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放課後、空き教室の3センチ  作者: 三日月
第二部:①過保護な妹たちと甘すぎる秘密の条約
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第五十話:沈黙の図書室と、解かれぬ絆

私立蒼雲高校の図書室、大型図鑑が並ぶ暗がりの極小スペース。


壁と本棚の狭間に閉じ込められた俺と涼風瑠愛(すずかぜるあ)の距離は、完全に零(ゼロ)センチだった。


「……ん……っ……」


目の前で、瑠愛は俺の学ラン(制服)の襟元に顔を埋め、昨晩から今朝にかけて幾度も重ねてきた痕跡(キスマーク)の上へ、さらに深く、熱く、愛を貪るように唇(くちびる)を押し当てていた。


湿り気を帯びた熱い吐息(といき)が俺の首筋(くびすじ)を濡らし、脳髄を直接痺れさせるような甘い感覚(かんかく)が全身を駆け巡る。


だが、俺の背筋(せすじ)を走っていたのは快感だけではない。冷や汗が怒涛のように噴き出していた。


なぜなら――


「おかしいわね……。やっぱり、この本棚の奥からかすかに甘いシャンプーの匂いがするのよ……」


すぐ隣の通路、距離にしてわずか数十センチの場所で、長女の愛陸(あいり)が足を止め、クンクンと鼻を鳴らしていたからだ。


(っ……! やばい、やばいやばいやばい……!!)


俺は必死で息を殺し、瑠愛の華奢な肩(かた)を掴んで制止しようとした。


だが、学園の「氷の姫君(こおりのひめぎみ)」たる彼女は、妹が目と鼻の先にいるという異常な恐怖と緊張感の中で、むしろ恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべていた。


瑠愛は琥珀色(こはくいろ)の瞳(ひとみ)を潤ませ、萌え袖(そで)の手で俺の首元を優しく抱え込むと、耳元へ唇(くちびる)を近づけて極小の声で囁いた。


「……黒木くん……。声……我慢してね……? もし声を漏らしたら……妹さんに見つかっちゃうから……」


(お前がそんなことするからだろうが……!!)


声に出せない叫びを心の中で上げながら、俺は歯を食いしばった。


瑠愛の萌え袖の手が、俺の喉仏(のどぼとけ)から鎖骨にかけて、ゆっくりとなぞるように滑り落ちていく。服越しに伝わる彼女の柔らかい胸元(むなもと)の体温(たいおん)と、鼓動の早まり。


「愛陸姉ぇ! あっちのラノベコーナーにはいなかったよ!」


遠くから次女の愛空(あいら)の声が響いた。


「嘘でしょ!? 『お兄ちゃんセンサー』は絶対にこの図書室を指してるのに!」


「ちょっと愛空、大声出さないの! 図書委員さんに怒られるでしょ!」


愛陸の注意する声とともに、カツン、カツンと靴底の音が少しずつ本棚から離れていく。


(た、助かった……のか……!?)


俺が胸を撫で下ろそうとした、その瞬間――。


「……ねぇ、愛陸姉ぇ」


ピタリと足音が止まり、愛空の鋭い(ふるい)声が図書室の静寂を切り裂いた。


「あそこの大型図鑑の棚の陰……なんだか影が二重になってない……?」


(ひっ……!?)


心臓が跳ね上がった。


愛空の「お兄ちゃん捜索能力」は伊達ではない。本棚の隙間から漏れるわずかな影の違和感に気づいたのだ。


「え? 影……? どれよ」


「ほら、あそこの『世界大百科事典』の裏側! 誰かが二人でぎゅっと密着して隠れてるみたいな影が落っこちてるよ!」


「ちょっと、見に行ってみましょう!」


バタバタバタッ!!と、二人の激しい足音が再び俺たちの隠れ場所へと迫ってくる。


(もう終わりだ……! ここで抱き合ってるのを見られたら、言い訳なんて絶対に通じない……!)


俺は覚悟を決め、瑠愛を庇うように自分の背中で包み込もうとした。


しかし、瑠愛の行動は俺の想像を遥かに超えていた。


「……黒木くん、私に任せて」


瑠愛は可憐に微笑むと、萌え袖の手で俺の胸を軽く押し、本棚の最も深い闇の中へと俺を引っ込ませた。そして彼女自身は、すっと一本通路へ躍り出たのだ。


「……あら。静かにしていただけかしら。図書室は騒ぐ場所ではないわよ」


凜とした、澄み渡る氷のような声。


通路へ足を踏み入れかけた愛陸と愛空が、ガタッと足を止めた。


「り、涼風さん……!?」


愛陸が驚愕の声を開げる。


そこに立っていたのは、いつもの隙のない、圧倒的な美しさを誇る「氷の姫君」としての涼風瑠愛(すずかぜるあ)だった。学ランのホックを解き、首元に赤い痕を刻まれていた少女の姿は、影も形もない。


