クッキー
「明奈ちゃん。一緒にクッキー作らない?」
始まりは、遥香さんの一言。
「はぁ」
曖昧な返事をしたのが間違いだったのかもしれない。
でも、この出来事がなければわたしは気がつけなかっただろう。
「柚樹さんの好きな種類を作ろうと思うのだけど、いい?」
「おっけーです」
早速材料を冷蔵庫から取り出し調理を始める遥香さん。
父さんの好きな種類って……どれだ?基本的になんでも「おいしい」「この味好きだなぁ」と言って食べるから判断しにくい。……遥香さんは何を作る気なのだろう。
出ている材料を見てみる。
もしかして……。
「あの、遥香さん。もしかしてナッツ入りのクッキー作る気ですか?」
「えぇ、そうよ」
え、笑顔で返された……。
というか、父さんナッツ好きなのかな?
「父さんてナッツ好きなんですか?」
「好きって言ってたわよ?初めてデートした時にナッツクッキー持って行ったらとても喜んでくれたわ。これ好きなんだ~って」
「……そう、ですか」
「どうかしたの?」
「いえ、なんでもないです。とびきり美味しいクッキーを作りましょうね」
「えぇ。もちろん」
父さんといるときに、ナッツを食べないといけないときはなかった。だから父さんがナッツ好きなんて知らなかった。嫌いなものを隠すために、父さんの好きなものを知らないでいたなんて……。
本当に、馬鹿。
ナッツを見つめていると、なんだか悲しくなってきた。
「よし。混ぜ終わったわ。少し冷蔵庫に入れて休ませましょうか。……明奈ちゃん?」
「あ、すいません。ボーッとしてました」
「そんなことはいいのよ。どうしたの?」
心配そうにわたしの顔を見つめる遥香さん。
なんで?
「泣いてるじゃない」
「え……?」
遥香さんの言葉に驚き、そっと頬に触れる。
どうして気が付かなかったのか分からない。
わたしは泣いていた。
「どう、して……?」
どうして涙なんか出るの?




