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予期せぬトラブル

 遂に始まった文化祭。

 いつもと同じ、通い慣れた学校のはずなのに、どことなく雰囲気が違っている。それは飾り付けによるものなのか、それとも日頃の鬱憤を吹き飛ばすかのような生徒達の笑顔によるものなのか。

 ただ、馬鹿騒ぎをしている他のクラスと比べて、うちのクラスのテンションは遥かに低い。前日までに、飲食物を買い込み、簡素ながらも飾り付けを終え、各々が持ち寄ったフリーマーケットの目玉となる商品を並べたりと準備は万端。初日の客入りは順調、むしろ盛況と、あれだけ手を抜いていたとは思えない好調ぶりにもかかわらず、だ。

 それもそのはず。この出し物を提案した、言うならば立役者の十和瀬がこの場にいないからである。

 欠席の理由は風邪、ということであるが、どうにも腑に落ちない。なんとも嫌な予感がする。

 昨日、僕がパソコンで打ち直した台本(と呼べるかは若干怪しいもの)を手渡した時は、特に体調の悪そうな素振りは見られなかった。むしろ、本番に備えて、入念な練習を重ねると意気込んでいた程だ。まぁ、病気なんて、突然かかってしまうものだから、当然といえば当然だが、なにかが引っかかっている。

「なぁ、奏真……」

「ん?」

「朱里ちゃん、大丈夫かな?」

「……そうだな」

 接客がひと段落つき、賑わっていた教室内がやや落ち着きを取り戻した頃、紙皿を片付けていると、康太が辛辣そうに問いかけてきた。

「私からも連絡してみましたが……」

 携帯を握りしめた香川も同様に、浮かない表情を見せながらゆっくりと首を振った。

「僕も、何度か電話してみたんだけど繋がらないんだ」

「そうですね……。あ、でも、もしかしたら寝ているだけかもしれませんし、ね?」

 沈んでいく僕達を励ますように努めて明るい声音で続ける香川。

しかし、素直に同意することはできなかった。というのも、朝から昼過ぎの現在にかけて、3回程電話をかけた。その内の1回だけ、十和瀬に繋がったのだ。勿論、僕は体調を伺い、大丈夫かと尋ねた。

 だが、その答えとして返ってきたのは、ごめん、という短い謝罪の言葉のみだったから。その謝罪がなにを示しているのかは定かではない。以降、香川と同じように、ぱたりと連絡がつかなくなってしまった。

 あの言葉はどんな意味なのだろう。

「なぁ?」

 香川と康太、揃ってどんよりと落ち込んでいた矢先だった。片づけをしていたクラスメートの1人が僕の肩を叩き、教室の入り口を指し示した。

「遊月、お前にお客さんが来てるけど?」

「え、僕に?」

 そちらに顔を向ける。落ち着かなさそうに立っていたのは、いつか見た帽子を深くかぶった女の子。

「あ、蒼坂さん?」

 その正体に気づき、あわてて

駆け寄った僕を見て、ようやく安心したように微笑んだ蒼坂さんは、おずおずと口を開いた。

「ごめんなさい。忙しかった?」

「いや、大丈夫。それよりどうかしたの?」

 人気声優の彼女が、一体なんの用だろう。まさか、僕に会いに来てくれた、とか?

 いや、それにしては表情がどこか暗い。かろうじて笑みをつくっている、そんな感じだ。

「うん。その……朱里ちゃん、いる?」

 ひと通り教室内を見渡した後、一層表情を暗くした。蒼坂さんは、とぎこちない笑みで、僕に尋ねる。

「十和瀬? いや、体調が悪いとかで、今日は休みだけど……」

「そう……」

 その顔から笑みが消えた。

「ど、どうかしたの? とりあえず座って?」

 ただならぬ雰囲気に、さすがにまずいと判断し、教室内に彼女を招き入れ、チラリと目配せする。

「さぁさぁ、こっちこっち。いらっしゃいませー」

 長い付き合い故のおかげで、僕の意図を瞬時に察してくれた康太は、明るい声と共に、蒼坂さんを比較的人目につきにくい角の席へと案内してくれた。

「さて、それでは皆さん、午後からに備えて、私達は食事にしましょうか?」

 何事かと興味を示していた面々も、香川が纏めてくれる。普段は騒がしくしている皆も、今だけは状況を察してくれたようで、1人たりとも不満を漏らす者はいない。

「いらっしゃいませ、っていうのも今更変かな。あ、なにか飲む? コンビニで買ってきたものしかないけど」

 新しい紙コップに、クーラーボックスで冷やしていたオレンジジュースを注ぎ、蒼坂さんの前に置く。依然として、その顔は沈んだままだ。しばらく迷った後、そのまま向かい側の椅子を引き腰掛ける。

「ありがとう、気を遣わせてごめんなさい」

注がれたオレンジジュースを一口含み、ほっと息をつくと、ぺこりと頭を下げた。

「いいよ、気にしないで。それより、なにかあった……、んだよね?」

「やっぱり……わかる?」

「そりゃ、ね」

 なにもない人間が、開口一番に十和瀬の出席を確認し、いないとわかるや否や、そんな風に暗い表情を見せるわけがない。

「そっか。……実は、ね」

 蒼坂さんは、どこか気まずそうに数瞬視線を周囲に向け、切り出した。

「朱里ちゃんが休んだの、私のせいかもしれない……」

「え?」


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