観察日記1
サブタイトルに『観察日記』が付く場合、視点が侑斗になります。
文章中にある病や病状は架空のものです。実際に存在するものとは一切関係ありません。
姉が荷物を片付けていく様子を横目で見ていた。一週間前、病院で嘘をついたことに何故か罪悪感を感じ、話しかけられないでいた。
大きな荷物を持って歩く姉は、とても危なっかしい。
「明奈さん」
「なに?」
名前を呼べば、警戒した声で返事が返ってくる。4人でいる時間が増えるようになってから、姉は俺と母さんに対する壁を厚くした。
「重そうだから、手伝う」
荷物を持ってみると、思っていた以上の重量だった。
「大丈夫よ。自分で運べるわ」
「作業効率を考えれば、俺が運んだほうが速い」
「侑斗君だって、まだ片付け残っているでしょ」
「もう終わった」
「・・・分かったわ。その荷物だけお願い」
部屋の前に置いといて、そう言うと姉は次の荷物を取りに行ってしまった。
俺との会話を続けるつもりはないらしい。
片付けがすべて終わり、お茶をすることになった。俺と母さんが準備をしている間、柚樹さんと日傘の話をしていた。柚樹さんと話している間はとても楽しそうだ。
母さんと柚樹さんが話している間、ずっと黙っていた。何かに耐えるように。
カップをギュッと握った後、不自然なくらいに自然に笑って感情の読めない声で言った。
「疲れたので部屋に戻ります。お茶、美味しかったです」
そして返事を待たず、部屋へと戻っていった。
「ごめんね、遥香さん。2人での生活が長かったから、なれないみたいだ」
姉が姿を消した廊下を見つめながら、柚樹さんが笑った。苦笑と言ったほうが正しいだろうか。
「大丈夫。初めましてって言い合ってから、まだそんなに経っていないんだから仕方ないよ。少しづつなれていけばいいわ」
ね、そうでしょ。カップの中を見つめながら母さんも笑った。
「柚樹さん、先週明奈さんと病院で会ったんですがどこか悪いんですか?」
本人に聞いてもきっと答えてくれないから、ずるいとは思うが聞いてしまった。柚樹さんは困ったように溜息をついて、ゆっくりと話しだした。そのとき横目で見た母さんの表情は少し苦しそうだった。病院へ向かう俺を見るときと似た表情。
「少しずつ、体温が低くなっていく原因不明の病なんだ。人間の体温は低くても35度台だよね。でも明奈はそれを下回り始めている」
「・・・治療法はないんですか?」
「残念ながらね。体温調節を上手にできないから、運動は控えさせてる。いろいろと予防策を考えて実行はしているけど、いまいち効果が認められないんだ」
「明奈さんだけがその病気に?」
「いいや、違うよ。この病気でわかっていることは遺伝的なものだってこと。明奈の母親と祖母がこの病気で亡くなっている。2人の症状から、明奈にはある一定の体温以下になったら、入院することを約束させているんだ」
「あとどれ位の間、自由に動き回れるんですか?」
「進級できるか分からないらしいけど、正確な時期を僕は知らないんだ。・・・あぁ、どうしてって顔をしているね。明奈の主治医にね、聞いたことがあったんだけど、答えてくれなかったんだ。明奈が絶対に言うなって。言ったら、絶対にダメって言われたからって。患者の意志を1番に尊重する方だから、僕はもう聞かないことにしたんだ」
「信用なさっているんですね」
「どうかな。僕は明奈が信用しているから信用しているだけだよ。頼りない父親だけど明奈の思いは尊重してやれるからね」
すべてを教えてくれたわけではなさそうだが、自分のことを話していない俺にはこれ以上追求はできない。
「そうですか・・・。あの、教えてくださってありがとうございます」
どういたしまして、柚樹さんはそう言って笑った。
柚樹さんは何も言わないが・・・たぶん俺の病気のことを知っている。
もう治ったはずなのに、俺を苦しめ続ける病気のことを。
ますます侑斗君のキャラが定まらなくなっていく……。
頑張ります。




