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聖女は世界をハックする 〜見た目は魔法!?超古代技術で貧しい村を天空都市に育てます〜  作者: 七森ふれあ
古い祠は、空への線を隠している

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第46話 星祠の先に、外縁祠道が出た

 夜が明けても、リュミナ村では星祠の話が消えなかった。


 井戸のそばで水をくむ人も、畑へ向かう人も、教会の前を通る人も、みんな少しだけ川の向こうを見てしまう。


「夜に光ったんだろ」

「沈み石も見えたって」

「第三標識の向こうまで、灯りが続いたんだってな」

「星祠って、ほんとに星へ届くのかね」

「白狐様が聞いたんだって。ちりん、って」


 最後だけ、また少し話が変わっていた。


 白狐は教会の入口で、静かに耳を立てていた。


「白狐さん」

「はい」

「白狐さんが鳴ったことになってます」

「私は鳴っていません」

「ですよね」

「風鳴り石が鳴りました」

「訂正します?」

「村の人が楽しそうなので、少し様子を見ます」

「神獣っぽいです」

「いつもです」


 ミオは透明な板を胸に抱えた。


 夜間巡礼灯は戻った。


 入口祈り場から、第一標識、第二標識、休み石広場、路肩小祠、祈り橋跡、第三標識、星祠まで。弱いけれど、夜にも道は消えなかった。


 けれど、ミオの板には、夜の最後にひとつだけ残った表示があった。


[PILGRIM ROAD UPDATE]

――――――――――

星祠:復帰

星石:四基点灯

風鳴り石:起動

上方線:微弱安定

外縁祠道:未確認

次目標:星石残二基復帰/外縁祠道入口確認

――――――――――


 外縁祠道。


 その文字が、朝になっても消えない。


 星祠で終わりではない。


 先がある。


 ミオは神官さんのところへ向かった。


 神官さんは入口祈り場の前で、昨日立てた木札を見ていた。リタもいる。手には新しい木札。もう何枚目か分からない。


「神官さん」

「星祠の先か」

「はい。表示が残っています」

「行くのだな」

「行きます」


 止められると思った。


 けれど、神官さんはすぐにうなずいた。


「なら、道として見る。祠だけをありがたがって、そこから先を見ぬのは違う」

「いいんですか」

「よくはない。だが、見えた道を、見えなかったことにはできぬ」

「はい」


 リタが木札を抱え直す。


「外縁祠道、って書けばいいですか」

「まだ確認してないので、仮で」

「外縁祠道候補」

「長いです」

「外縁道?」

「何か商人さんの道みたいですね」

「星祠の先」

「それが一番分かりやすいかもです」


 白狐が静かに言った。


「星祠の先、でよいと思います。道は、先に歩かれてから名が落ち着きます」

「じゃあ、まずはそれで」


 ラウとベンも来た。


 ラウは縄を肩にかけ、ベンは小さな棒と楔を持っている。ベンの手には、昨日描いていた星石の絵もあった。相変わらず、少し芋っぽい。


「今日はどこまで行くんだ」

 ラウが聞いた。

「星祠の星石を六つそろえて、その先の道を確認します」

「そろえたら何か出るのか」

「たぶん」

「出たな」

「出ます。たぶん」

「まあ、出る顔してる」


 ベンが静かに手を上げた。


「星石の残り二つは、下の板を見てから戻した方がいいです」

「お願いします」

「抜かずに、周りを落として、下の板に沿わせます」

「はい。抜きません」

「持ち帰りません」

「それはもう大丈夫です」

「少しだけ欲しい人はいると思います」

「ベンさん?」

「僕ではないです」

「目がそらされました」


 白狐が即座に言う。


「星石は持ち帰りません」

「はい」

 ベンはまじめに返事をした。


 入口祈り場の前に、数人の村人が集まっていた。昨夜の灯りを見た人たちだ。全員が同行するわけではない。けれど、見送りに来ている。


 神官さんが祈り場の前に立つ。


「星祠は昨夜、村へ灯りを返した。今日は、その先を確かめる。急ぎすぎず、だが恐れて足を止めず、道を見に行く」


 入口祈り場の灯りが、ぽうっと明るくなった。


 道が返事をしたように、森の入口の石列が薄く光る。


[PILGRIM ROAD STATUS]

