VOICEオタク
月日というものは、本当に経つのが早い。校庭の木々を見て、改めてそう実感する。春には花が咲き、そして、今は葉が青々と生い茂っている。時折蝉の声なんかも聞こえたりして、照りつける日差しが容赦なく僕に襲いかかってくる。
もうすっかり夏真っ盛りだ。
「いらっしゃいませ」
自動ドアを潜ると、店内からはアニメソングが聞こえてきた。確か、最近終わったばかりの学園ハーレムもののOPだった気がする。
相変わらず混雑した店内を、人にぶつからぬよう気をつけて歩いていると、曲が変わった。
今期から始まるファンタジー作品のEDだ。確か発売日は、来週の水曜日だったかな。もちろん予約済みだ。なんといっても、歌い手は蒼坂梨音その人だから。
相変わらず蒼坂さんの人気は凄まじいものだ。もうすぐ、全国を回る初ツアーも計画されている。今期のアニメの3分の1にもヒロインないし、主役級のキャラで出演しているし、今や押しも押されぬ人気声優の1人となっている。実際に、EDを歌っているだけあって、このアニメでもダブルヒロインの片割れを演じている。しっとりとした曲調が、世界観の壮大さや優雅さ、そしてヒロインの母性というか優しさを見事に醸し出している。
では、もう1人のヒロインは誰か。それは、今日僕がこの店にやって来た理由でもあった。
「あ……」
蒼坂さんの曲が終わり、次の曲がかかった。
相変わらず、僕の心を見事に鷲掴みにする澄み切った声だ。アップテンポなそのメロディは彼女の性格にぴったりで、思わずくすりと微笑まずにはいられない。
この役が決まったと電話で話をした時の彼女は本当に嬉しそうで。それでも、運が良かったとか、同じことを繰り返さないようにしなくちゃと、強がってみせる様はなんというか、もの凄く可愛かった。
「お、あった、あった」
蒼坂さんの歌うEDよりも1週間早く発売したOPが、大々的に棚に並べてある。その内の1枚を手に取り、レジに並んだ。
欲しいならあげようか、と言われたものの、僕は丁重に断った。
やっぱり好きなものである以上、自分のお金で買いたいと思うし、それになにより、彼女にははっきりと言ってしまったし。
例え、周りが非難だらけでも、僕は君のファンであり続ける、なんて。……ちょっと格好をつけ過ぎたかも。
でも、彼女が笑ってくれるなら、別にいいかと思った。それに、僕の本心はあの時からずっと変わらない。
彼女を知ったあの日から、僕はずっと十和瀬朱里のファンなのだから。




