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俺の初恋?  作者: 海来
2/6

運命の人

 ハンバーガーを口に押し込む俺を、オカン……いや、真衣がじっと見てんねんけど、こぼすなとか言いよんのかな?

「なぁ、あんた……私の運命の男やないかな?」

 あっあ~???? そんな事は絶対にあり得へんやろっ。俺ら、親子やで、って真衣は知らんのか……。

「なんで、いきなりそうなんねん」

「いきなりちゃう。さっき、あんたが膝枕しに私の膝の上にパッて出て来た時も、ウエストに腕をまきつけられた時も、お腹に顔を擦りつけられた時も、全然イヤやなかってん。それよりな、あんたに引っ付かれれば引っ付かれるほどな、なんか……自分が失くしてもたもんをな、取り戻した様な? なんか、安心できてんやん……これって、運命なんちゃうんかなって……アホらしいけど、思ってもてんやん」

 アホらしいて、そう思うんやったら言葉にすんなや。相変わらずやなっお前は。それに、自分が失くしたもんを取り戻したっ気がするちゅーのは、当たり前や。俺は、お前の腹から生まれたんやで。

 けど、ちょい待ち……俺、オカンのウエストに腕まき付けて、腹に顔擦りつけたんか? それじゃあ、小さい子ぉと一緒やん。あぁー、なんか情けななって来たわ。なんぼ夢ん中ちゅーてもな……オカン離れ出来てないちゅー証拠やんか……。俺は、オカン離れ出来てたはずやろ、子離れ出来てへんかったんは、オカンの方やないかっ。

「なぁ、何か言う事ないんか。これでも、告白してんねん。私と付き合わへん? 今なら、タイムサービスや」

 アホか……なにが告白や。何がタイムサービスや。面白くもなんともないわいっ。

「ありえねー」

 真衣の拳が、俺の鳩尾にしっかり入った。息がでけへんっ……。それでも、口の中のハンバーガーを出すのは惜しいやん、飲み込んだれっ。

「ゴックン……ゴホッゴホッ、お前っ何すんねんっボケッ」

「ボケはあんたや……私が今、どない気持か分かるん? 失恋やっ失恋」

 そらちゃうやろ。俺らは恋なんかしてへん。お前の勘違いなんやから。そうは言うものの、完全に気落ちしてる様子の真衣は気になる。俺のオカンのまんまやったら、そう気にならんけど……可愛いなった若いオカンの真衣が落ち込んでるのは、それも俺のせいなら、気になる。

「なぁ、真衣。俺ら、さっき会ったばっかやん。なっ? 真衣の事は可愛いっておもてるしな……でも、付きあうとか、そんなん早いやん……このままで、ええんちゃうか?」

 真衣は目に涙を溜めとる……むっちゃ可愛いわ。生意気な女が、俺の顔見て泣いてるって……何か、違う快感やな……っ……アホカー、こいつはオカンやねんぞ……なんか、俺、おかしくなってきたかも。

「このままでええ? 運命やったら、早いも遅いもないわ……あんたかて、潤太かて、私と同じに思った筈や……。いや……ちゃう、また、まちごうたんや……悲惨や……もう、立ち直られへん……」

 間違ったて……どう言う事やねん。

「まちごうたて……運命の男をまちごうた、ちゅう意味か?」

 真衣は、目の前のテーブルにほっぺをつけて項垂れた。

「そうや……この間も、まちごたんや……あの人は、私の運命の人やておもたのに……あの人が笑う顔見たら、絶対まちごうてへん思って……でも、あれから、一回も目ぇ合わへんねん」

 なに言うた?……今、俺に告ったその口で? いったい誰を好きなんや。好きなら何で別の男に付き合おうなんて言うねん。ホンマ何考えてるか分かれへんわっ。

「真衣? その好きな奴って、俺の時みたいに告ったんか?」

「告ったて何や?」

 告ったは、告ったやろ……もしかして、言葉通じへんのか? 確か、真衣は17歳言うてたな、オカンは47歳やったから、30年前か……それだと、言葉も通じへんのか? でも……これって夢ちゃうんか……夢なら、俺って相当リアル感を追求して夢見てんねんなぁ。

