表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女は世界をハックする 〜見た目は魔法!?超古代技術で貧しい村を天空都市に育てます〜  作者: 七森ふれあ
古い祠は、空への線を隠している

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/73

第37話 巡礼道の標識が起きた

 祈り場が戻った次の日、村の外れは朝から少しにぎやかだった。


 昨日まで草地だった場所に、丸い入口広場がある。石のふち、水鉢、供物石、六つの小灯籠。水鉢には指先を湿らせるくらいの水があり、供物石には麦の包みと、小さな野の花が置かれていた。


 村人たちは、そこを避けるのではなく、通るたびに少し足を止めるようになった。


「おはようございます、祠さん」

「祠さんって呼び方でいいのか?」

「分からんけど、無言よりいいだろ」

「そうか。おはようございます」


 ミオは透明な板を抱えたまま、その様子を見ていた。


 昨日より、祈り場の光は落ち着いている。ぽう、ぽう、と灯籠が弱く息をするように明滅していた。祠へ向かう道はまだ草に埋もれているけれど、入口広場の奥には、昨日出てきた低い石標識の頭が見えている。


 白狐は供物石の前に座っていた。きりっとした顔をしているが、目線は麦の包みに寄っている。


「白狐さん」

「はい」

「見守りですか」

「はい。供物場の安定を見守っています」

「麦を見てるだけでは?」

「供物場の安定を見守っています」


 同じ言い方で返された。


 ミオは少し笑って、石標識へ板をかざした。板の向こうで、入口広場から標識へ向かう細い線が見える。昨日まではぼんやりしていた線が、今朝は少し太い。


[PILGRIM ROAD MARKER]

――――――――――

入口広場:安定

供物場:稼働

水鉢:微量復水

巡礼道標識:一部露出

標識応答:未確定

――――――――――


「標識応答、未確定……」

「起こせそうですか」

「たぶん。というか、起こしたほうがいいです。入口だけ戻っても、どっちへ向かう道なのか分からないので」

「道しるべですね」

「はい。道しるべです」


 神官さんが近づいてきた。


 今日は杖のほかに、小さな布袋を持っている。中には、乾いた麦と塩が少し入っていた。昨日の祈り場復帰のあと、村人たちが相談して用意したものだという。


「ミオ、今日はこの標を調べるのか」

「はい。入口広場が安定したので、次はこの標識です。ここが起きれば、祠へ向かう道と、巡礼道の方向が少し分かると思います」

「少し、か」

「はい。たぶん全部は出ません。でも、村の外へ続く方向くらいは見えるかもしれません」


 神官さんは石標識を見下ろした。


 標識はまだ半分以上、土に埋もれている。上だけが丸く出ていて、苔と土で文字は読めない。村人のひとりが手を伸ばしかけたが、神官さんが軽く止めた。


「まず、ミオが見る」

「はい。こすらないでください。文字が石じゃなくて、光の層かもしれません」

「光の層」

「ええと……表面が古くなってるだけじゃなくて、中に表示が残ってるかもしれないです」

「なら、こすらぬ」


 ミオはしゃがみこみ、透明な板を石標識の前に立てた。


 板越しに見ると、石の内側に細い線が何本も走っている。祠道のほうへ一本。入口広場へ一本。もう一本は、村の外へ向かって伸びている。かなり弱い。けれど、途切れてはいない。


「外へ向いてる線があります」

「どちらへ」

「北東……かな。ルーナ村とは少しずれてます」

「では、古い巡礼道かもしれぬな」

「はい。交易道とは別の線です」


 白狐がしっぽを揺らした。


「祈りの道は、荷の道より少し遠回りをすることがあります」

「理由は?」

「祈る場所を通るからです」

「なるほど。最短経路じゃないんですね」

「はい。寄り道も、祈りのうちです」


 ミオは少し考えた。


 現代で言えば、最短ルートではなく、チェックポイントを通るルート。目的地に行くだけなら遠回りだが、途中の祠や標識を通ることで意味が生まれる道。


 それは、ただの物流線とは違う。


「じゃあ、この標識を起こすと、祈りの目印が見えるかもしれない」

「目印ですか」

「はい。次の祈り場とか、次の標識とか」


 神官さんがうなずく。


「なら、起こす価値はある」


 ミオは石標識の足元を見た。土の下に、小さな受け皿のような場所がある。供物石ほど大きくはない。巡礼者が道中に置く、小さな麦や塩を受ける場所かもしれない。


 ミオは透明な板を軽く傾けた。


[MARKER BASE CHECK]

