観察日記4
「あー……両方っていうか、田中が2人とも来るんだけど一緒に勉強しないか?」
俺の誘いに明奈は即答でOKを出した。
「いいわよ。じゃあ悠斗も呼ぼうかしら」
俺的に呼びたくなかった奴も来ることになってしまったが。
「「「お邪魔します」」」
3人が家に来たのは昼過ぎだった。明奈が出迎え、俺はリビングで待機。
駒野には俺が弟になったことを伝えてないらしく、今日を機会にして言うと明奈は言っていた。
「はあ?!」
駒野の驚いたような大きな声が聞こえてきた。どうやら言ったらしい。それにしても、
「うるさいな」
声が大きい。
「リビングが一番広いからここで勉強しましょう」
明奈の意見でリビングの机に教科書や参考書が並んだ。
「さっき言ってた公式をここに当てはめればいい?」
「そうよ。ああ、でも問題文をちゃんと読んでね」
「ん」
田中(兄)は『やればできる子』らしく、参考書をひと通り読むと幾つか明奈や俺に質問をするだけでスラスラと問題を解いていった。
明奈が言っていたが、授業中はいつも寝ていて授業を真面目に受けている姿を見たことないらしい。
「あー本当面倒くさい」
面倒くさいと言いつつ手は動き続けている田中(弟)。同じクラスだから分かるが、コイツは天才と呼ばれる類の人間だ。授業を一度聞けば全て理解する。
「分かんねえ……あれおかしいぜ。習った覚えがない」
「習ったわよ悠斗。教科書読み直しなさい」
「うおー」
駒野は勉強が苦手らしい。
問題を見てずっと唸っている。
「田中」
「何?」「何~?」
弟の方を呼んだつもりが2人とも反応してしまった。
「…………」
「…………」「…………」
沈黙が流れる。
「今更な気もするけどさ、なんで田中のこと下の名前で呼ばないわけ?」
西東にいた頃も双子は居たけど、下の名前で呼ばれていた気がする。
「そう言われてみると確かに。2人は名前で呼ばれるの嫌?」
俺と明奈の言葉に田中(兄)と田中(弟)は顔を見合わせた。
「別に嫌とかじゃない」
「ただ呼ばれないだけ」
「中学ん時も下の名前で呼ばれてなかったよなーお前ら」
駒野が参考書から目を離さず呟く。
「嫌じゃないなら名前で呼ぶぞ?」
「わたしもそうしようかしら」
「「おっけい」」
無表情に2人は親指を立てた。
「朱紫君、ここはことわざだから言い換えてから訳すといいと思うわ。『医者よ、自らを癒やせ』つまり?」
「『Physician,heal thyself.』ってことか」
田中(兄)、本名・田中朱紫。
「旺貴ここの公式分かるか?」
「あーうん。そこは確かー」
田中(弟)、本名・田中旺貴。
なんとも高貴なお名前に笑ってしまった。
まあ笑うだけじゃなくて、実際呼んでみると田中は双子で容姿や性格も似てるけど違う人間なんだと実感したんだけど。
「ふと思ったんだが、明奈は人と関わることを避けていたとはいえ、人と関わること自体は嫌いじゃないんだな」
3人が帰って静かになったリビングで明奈にそんなことを言ったら、驚いた顔をされた。
「自分じゃよく分からないわ」
「良かったな朱紫、旺貴」
帰り道で悠斗がポツリと呟いた。
何が、とは聞かず朱紫と旺貴は頷いた。
それぞれが個々に見られることは珍しい。それを壁を感じていながらもつるんできて、最近ではその壁を感じさせなくなった明奈と、出会ったばかりだけれど気の合う侑斗にしてもらえたのだ。
「駒野に名前呼ばれたの、」
「中学以来だ」
嬉しくないわけがない。
「そうだっけか?」
あまり表情の多くない2人に小さな笑顔が浮かんだ。
朱紫という名前は「紫の朱を奪う」から。
似て非なるもののたとえだそうです。




