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LOVED  作者: やかん
10/24

観察日記2

今回は長めです。

 

「今日の放課後開けておいて欲しいって、明奈に伝えてくれる?」

「……は?」


 朝、明奈さんが登校した後に携帯で連絡すればいいのに柚樹さんは俺に伝言を頼んだ。

「じゃあ、よろしく。ちゃんと伝えてね」

 それだけを言って笑顔で出社していった。

「優しい顔して実はSだろ。ふざけんな」

 なんて言えるわけもなく俺は誰に言うでもなく「分かりました」と呟いた。


 予想は俺を裏切らない。姉は思っていたよりは嫌そうな顔をしなかったが、「どうしてここにいるんだ」という心の声が伝わってきた。

 俺の声に驚いて飛び退いた生徒を助けず、無表情に追い討ちをかけた姉の姿には少し焦った。

 姉にも、俺の声に驚いた生徒にも、いろいろと申し訳なくて俺は用件だけを伝えて、すぐに教室へと戻った。


 転校初日。1時間目は生物、3時間目は理数数学、4時間目は地理、5時間目は体育。6時間目は国語。2時間目は何だったか。

 一番記憶に残ったのは5時間目の体育だ。姉のいるクラスと合同でしかも男女合同。姉の嫌そうな顔が容易に思い出せる。あと、少しだけ開いてくれた心もすぐに思い出せる。


 5時間目、体育。


 諸事情により体育は見学することになっている俺は他の人達が走っていく姿を見てなんとも言えない気持ちでいた。

「榊ー、見学するなら髙林の手伝いしてやれ。ついでにクラスメートの名前覚えろ」

 更にその気持ちを下げさせる言葉に溜息をつきそうになった。我慢だ……。

「分かりました」

 呆然とした表情の姉の元へ行き、「よろしくお願いします」と言って隣へ座った。

 沈黙が続く。

「…………」

「…………」

「………………」

「………………ねぇ」

 沈黙を破ったのは姉だった。

「何か?」

「どうして体育を見学するの?」

「柚樹さんから聞いてないのか?」

 柚樹さんが話していないことを知っているがあえて、聞いてみた。

「父さんに?……聞いてないわ」

 首を小さく傾げた。少し眉を寄せて考えるような表情をする。

「俺、小さい頃心臓の病気だったんだ。手術して良くなった。けど、」

「…………」

 姉は俺の方を見て、話をちゃんと聞いてくれていた。少し、意外だ。

「運動は禁止されてる。治ったはずなのに、おかしいだろ?」

 体育を見学する理由だけを言うつもりが自虐的な言葉を言ってしまった。どうしてだろう。

「……言いづらいことだったでしょ。教えてくれてありがとう」

 どうでもいいと言われると思ってた。何も言わなくても、顔にどうでもいいという感情が浮かぶと思っていた。だが、姉は話を聞いている間も聞き終わった後も真剣だった。

「いや、別に……どうして、「そろそろ先頭が戻ってくるぞー」……」

「はい」

 どうして見学しているんだ。その問は原先生によって遮られた。柚樹さんからは教えてもらったが、本人に教えてもらいたいと思った。でも、今は話をしている暇はないらしい。

 姉はゆっくりと立ち上がると原先生の隣に立ち記録を取る準備を始めた。

 俺も自分の役割を果たさなければ。まずは、クラスメートの顔と名前を覚えようか。


「一番手は駒野だー。9分58」

 見覚えのある金髪。あぁ、今朝姉に背中を押されていた人だ。

 運動神経よかったのか……。

「お疲れ様、悠斗」

「おぅ……うー、疲れたぁー」

 駒野はそのままバタリと倒れ込んだ。

「田中ー。5分5」

「田中ってどっちの田中です?」

「弟のほうだ」

 田中と呼ばれた男子生徒は双子らしい。

 後ろから同じ顔が向かってきている。先にゴールしたほうの田中も後ろの田中も無表情だ。

「怖い……なんだこの威圧感……」

 本音が出てしまった。姉はそれが聞こえていたようで、俺の方を見て笑った。たぶん無意識。

「ふふっ。なにそれ」

「同じ顔が後ろからってシュールだと思う」

「だよねぇ……ぅあ」

 普通に話していることに気がついた姉は気まずそうに視線を前へ戻した。

「次も田中。5分20」

「はい……えと、田中君は弟のほうが侑斗君と同じクラスよ」

「なるほど。区別できるように努力します」

「制服着てる時は違うコーディネートだから分かりやすいと思うわ」

「へぇ。あとで見てみるか」

 









 放課後。家に帰ろうと廊下へ出ると、姉が俺を待っていた。

「……一緒に帰らない?」

「…………」

 なんて返したらいいか分からず俺は2回頷いた。



 2人で歩いている間沈黙が続いたが、今回も姉がそれを破った。

「……今のところわたしは遥香さんと侑斗君を受け入れるつもりはないわ。だって、父さんと2人で今まで過ごしてきたから。でも、少しずつでいいなら受け入れていきたい。と思う、よ」

「!!……ありがとう。明奈さん」

「名前、呼び捨てでいい。わたしが姉っていってもたいして変わらないし。侑斗君、さん付けして呼ぶ割にそれ以外は普通に話してる」

 受け入れようとしてくれている姉。

 俺はどう答えていくべきなのだろう。

「面倒だったから助かる」

「面倒って何よ」

 俺に向けられた笑顔。

 どうしてそんなにきれいに笑えるんだろう。

「面倒っていうのは、煩わしいってことだろ」

「意味を聞いてるわけじゃないわ」





 この人に笑っていてほしい。

 俺はその時本当にそう思ったんだ。

たぶんですが、次話で少し時間がとびます。

ここまでは初夏をイメージして書いていましたが、夏本番になると思います。

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