「告白したのかって意味やん」

「告白……してへん……勇気ないねん。潤太やったら、私が何言うても大丈夫な気がしてんけど。あの人は無理やねんな……受け入れてもらわれへんて、思ってまう」

「真衣を受け入れへん男ってどんな奴やねん。真衣が可哀想やないか。そいつがいらねーなら、俺がもろたるっ…………」

 俺、つい声に出してもたっ……。真衣がめっちゃ嬉しそうに笑ってるやんっ。

「嬉しいっ潤太。あんた最高やわ。女が言って欲しい言葉知ってるねんな。さっきから思っててん、潤太は優しいて、グットタイミングでいいこと言うてくれんねん……やっぱ、こんな彼氏やったら幸せなんやろなぁ」

 グットタイミングにいいこと言えんのは、お前のおかげやろ。女心を掴むコツとかぬかして、色々教えたんやから。自分が言って欲しいが為やて、後で気づいたけどな。オカンにはこっちが似合うし、可愛いで……オカン、大丈夫か……オカン俺が一緒におったろ……オカンが一番や……これでええんやろ。

「私な、誰かの初恋の人になりたかってん。絶対に忘れられへん様に、初恋の人がええねん。初恋やったら誰も忘れんやろ? でも、誰も私に初恋何かしてくれへん……初恋の相手は、可憐で儚げで可愛いって相場は決まっとる……」

 真衣の目尻からまた涙が流れ出た。

「真衣が泣きやむまで、此処に一緒にいたろな」

 真衣が涙をためたテーブルの上で頷いたら、涙の池が広がった。

「うん……ありがとう。ついでにな、キスしてくれたらもっと元気になるで」

 はぁ……それも、同じなんかい。


『私な、しんどいねんな。チューしてくれたら治るて思うんやけどなっ、ちょっとだけチューしてみいひんか? 潤太』

 

 俺は、絶対イヤやった。自分のオカンにチューってありえんやろ。気色悪いしなっ。でも、あん時、チューしてやったら、オカン、死なんかってんやろか? もっと生きとってくれたか? そんなこと思いながら、ほっぺにチュッってしたら、真衣は嬉しそうに目を閉じた。すっげー恥ずかしい。

「もっぺんして欲しいな」

 真衣が微笑みながら言った。すっげ恥ずいけど……でも、何回でもしたるわ。それで長生きしてくれんねやったら……したんで。だから、オカン……だから、死なんといて……。

 もう一回チュ~ってしたら、真衣が笑いだした。

「潤太って優しいなっ。でもな、あんたかなり注目の的になってんで」

 そう言われて、俺は初めて自分が何処で何をしたかに気付いた。ハンバーガー屋の中の客や店員が俺と真衣を食い入るように見てる。

 くっそーっ俺って、アホやん。何やってんねん……あぁ~ドキドキしてきた。きっと顔なんか真っ赤になってるんやろな……はよう、この店出なアカンっ。

「真衣っもう出ようやっ」

 俺の言葉に従うように、真っ赤な顔した真衣が頷いた。結構、真衣も恥ずかしかったんやて、今んなって思った。

「あ…………」

 小さな声を上げた真衣が、店の出口で足を止めた。真衣の視線の先に、スーツの男が座ってた。スッゲー冷たい視線で俺と真衣を見ていると思ったら、直ぐに視線を外して知らん顔した。

「誰? 知り合いか」

 真衣は何も答えんと、急いでドアから出て行った。俺は、その男に見覚えがあって、もう一度そいつを見た。

 なんで睨んでんねんっ。ものすっげー目つきで見んなやっ。むっちゃ腹立ってきたわ。

 こう見えて俺はケンカ強いねんゾっ。やってもたろかっ糞リーマン野郎。拳を握って見せて、挑発した。知らん顔してやがるし、動く気配はない。せやのに、なんやねんこのオッサン……あの動じない目つきに見覚えがある。


