第1章 ようこそ、はじまりへ
一人の、ある中年男性と思われる人物からの通報によって、今は使われていない建物の一室に死後5日以上は経っているであろう男の死体が発見された。男は、全身をガムテープで縛られており、動くことすらままならない状態であったとすいそくされた数日間過ごすことを余儀なくされたと推測された。糞尿は垂れ流し放題の状態、身体は完全に痩せ細っていた。おそらく、最期の、生ある最期の一瞬まで、男は飲み物、食べ物を求めていたのだろう。目はこれ以上ないほど見開かれており、唾液もだらしないほど流れていた。膀胱も開いていた。涙の痕も警察の捜査で認められた。とても辛く、これ以上ないほどの絶望を味わったのだろう。なぜ自分が、どうして自分がこんな目に、と。身動き一つできない状態で少なくとも5日以上は固定されたまま、うつ伏せで過ごすことを余儀なくされたのだろうと検視官からの報告があった。5日間。飲むことも食うことも、さらには動くことすらできない絶望の中。それなのに頭は考える、思考するという機能を失わないし、失えない。だからお腹が減ると感じてしまうし、喉が渇いたと脳がシナプスを送る。これでもか、というほどに。痛いほどに。そして男はさらにまた、喘ぎ、苦しみ抜いたのだろう。つめたい床が自らの体温を否応なしに奪って行く。近づく死という概念。この男は、何を思っていたのだろう。
そして、誰が信じるのだろうか。この男はかつて、魔女だったということを。もはや人としての形を維持していないそれを、どうして魔女であったと信じることができようか。しかし、確かに彼は、魔女だった。魔法という人ならざる秘術を使用することができた、魔女だった。それを聞いて、不思議に思う人間があるだろう。どうして魔法を使える人間が、こんなところで、ガムテープに縛られて飲まず食わずの状態になって発見されたのか。それを不思議に思う人が少なからずいるだろう。しかし、それでも彼は、魔女だったのだ。もちろん、ただの魔女ではない。彼も魔女になる前は、ただの人間だった。この地に生まれ立った時は、ただの人間だった。それが途中で、何かの力を受けて魔女となった。生まれながらの魔女ではなく、外部から何かしらの力を受けて魔女となった、後天的な魔女だった。彼は、とあるゲームを経てその魔女の地位を得た。そのゲームの過程において。しかし、彼は途中で敗れた。だからその彼の姿は、魔女の宴の凄惨さを物語るには充分なものだったのかもしれない。
Witch Hunt――。
それが、このゲームに与えられた名だった。8人の選ばれし人間から、たった一人の完全な魔女を選び出す、完全な場所を目指すための血で血を洗う華麗なる魔女たちの宴……。
―Witch Hunt― ウィッチ・ハント
Desire8 ―Repetition of the Optical illusion sensory― Pray for Fantasia
2月2日からスタートし、2月25日までに完結まで更新いたします。
基本的には1、2日に1更新です。
はじめの数話は数時間おきに更新する予定です。