――――――――――

入口祈り場:安定

第一標識:安定

第二標識:安定

休み石広場:稼働

路肩小祠:復帰

祈り橋跡:安定

第三標識:安定

星祠:復帰

次目標:星石六基点灯

――――――――――


「行きましょう」

「はい」


 ミオたちは巡礼道へ入った。


 朝の森は明るい。夜に見た灯りの道とは違って、草も石も普通に見える。でも、足元の石列は昨日より見つけやすかった。道が少しずつ、自分の場所を思い出しているようだった。


 第一標識。


 第二標識。


 休み石広場。


 路肩小祠。


 どれも、戻って確認するだけではない。もう通り過ぎられる場所になっている。


 祈り橋跡に着くと、沈み石は九つ、朝の水の中で光っていた。


 リタが木札を確認する。


「一人ずつ。走らない。子どもだけで渡らない。供物を川に投げない」

「完璧です」

「だいぶ覚えました」

「覚えるほど増えましたね」

「はい」


 ラウが先に渡る。


 次に神官さん、リタ、ベン、ミオ、白狐。沈み石は安定していた。縄も残っている。川は冷たく、流れはある。でも、もう越えられない境目ではない。


 第三標識へ着くと、側方線が高台の方へ伸びていた。


 星祠へ向かう道だ。


 昨日までは少し頼りない細い光だった。今日は違う。まだ弱いが、途中の星形の石が見えやすい。白狐が一歩踏み出すと、道の光がふわりと揺れた。


「白狐さん?」

「少し、近いです」

「何に」

「なくしたものに」

「……はい」


 ミオはそれ以上聞かなかった。


 高台へ上がる。


 風がある。


 星祠は、朝の光の中で静かに立っていた。


 空へ向く石柱。供物皿。四つ光っている星石。二枚だけ戻した風鳴り石。薄い布がそよぎ、石の表面に淡い光が残っている。


 昨日より、祠らしく見えた。


 神官さんが供物皿の前に立つ。


「星へ向かう祠よ。昨夜の灯りを、村は受け取った。今日は、残る石を整え、その先にある道を見る」


 白狐が供物をじっと見ている。


「白狐さん」

「配置確認です」

「今日は早いですね」

「重要です」

「塩を見てますね」

「塩も重要です」


 ミオは少し笑って、透明な板を開いた。


[STAR SHRINE STATUS]

