掌編『ナイフ、コインランドリー、ゴミ袋』
月曜日の夜。
黒髪の美女と、赤い癖毛の男がいた。美女に詰め寄る男の手にはナイフが光っている。
火曜日の朝。
赤い癖毛の男がコインランドリーで、貧乏揺すりをしながら洗濯が終わるのを待っていた。目線は絶え間なく宙を泳いでいる。
「こんにちは」
男が住むアパートの部屋の、その真下の部屋に住んでいる小太りの女が声をかけた。
「絵でも描いてたんですか? その服、随分汚れていましたね」
水曜日の昼下がり。
「そういえば、一昨日かしら、上のほうが随分騒がしかったわ」
小太りの女に世話をされながら、白髪の老婆はそう話し始めた。
木曜日の夜明けごろ。
「いってきます」
すやすやと眠る小太りの女にそうささやくと、禿頭の男はネクタイを締め、今日がゴミ出しの日であることを確認すると、“402”と番号の書かれたドアを開けて、ゴミ袋とビジネスバッグを持って出社の路へついた。
深夜、日付が変わり金曜日になってまもなく。
「おかえりなさい」
小太りの女がチャイムを聞いてドアを開ける。
「ただいま。……今日、ゴミ置き場に変なものが置いてあってね」
禿頭の男が靴を脱ぎながら言った。
土曜日の正午。
“502”のドアをノックする禿頭の男と、その後ろに怪訝顔で立っている小太りの女。
日曜日。
通りにサイレンがこだました。