『俺はケンカはしたことないねん。そんな危ないことはせん。そっち方面はカーサンに任せとくわ』


 いきなり、オヤジの声が聞こえた。

「オヤジ……」

 そら見覚えあるはずや。あれは間違いない、俺のオヤジやねんから。若いなぁ……そら、オカンが17やったら、オヤジは23ってことか。確か、オヤジは大学いかんと今の会社に就職したちゅーとったな。間違いない……あのリーマンはオヤジや……。

 俺が、オヤジを見つめてると、ドアが開いて真衣が俺の袖を引っ張った。

「何してんねんっはよー出て来てやっ。あんなとこ見られて、それだけでも落ちこんでるのに……あんたケンカ吹っ掛けるようなことして何してんねんっ」

 俺はムカッときた。だってそうだろう、真衣がチューしてっていうからしたんや。それやのに……長生きしてほしい思って、スッゲー気持こめてチューしたんやぞっ。それを、お前はあんなとこっちゅーんかい。

「ああ? お前が頼んだからしたんや。俺に当たるなや。それに、オヤジ……いや、さっきのリーマン、誰やねん」

 真衣の顔が、真っ赤に染まって、その後、真っ青になった。

「運命やって間違ごうた人……あの人やねん。でも、相手にされへん……」

 さっき言ってた、間違ごうた運命の人て、オヤジやったんかいっ。間違ってへんやんか。あれは、お前の運命の人やで、俺のオヤジやねんから。そう言いそうになって、口をつぐんだ。いっちゃいけない気がしてん。

「あいつ、名前なんて言うんや?」

 真衣が首を振った。

「知らんねん……、この辺で、よく見かけるんや……いっつも冷たい目してんねんけどな。でも、笑ったらめちゃ可愛いねんでっ。あの人、絶対に優しい人やねん、私には分かるんや。きっと、犬や猫とか可愛がったりして、どんな人にも優しいんやで。それを隠してんねん」

 真衣の理想を聞きながら、間違いを指摘しそうになった。

 オヤジは基本、動物は好きや、でも面倒なことは嫌いやから世話はお前がすることになんねんで。それに、誰にでも優しい事もない。優しいのは、お前にだけや、俺らにだって優しなかったわ……結構、怖いねん、すぐ切れるし、怒るしな。

 でも、間違いなく、運命の人や。お前が死んでまうまで、お前だけを大事に思っててん。今からも、そうかもしれんけど……。

「真衣、あいつの事、想い続けたらええねん。いつか思いが通じるわ、な?」

 真衣がしらーっとした顔で俺を見てる。これは、人を馬鹿にした時のオカンの顔や。

「アホとちゃうか潤太。人間、想い続けるなんて無理なんや。明日には色んな事が待ってる。変わって行くんが人の心や」

 そう言った真衣は大きなため息をついた。この年から達観しとったんかい。でもな、俺のオカンはそんな事いわへんで、真衣。

「いいや、想いは通じる。想い続けなあかんねんて。心は変わるかも知れんけど、想いは変わらん。俺のオカンはそう言うとった。だから、俺にも想い続けろって……願いは必ずかなう……。真衣かてホンマは、変わらん想いがある思てるから、初恋にこだわってんのとちゃうか?」

 眉をぴくっと動かして、真衣は俺を睨んだ。

「あんたのオカン、いいこと言うやん」

 真衣は俺の背中を思いっきり叩いた。でもな、オカン。俺の願いは叶わんかった……お前は死んでもたやないか。あー、アカン涙腺緩んできよった。

 このままならマズイかもって想った瞬間、俺の腕が引っ張られた。

「こらー。お前だれやねん。人の女に手ェ出してんやないで」

 鼻がくっつきそうなほど近くに、生まれて初めて見るリーゼントのヤンキーがおる。またかよ、どっかで見た顔や。いきなりリーゼントが目の前から消えた。


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