約束
「 」
「………………」
テレビの音はまるで耳に入ってこない。
『それは、他に何も考えなくていい状況になるなら何でもいいって。俺と過ごす時間でなくてもいいって。つまりそういうことか?』
違うよ侑斗君。
でも、わたしは否定出来なかった。
だって、今までのわたしはそうだったから。父さんと過ごす時間、わたしは何も考えなくてよかったのだから。
『意味、分かんねえし……』
何が分からないのか分からない。理解と納得が追いつかない。もしかしたら侑斗君もそうなのかな。だったら、何て悲しくて虚しい。わたしと侑斗君の思いは同じなのに、交わらないじゃないか。
「………………」
何だか身体が重い。もう、何もかもがどうでもいい。
「この、まま……」
このまま目が覚めなければ、わたしは幸せになれるのかな。
「……な。…………きな……おい!明奈!」
「ぅあ……あ、れ……?な、に?」
名前を呼ばれて、ゆっくりと目を開けるとボンヤリと侑斗君の顔が見えてくる。ひどく焦っているように見えるけれど、何故?
「何、じゃねーよ。今日体調悪かったのか?そういうことは先に言えよな」
身体の倦怠感。思うように身体が動かない。どうやらわたしは気を失っていたらしい。
時計を見ると長針が記憶よりも1つ、短針が4つほど先の数字を指していた。日も沈みかけている。
「ん……体調はむしろ良かったはずなんだけど」
「聞きたいことが……あるわ」
身体は上手く動かないが、口は自分のものではないみたいに言葉を発する。
「……?なんだ?」
「わたしの病気のこと、父さんから聞いた?」
「!……ああ。この家に引っ越してきたばかりのときに、な。悪い。話を聞いたこと言わないといけないとは思ったんだが……言えなかった。本当にごめん」
やっぱり。
それにしても頭はしっかりと働いていると思う。とても冷静だ。不思議なくらいに。
「謝らないで。一緒に暮らすことを受け入れたいと思ったときにわたしの口からちゃんと話すべきだったのよ。嘘をつかないでくれてありがとう。少し前にね……父さんに、侑斗君には話してないよねって聞いたら「うん」って言われたの。嘘だってすぐ分かった。優しいけど悲しい嘘。少しだけ悔しかったの」
「そう、なのか」
「わたしも嘘、というか秘密にしていることがあるけれどね……それでも事実を言って欲しかった。ああ。もう、嫌になるわ」
日に日に欲張りになっていく自分に嫌気がさす。
「俺は明奈に嘘をつかない。約束する。だから、自分のこと欲張りだとか考えないでもっと欲を出せ。今まで我慢してきたんだろ?だったら、欲張ることを自分に許してやれよ」
そんなわたしの思いを理解してか、侑斗君はわたしの頭を撫でながら言った。そして小指をわたしに差し出した。
涙がこみ上げるのを感じた。目尻に熱が集まる。震える手をゆっくりと侑斗君の手に近づける。
「指切り、拳万」
小指と小指が絡みあうと、侑斗君は小さな声で『ゆびきりげんまん』を歌い出した。
「嘘ついたら針千本飲ます」
「「指切った」」
小指が離れていく。同時に涙が溢れ出た。
「……ありが、とう」
意識は再び深く沈んだ。
「寝ちまった……?まあ、さっきみたいに顔色悪くないみたいだし大丈夫そうだな」
このあと目が覚めると自分の部屋だった。
侑斗君にお礼を言わなければ。そう思ったあと、また寝てしまったようで次に起きたのは翌日の朝だった。




