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放課後、空き教室の3センチ  作者: 三日月
プロローグ
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プロローグ:名前のない三センチ

初めまして、ご覧いただきありがとうございます!

初回新連載『放課後、空き教室の3センチ』スタートです。

校舎の片隅にある旧第一資料室は、放課後になるといつもオレンジ色の西陽で満たされる。

すりガラスの窓から差し込む光の粒と、風に揺れる薄黄色くなったレースカーテン。グラウンドから届く野球部の掛け声やブラスバンドのつたない音色は、ここではどこか遠い世界の出来事みたいに聞こえた。

「ねえ、黒木くん」

隣の机から、小さな声が降ってくる。

僕——黒木湊(くろきみなと)の隣で声をかけてきたのは、同じく中2である涼風瑠愛(すずかぜるあ)だ。

クラスの男子たちが「高嶺の花」だの「近づきにくい」だのと噂している美少女は、僕の隣で頬を机に押しつけ、つまらなそうにシャープペンシルの芯をカチカチと出していた。

整った側顔、夕日に透ける瞳、校則通りに切り揃えられた黒髪。

「……なに、涼風さん」

僕が教科書から目を離さずに答えると、彼女は「ふーん」と小さく鼻を鳴らした。

僕たちの間には、二人分の肘が乗る程度の隙間がある。 距離にして、たったの三センチ。

伸ばせば、彼女の華奢な指先に触れられる。 息を吸えば、彼女の髪から漂うかすかな石鹸の匂いが胸を満たす。 けれど、僕も彼女も、この「三センチ」を絶対に越えようとはしなかった。

触れてしまえば、言葉にしてしまえば、この放課後の静寂が破れてしまう気がしたからだ。

「……明日、雨だって」 「そう。じゃあ、明日は図書室混むかな」 「……うん」

たったそれだけの会話。 クラスのみんなが繰り広げる賑やかな恋模様や、甘酸っぱい青春のイベントとは程遠い、ちまちました時間。

僕たちは恋人でもなければ、ただのクラスメイトでもない。 名前のないこの距離感を守るために、僕たちは今日も、他愛もない放課後を浪費する。

——これが、僕と瑠愛の、途方もなく長くて静かな恋の始まりだった。

今の所では、投稿は1日2話、20時・22時投稿の予定です。

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