夏休み前
「もう少しで夏休みですが、気を引き締めて授業に集中してくださいね」
あーちゃんの一言にクラス全体が「えー」という声を上げた。冷房の効いた室内とはいえ、体はダルイ。もう少しで夏休みということもあって、みんなダラダラとしている。
「髙林、英語のノート写させて~」
「夏休み前から宿題写そうなんていい度胸してるじゃない、悠斗」
「だって~……イギリスじゃこんなに面倒な英語話さねえよ」
悠斗は小学校6年生までは、母親の実家があるイギリスに居たため英語は話せる。だけど、日本で地方ごとに方言があるようにその地域独特の英語だから苦労しているのだ。
「日本に来て、4年近く経ってるのにまだそんなこと言っているの?」
「だって~……」
下を向いてしまう悠斗。
「分かったわよ。ノートは貸すわ。ちゃんと中身も確認しなさいよ」
頭を英語のノートでポンと叩くと、キラキラとした笑顔でこちらを見た。
「うおぉぉお!ありがと高林!!」
「どういたしまして」
「髙林さ~ん」
放課後、一緒に帰るため侑斗君を待っていると、あーちゃんがわたしの名前を呼んだ。
「あーちゃん?」
「良かった、まだ帰ってなかったんですね。少しお話があるのですがいいですか?」
お話、か。たぶん病気のことだよなぁ……。
「はい。大丈夫です」
……別に1人で帰ってもいいよね。侑斗君と帰るのは今日は諦めよう。
「単刀直入に聞きますね。前回聞いたときから1ヶ月経ちましたが、病気の進行はどうですか?」
担任として、問題はどうにかしないといけないんだろうな。
「…………そろそろ、学校に来るのが難しくなるかもしれません。体調は、むしろ良い方なんですが、体温は下がるばかりです」
「病院の先生は何と仰っているのですか?」
「夏休み明けは学校に行けないだろう、と」
自分のことなのに、どうしてこんなにも冷静に喋られるのだろう。
いつもそうだ。学校にはずっと行きたい。勉強することは嫌いじゃないから。なのに、学校に居られる期間が短くなったことを報告するとき、こんなにも淡々と話す。
「そう、ですか……」
眉が寄って、怒っているみたいな顔をするあーちゃん。何故?
「体育祭と文化祭は、体調が良ければ許可を先生に頂いて来たいんですが、いいですか?」
父さんに聞いておくように言われていたことを聞く。別に、わたしが体育祭や文化祭に参加したいと言い出したわけではない。……参加したくないわけじゃ、ないのだけど。
「はい。もちろんです」
眉間からシワがなくなって、笑顔になる。ころころと変わる表情にどんな意味があるのだろう。




