アイス
夏。
湿度も室温もともに高く、汗でまとわりつく髪の毛が鬱陶しい季節。
とは言っても、その暑さはわたしには関係ない。温度調節をしっかりとした部屋の中でくつろいでいるのだから。
暑いのは体によくない。
「侑斗君、アイス取って」
「自分で取れよ……あぁ、はいはい。取るからそんな目で見んな」
呆れ顔の侑斗君はソファーから立ち上がると棒アイスを冷凍庫から取り出して、わたしに投げつけた。
「ねぇ、半分個しよ」
「は?」
「一個も食べたらお腹冷える……」
「…………」
だったら食うなよという侑斗君の心の声が聞こえてくるけど気にしない。
「…………」
根負けしなければ侑斗君はこういうわがままを聞いてくれる、はず。
「はぁ……。分かったよ。どうやって半分にするんだ?」
わたしの勝ち。わがままを聞いてもらえる。
「わたしが先に食べて、侑斗君が後から食べる。という訳でいただきます」
「は?え、いや。ちょ、待て明奈。それは」
「ふぉえっえあい?(それってなに?)」
「何でもねえよ……」
口の中にアイスが入ってたから上手く喋れなかったけど理解してもらえた。
順調に半分を食べ、溶けて流れた部分を手ですくってから侑斗君に渡す。
「食べるのは構わないけど、棒アイスじゃなくてカップにしてくれね?」
「えー」
「カップアイス嫌いなのか?」
「全然そんな事ない。別にいいよ。次からカップにする」
「いいならいいって最初から言ってくれよ……」
「善処するわね」
わたしの言葉に侑斗君は溜息をつき、「まったく」と言いつつ残り半分のアイスを食べ始めた。
少しずつでいいから受け入れようと思ったら、それは案外簡単にできた。侑斗君と遥香さんが優しすぎて、壁を厚くして2人から逃げていた自分が恥ずかしくなったからかもしれない。
ただ、遥香さんを『母さん』とは呼べそうにない。と言うよりも、『母さん』と呼ぶ必要性を全く感じないのだ。
わたしはまだ知らない。この時から芽生え始めた愛しくも悲しい感情が、自分の中にあることを。
とうの昔に覚悟したはずの死に恐れるなんて、そんなのありえないと思ってた。
アイスみたいに少しの温度の変化で溶けてしまうほどわたしの心は脆くない筈だったから。