ただ一つ、彼女の萌え袖(そで)の先端が、微かに朱色に染まった自分の唇をそっと隠していることを除いては。


「……あなたたち、朝から何を騒いでいるの? 私はここで、古典の資料を探していただけだけれど……」


「涼風さん……! ここに、お兄ちゃん……黒木蓮はいなかったの!? 愛空ちゃんのセンサーがここを指してたんだけど!」


愛空が怪しみながら、瑠愛の背後の本棚の陰を覗き込もうとする。


瑠愛は優雅に一歩横へスライドし、完璧なアングルで愛空の視線を遮った。


「……黒木くん? いいえ、見ていないわ。彼は今朝、体調が優れないからと……私に『少し遅れて登校する』と連絡をくれたけれど?」


「えっ……!? お兄ちゃんから連絡があったの!?」


愛陸が目を見開く。


「……ええ。彼と私は、クラスの委員同士で連絡先を交換しているもの。……あなたたち家族にも連絡がいっていないなら、相当辛くて途中の公園で休んでいるのかもしれないわね」


(瑠愛のやつ……! 堂々と嘘をつき通しやがった……!)


本棚の陰で息を殺しながら、俺は冷や汗を流した。しかし、優等生であり「氷の姫君」である瑠愛の言葉には、圧倒的な説得力があった。


「大変! お兄ちゃん、途中で倒れてるかもしれないんじゃない!?」


「愛陸姉ぇ、通学路に戻ろう! 公園のベンチとか探さなきゃ!」


「そ、そうね! 涼風さん、教えてくれてありがとうございました!」


妹たちはすっかり瑠愛の言葉を信じ込み、脱兎のごとく図書室を飛び出していった。


パタン、と重い引き戸が閉まり、図書室に再び完全な静寂が訪れる。


「……ふぅ……」


瑠愛は静かに息を吐くと、ゆっくりと振り返り、本棚の陰に隠れていた俺のもとへと戻ってきた。


その瞬間、彼女の「氷の姫君」の仮面はパリンと割れ、甘く重い執着を秘めた、恋する少女の顔へと一変した。


「……ねぇ、黒木くん……」


瑠愛は萌え袖の手で俺の制服の袖口をキュッと引っ張り、再びゼロセンチの距離まで自分の身体を押し付けてきた。


「……妹さんたち、行っちゃったね……」


「ああ……助かったよ、瑠愛。まさかあんな咄嗟の嘘で追い払うなんて……」


「……ううん。嘘じゃないよ」


瑠愛はつま先立ち(さきだち)になると、俺の学ランの首元――先ほど解かれたホックの奥の肌へと、自分の萌え袖の手を滑り込ませてきた。


「……黒木くんは……今、ここで私に……甘くおしおきされて……体調が崩れそうなくらい……熱くなってるでしょ……?」


「っ……!!」


琥珀色の瞳が、薄暗い図書室の中で妖しく、そして美しく輝く。


「……放課後も……ここで続き、しよ……? 二人だけの密室で……もっともっと、痕……上書きしてあげる……」


朝の図書室、妹たちの包囲網をかい潜った先で交わされる、二人だけの解かれぬ密約。


過保護な妹たちの追撃を振り切り、学園の「氷の姫君」とのゼロ距離な関係は、さらに甘く、重く、濃厚に加速していくのだった。


---


【作者からの祝!50話!のあとがき!】


読者の皆様、いつも『3センチ』をお読みいただき本当にありがとうございます!

おかげさまで、ついに記念すべき第50話を迎えることができました!


初夏の梅雨時、旧校舎の密室から始まった蓮と瑠愛の「ゼロ距離」な関係も、今や朝の神社での逃亡劇や図書室での過激な隠れんぼにまで発展してしまいました。


学園の「氷の姫君」としてクールだったはずの瑠愛ちゃんが、蓮くん限定で見せる萌え袖&重い執着&キスマーク上書きの嵐……!

そして、それを命がけで追いかける三つ子の妹たち(愛陸・愛空・愛海)の過保護な包囲網!


物語はここからさらに加速し、夏休み、そして二人が見据える「秋の文化祭」に向けて、より一層濃厚で甘い展開が目白押しです。


次回からは第51話! 7月の期末テストや夏休み直前の焦燥感、そして更なるゼロ距離トラブルをお届けしていきますので、引き続き蓮と瑠愛の行方を見守っていただけると嬉しいです!


これからも『3センチ』をよろしくお願いいたします!

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