――――――――――

星祠:復帰

星石:六基中四基点灯

残二基:埋没/下部接続あり

風鳴り石:二片起動

上方線:微弱安定

外縁祠道:入口未表示

推奨:星石残二基復帰

――――――――――


「やっぱり、星石六つが必要です」

「六つそろうと、先が見えるのか」

 ラウが言う。

「たぶん。星祠が道の入口になるみたいです」

「祠が入口か」

「はい。祈って終わりじゃなくて、祈って道を開く場所です」


 神官さんがうなずいた。


「よい。道としても、祠としても、意味が通る」


 ベンはすでに星石のそばにしゃがんでいた。


「こっちの二つです」

「抜かないで戻せますか」

「片方はいけます。もう片方は、周りの土が固いです」

「割れそう?」

「石は大丈夫です。下の板が怖いです」

「じゃあ、ゆっくり」


 ベンは細い棒で土をほぐす。


 こり。


 こり、こり。


 昨日と同じ音。けれど、今日は村へ戻って準備する時間ではない。ここで進める。ここで整える。ここで次の線を見る。


 ラウが周りの草を払う。リタが小さな布で星石の表面を拭く。神官さんは祈りを続け、白狐は石柱の根元を見ている。


 ミオは透明な板で下部構造を見た。


 星石の下には、薄い板状の線がある。完全な機械ではない。石と祠と道のあいだに、古い構造が埋まっている。ミオには、端子とノードの中間のように見えた。


「左の星石、下の線が生きてます」

「どっちですか」

「ベンさんの右手側です」

「僕の右ですね」

「はい。ええと、私から見て左で、ベンさんから見て右」

「左右、嫌ですね」

「嫌です」


 ラウが笑った。


「そこは札に書くなよ」

「書きません」

 リタが即答した。


 ベンが土を除ける。


 星石の形が出てくる。丸い角の星形。昨日よりもきれいに見える。リタがそっと布を当てると、表面の泥が取れた。


 ミオは板の表示をなぞる。


「少しだけ、下へ押します」

「上げるんじゃなくて?」

「はい。浮かせるより、元の位置へ戻す感じです」

「石を沈めるのか」

「沈めるというか、はめるというか」

「ミオ様、説明がふわふわです」

「今、石もふわふわなので」

「石はふわふわしません」

「はい」


 ミオは星石に手を置いた。


 冷たい。


 でも、奥に弱い熱がある。


 力を入れすぎない。押し込むというより、ずれたものを元の溝へ戻す。


 こつ。


 小さな音がした。


 五つ目の星石が光った。


 ぽう。


 星祠の根元に、光の輪が少し太くなる。


 白狐の耳がぴくりと動いた。


「来ました」

「まだ一つです」

「それでも、来ました」


[STAR STONE ARRAY]

――――――――――

星石:六基

点灯:五基

残り:一基

上方線:安定上昇

外縁祠道:微弱反応

――――――――――


「外縁祠道、反応出ました」

「もう出たのか」

 ラウが高台の奥を見る。


 星祠の背後、草に埋もれた斜面のあたりが、ほんの少しだけ光った。


 まだ道とは言えない。


 でも、何かがある。


 ミオは息を吸った。


「あと一つ」


 最後の星石は、固かった。


 周りの土が締まり、下の板にくっつくように沈んでいる。ベンが丁寧に土を落としていくが、途中で棒が止まった。


「これ、根が入ってます」

「木の根ですか」

「細いですけど、下に絡んでます」

「切るとまずい?」

「根は切れます。でも、下の板も一緒に傷つけるかも」


 ミオは透明な板を近づけた。


 板の表示に、根の影と下部構造が重なる。


 細い根は、星石の横を通っている。けれど、一本だけ、星石の下へ入り込んでいた。


「根を抜くんじゃなくて、ずらせますか」

「やってみます」


 ベンが細い棒を差し込む。ラウが横から草を押さえる。リタが布を持つ。白狐が石柱の影から見ている。


 神官さんは祈りをやめない。


「星を受ける石よ。土に沈み、根に抱かれていた石よ。今、祠へ戻れ」


 その言葉に合わせるように、風鳴り石が少し揺れた。


 ちりん。


 まだ弱い音。


 でも、星祠全体が返事をしたように光る。


 ベンが小さく言った。


「今です」


 ミオは星石に手を置いた。


 根が少しずれる。


 石が少し動く。


 だが、すぐ止まる。


 もう一度。


 ミオは息を吐いた。


 指先に力を入れすぎない。押しすぎない。けれど、逃がさない。


「戻って」


 こつん。


 最後の星石が、溝に落ちた。


 ぽう。


 六つの星石が、同時に光った。


 風が高台を抜ける。


 風鳴り石が鳴る。


 ちりん。


 今度は、昨日より少し長い音だった。


 石柱の根元にできた光の輪が、星祠の背後へ流れる。草の下で、白い石がひとつ浮かび上がる。次に、その先の石。さらに、その先。


 ぽう。


 ぽう。


 高台の奥へ、細い白石の道が現れていく。


 リタが声を失った。


 ラウが口を開けたまま固まる。


 ベンは土のついた手を止めて、道を見ていた。


 白狐が、一歩前へ出た。


「……外縁祠道」


 その声は小さかった。


 でも、確かだった。


 ミオの透明な板に、ログが浮かぶ。


[STAR SHRINE FULL WAKE]

