自覚
文章中にある病は架空のものです。実際に存在するものとは一切関係ありません。
「柳川先生。わたし、死ぬのが怖くなってしまいました。覚悟していたはずなのに、どうしてでしょう」
「好きな人でも出来たのかな?」
おどけた様子でそんなことを言う先生。
けれど、わたしは何故か納得してしまった。
「そう、かもしれません」
「おや。どうしてそう思うんだい?」
先生は少し意外そうな顔をした。
「もっと一緒にいたいと、思うんです。それと……欲張ってもいいって言ってくれたんです。我慢が当たり前なわたしに、欲張ってもいいって」
「優しい子なんだね」
「はいとても。でも、この気持ちは気付かれないようにしないといけませんね」
わたしの話を笑顔で聞いてくれていた柳川先生の表情が険しくなる。
「それは明奈ちゃんが自分自身のためにすることかい?」
「どうでしょうか……わたしのためであり、彼のためだと思います」
「今の話の流れからこんなことをいうのはとても残酷かもしれないけど、明奈ちゃん。君は」
「もう、永くない。ですよね?分かっています」
膝の上に置いた手に力が加わる。爪が手のひらに食い込んでいる気がするけれど、そんなことどうでもいい。
「……自覚症状があるのかい?」
「ずっとではないんですが、目が霞むんです」
「君のお父さんから聞いた、お母さんの症状と同じだ。目が霞むようになったのはいつ頃かな?」
「一週間前、体温が34.5度を超えなくなった日からです」
考えこむような仕草のあと、先生は真剣な表情で言った。
「本当に残酷な話だ。余命を言わなければいけないかもしれない」
わたしは小さく頷く。




