繋がった絆
「奏真!」
ようやく体育館に姿を見せた僕を見つけ、康太が大きく手を上げる。自由観賞のため、席に関しては自由なのだが、ちゃっかりというか、さすがというか、隣の席を確保しておいてくれる康太の手腕に感謝する。
「悪い、遅くなった」
「大丈夫、大丈夫。今までは前座。俺も、気持ちよく爆睡してたしさ!」
欠伸交じりに返ってくる。お前、それ今までステージに上がってくれてた人達に聞かれたら、大変なことになるぞ。
「で?」
顔を引き締め、密かに耳打ちをされる。
「どうなんだよ。朱里ちゃんの方はさ?」
「ん、あぁ。もう大丈夫みたいだよ。期待できると思う」
「そっか。……やったな!」
僕の頭がくしゃくしゃと撫でられた。しかし、なにかを思い出したように、康太はハッと手を引っ込める。
「あ、悪い……」
文化祭の前、こんな些細なやり取りが、僕と康太を擦れ違わせることとなった。それを気にして、バツが悪くなったのだろう。
「……これで香川に怒られずに済むな?」
お返しだ。
康太のセットした髪の毛をぐしゃぐしゃにかき回してやる。呆気に取られた表情を見せていたものの、やがてどちらからともなく笑い合った。
「お、始まるみたいだな?」
「うん」
電気が消えて、一面が暗闇に包まれる。ざわざわとした喧騒も、それに伴って次第に消えていった。
数秒後、向かって右端から、スポットライトに照らされ、ステージ中央に置かれた椅子に向かって歩いていく十和瀬。そのまま椅子の隣に立つと、深々と頭を下げた。
開幕の拍手が起こる。
彼女は、椅子に腰かけると、手にしていた台本を膝に置き静かに開く。そして、ステージを見渡すように、ゆっくりと頭を動かすと、柔らかく微笑んだ。
そして、視線を台本へと落とし、そっと口を開いた。
あの頃の僕の心を鷲掴んだ、十和瀬朱里の澄み切った声が、体育館に響き渡った。




