観察日記3
「講堂に行くので整列して下さい」
「……めんどくせぇ」
講堂で行われるのは、前の学校では理事長の話が長く、面倒でしかなかった終業式。
「夏休みだからといって気を緩めて生活しないようにしてください。また、事故等に巻き込まれないよう、十分に気をつけましょう。えー、はい。校長の話を終わります」
黒髪に白髪の混じり始めた校長が早々に壇上を降りようとする。随分と適当な人だ。
「校長先生!もう少しお話いただかないと……」
「まあまあ。生活指導の先生やらがお話するでしょう。同じようなことを何度も言われたら、生徒も飽きてしまいますよ」
若い教頭が校長を止めるが、生徒から支持される理由が伺える発言をして壇上を降りきってしまう。
校長の話の流れからか、他の教師の話も短く終業式は呆気無く終わった。
「超楽じゃねぇか」
そう呟くと、出席番号が後ろの田中(弟)に「何が?」と聞かれた。小さい声で言ったはずなんだが、聞こえていたのか。
「終業式ってもっと話が長いもんだと思ってたからさ」
「この学校は教師の話が短いんだ。校長が面倒くさがりだからな。周りもなんとなく短くしないといけない雰囲気になってる」
田中は無表情に喋る。
「前の学校は校長、っていうか理事長の話が長かったから余計短く感じた」
「私立西東学園、だっけ?」
あの金持ちばかりの、と付け加える田中。別に金持ちじゃない奴もいるぞ。俺とか。
「ああ。西東は堅っ苦しかったから桜ヶ丘に来て良かったよ」
「へぇ。なんかそれ、嫌味に聞こえるな。西東に行けなかった奴からしたら癇に障るだろうよ」
無表情だから、感情が読めない。何を思って言葉を発しているのか。
「悪い」
「別に謝ってほしいわけじゃないんだけど。まあいいや」
「いいのか?」
「うん。嫌味には聞こえたけど、榊はわざわざ嫌味を言う奴に見えないから。無意識にでた言葉はある意味、嘘がなくていい」
「田中ってよく分からない奴だな」
「良い奴の間違えだろ」
「……そうだな」
「あ、兄だ」
教室の手前で田中(弟)が田中(兄)を発見し指さした。
「侑斗君、朝ぶりね」
「そうだな」
背の高い田中(兄)に隠れて見えなかったようで、明奈も彼の隣にいた。身体を少し傾けてこちらに手を振る。
「朝ぶりだな弟」
「そうだな兄」
相変わらずの無表情で2人は挨拶を交わした。終業式だけあって、校則通りの格好をしているためどっちがどっちかよく分からない。とりあえず、俺の隣にいるのが弟で明奈の隣にいるのが兄か。
「ふふっ。名前で呼び合えばいいのに、兄、弟って」
明奈は手を口に当てて、こらえるようにして笑った。
「髙林、笑うな」「笑うな、髙林」
「微妙なシンクロね。どうせなら統一してよ」
「「微妙とか言うな」」
無表情で同じように突っ込む姿に、俺も吹き出してしまう。
姉弟で大爆笑し、双子の兄弟に呆れられてしまった。
明奈の命の時間制限にも気が付かず笑っていたこのときが一番幸せだったのかもしれない。




