの行動に懐疑的で眉間にしわを作りっぱなしだった騎士団長の顔が一層険しいものに変わり、ファレルの口から聞かされた作戦に抱いた疑問を自然と口にする。


「…まさか、そんなことが本当に可能なのか?」


「俺を誰だと思ってんだ? 召喚士だぞ? それくらいの事が出来ずにこの職業名乗れるか 第一もうすでにあんたらは実例を見てるじゃないか」


「し、しかしファレル殿、いくら貴殿が優れた召喚士でもさすがにその作戦は、」


 召喚陣を一緒に作成しているうちに召喚魔法についてファレルが知っている知識をいくつか教えてやると魔導士長の態度はすっかり変わり、いつの間にか呼び方まで変化していた。


「前に似たようなことを何回かやったことがあるから大丈夫だよ」


「ファレル様はこのような戦争を何度も経験されているのですか?」


「いーや、ただ冒険者の仕事してると貴族とかの依頼も受けるんだけど、そういうのに限って報酬を出し渋るからたまーに貴族相手で似たような事をしててな、今回はそれの応用だ」


「す、すごいんですね、ファレル様は、」


「別に、というかミリアリス、お前だって十分すごいだろ?」


「え? 私が? すごい?」


「王様もお妃様も亡くなってまだ小さい兄弟たちや国を守る為に一人で国の運営や敵国との交渉を続けるなんて並みの奴にはできねーよ」


「…そ、そんな、すごいだなんて、私はただ王族としての務めを果たしていただけで、でもでもファレル様がすごいって、きゃー!」


 ファレルの言葉に顔を赤くしてもじもじと一人自分の世界に入っている王女をほっといてそのままファレルは話を続ける。


「ま、とりあえず、俺に出来るのはこのくらいだ。戦争が終わった後はお前たちがどれだけ頑張れるかでこの国の命運は決まるぞ、いいか? あくまでも俺に出来るのは戦争を終わらせる手助けだけだからな?」


「「「・・・・・・」」」


 ファレルが真面目な口調でそういうと3人とも真剣な顔でファレルの顔を見て、数秒の沈黙ののち、全員が口を開いた。


「ええ、大丈夫ですファレル様、そこから先は私たちの仕事ですわ!」

「おう、お前が出来るって言うんなら俺もやってやろうじゃないか!」

「はい、後の事は我らにお任せくださいファレル殿!」

  

 その後、全員が明日の作戦に向けてあわただしく会議の間をあとにし、開戦以来敗色が濃厚で暗くなっていた城内が見違えるように活気を取り戻し、誰も彼もが明日の戦いに備えて準備に余念がなかった。

 そしてその日はのちの大陸史でワイドルト公国とグリンエンド王国間の戦争において戦局が一変した日と言われる日の前日の事だった。


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