――――――――――

星祠:安定

星石:六基点灯

風鳴り石:起動

上方線:安定

外縁祠道:検出

入口:表示

次目標:祠道入口確認

――――――――――


「出ました」

 ミオは言った。


 声が少し震えていた。


「星祠の先に、道があります」


 神官さんは星祠に深く頭を下げた。


「この祠は、空へ祈るだけではなかったのだな」

「はい。道を開く祠です」

「村の祈りが、外へ向かう場所か」

「たぶん。いえ、そうだと思います」


 ラウが白い石の道の入口まで行き、足元を見た。


「歩けそうだ」

「すぐ入ります?」

 リタが聞いた。


 ミオは透明な板を見る。


 外縁祠道は、入口だけが出ている。奥はまだ草と光の線だけ。危険表示はない。未確認表示は多い。けれど、いま戻って相談して終わるには、光が強すぎた。


 ここで止まると、またテンポが悪くなる。


 そういう作り方の話ではなく、ミオ自身がそう感じた。


 見えたなら、入口だけでも確認する。


「入ります」

 ミオは言った。

「入口まで。そこで、道の状態を見ます」

「入口まで、という言い方が少し怪しいです」

 白狐が言う。

「入口の先が見えたら、少しだけ進むかもしれません」

「ミオ」

「でも、今日は戻るための言い訳じゃなくて、進むための確認です」

「……それならよいです」


 白狐は静かにうなずいた。


 リタが急いで木札を出す。


「星祠の先。ひとりで入らない。星石を抜かない。風鳴り石を鳴らさない。白い石から外れない」

「多いですね」

「道が増えると札も増えます」

「それ、名言みたいになってきましたね」

「うれしくないです」


 ベンが最後の星石を確認した。


「六つとも安定してます。でも、最後の石は根がまた押すかもしれません」

「印をつけますか」

「はい。次に見る時、ずれてたら分かるように」

「お願いします」


 ラウは白い石の道を見ながら、少しだけ笑っていた。


「川を越えたと思ったら、高台の上に道か」

「はい」

「今度は空の下だな」

「空の下?」

「森の中じゃない。尾根に出る道だろ、これ」

「……たぶん、そうです」


 ミオは外縁祠道の入口に立った。


 白い石は、普通の道石と違う。表面がなめらかで、角が丸く、ところどころに小さな星形のくぼみがある。草の下から出てきたばかりなのに、泥があまりついていない。


 風が通る。


 ちりん。


 背後の星祠で、風鳴り石が鳴った。


 その音に合わせて、白石道の一つ目が光る。


 次に二つ目。


 三つ目。


 道は、高台の尾根へ向かって続いていた。


 ミオは透明な板をかざす。


[OUTER SHRINE ROAD ENTRY]

――――――――――

外縁祠道:入口表示

白石道:部分露出

星形くぼみ:複数

風鳴り応答:あり

道接続:継続

危険表示:未検出

――――――――――


「危険表示なし」

「じゃあ行けるな」

 ラウが言った。

「危険表示がないだけで、安全とは限りません」

「でも、行くんだろ」

「行きます」

「なら、足元を見る」


 ラウは長い棒を持って先に一歩入った。


 白い石は沈まない。


 二歩目。


 草の中から、次の石が少し光る。


「いける」

「はい」


 神官さんが星祠にもう一度頭を下げる。


「星祠よ。道を開いたことを感謝する。われらは、踏み荒らすためではなく、道を知るために進む」


 白狐がミオの隣に来た。


「ミオ」

「はい」

「この道は、古いです」

「分かります?」

「はい。とても古い。でも、死んでいません」

「じゃあ、進みます」


 ミオは一歩、白い石の上に足を置いた。


 足元で、ぽうっと光が広がる。


 星祠の光が背中から押してくるようだった。


 リタが小さく言う。


「ミオ様」

「はい」

「これ、入口だけじゃ済まない気がします」

「私も、少し思ってます」

「やっぱり」


 ラウが前で笑った。


「先に言っとく。俺は足元を見る。ミオは板を見る。リタは札を増やす。ベンは石を見る。神官さんは祈る。白狐さんは……」

「供物を確認します」

 白狐が言った。

「そこか」

「重要です」

「神獣っぽいのか、食いしん坊なのか分からん」


 ミオは笑った。


 笑いながら、外縁祠道の先を見た。


 高台の尾根へ、白い石が続いている。


 空が広い。


 森の中の巡礼道とは違う。川を越えて、第三標識を越えて、星祠を越えて、道は外へ出た。


 戻って固めるだけでは追いつかない。


 ここからは、進みながら道を知る。


 ミオは透明な板を握り直した。


「行きましょう。星祠の先へ」


 白い石が、次の一歩を待つように光った。

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