――――――――――

標識基部:埋没

小供物受け:検出

水抜き:詰まり

表示層:休眠

推奨:基部露出/小供物受け復帰

――――――――――


「標識だけじゃなくて、足元にも受け皿があります」

「巡礼者が置くものか」

「たぶん。大きな供物じゃなくて、道中のしるしみたいなものです。麦ひとつかみとか、塩少しとか」


 神官さんは持っていた布袋を見た。


「これでよいか」

「ちょうどいいと思います」


 白狐がすっと顔を上げる。


「塩もありますか」

「ある」

「重要です」

「白狐さん、麦も塩も重要ですね」

「道中では、どちらも重要です」


 それは本当にそうだったので、ミオはつっこまなかった。


 ミオはまず、水抜きの詰まりをゆるめた。根が細かく絡んでいる。無理に引っ張ると石標識の下が崩れそうだったので、絡んだ部分だけを少しずつほどく。透明な板の端を動かすたび、土の中でこつ、こつ、と小さな音がした。


 標識の周りの土が、ふわっと沈む。


 丸い石の足元が見えてきた。


「おお……」

「下まで出てきた」

「こんな形だったのか」


 村人たちが近づきすぎないよう、神官さんが手で制した。


 石標識は、低い柱のような形をしていた。上は丸く、正面には何も刻まれていないように見える。だがミオの板越しには、文字のような光が眠っている。


 ミオは小供物受けの上を払う。


 石でできた浅いくぼみが出た。


「ここです」

「置こう」


 神官さんは乾いた麦をほんの少し置き、塩を指先でひとつまみ足した。


 ぽう。


 入口広場の灯籠が明るくなる。


 それから、石標識の正面に、すうっと光が走った。


 白い線が一本。


 次に、斜め上へもう一本。


 最後に、丸い点が三つ。


 村人たちは、息をのんだ。


「文字か?」

「いや、道の絵じゃないか?」

「点があるぞ」


 ミオは板を見た。


[PILGRIM MARKER WAKE]

――――――――――

標識基部:復帰

小供物受け:復帰

表示層:低出力起動

巡礼路方向:一部表示

次標識候補:二

外縁祠候補:一

――――――――――


「出た……!」


 思わず声が大きくなった。


 石標識の正面に、道筋が浮かんでいる。村人にも見えるほど薄く光っている。一本は木々の奥、古い祠へ。もう一本は村の外へ向かい、途中で点を二つ打っている。さらにその先に、小さな祠の印のような形がある。


「神官さん、これ、次の標識です」

「二つあるのか」

「はい。あと、その先に別の祠か、祈り場があります」

「リュミナ村の外に?」

「たぶん」


 神官さんの顔が変わった。


 村人たちもざわつく。


「外の祠……」

「そんな道があったのか」

「昔の巡礼者は、ここを通ってたってことか」

「じゃあ、リュミナ村は行き止まりじゃなかったのか?」


 その言葉で、ミオの胸が少し熱くなった。


 行き止まりじゃない。


 水の線も、豆の荷も、塩を運んだ道も、全部ここへ戻ってくる。リュミナ村は、外から助けを待つだけの場所ではない。


 そして今、巡礼道の標識が起きた。


 村はまた、外へつながる場所になり始めている。


 石標識の光が少し強くなる。


 すると、入口広場から奥の草地へ向かって、低い石の列がぽつ、ぽつ、と浮かび上がった。全部ではない。途中までだ。けれど、人が歩ける幅が見える。


「道が出たぞ」

「祠のほうだけじゃない。外へも……」

「こっち、村の北東だ」


 村人のひとりが声を上げた。


 ミオはあわてて板を見る。


[PILGRIM ROAD PARTIAL OPEN]

――――――――――

入口広場:安定

第一標識:起動

石列:部分露出

巡礼道方向:北東

通行:短距離確認可

注意:祠本体未接続

――――――――――


 短距離確認可。


 ミオはそれを見て、少し笑った。


「神官さん」

「なんだ」

「入口広場から、この標識まで。それと、標識から先の石列を少しだけ歩けます」

「どこまで」

「見えている石の列までです。祠へ行くというより、巡礼道の向きを確かめる感じです」

「分かった」


 神官さんは村人たちに向き直った。


「この標は起きた。道筋も見えた。まず、わしとミオで石の列を確かめる。ついてくる者は一列だ」


 進めるところが見えたから、進む。


 ミオは透明な板を胸に抱え、石標識の先へ一歩踏み出した。


 こつ。


 石の音。


 その次の石へ。


 こつ。


 灯籠ではない、小さな道端の石が、足元でぽうっと光った。


「わ……」


 村人たちから声が漏れる。


 ミオが三歩進むと、石列はさらに二つ先まで見えた。村人が息をのむ。神官さんが続く。白狐がとことこ横を歩く。


「白狐さん、足元大丈夫ですか」

「はい。ですが、石の幅が狐に少し合いません」

「そこは知りません」

「改善希望です」

「今は無理です」


 そんなことを言っている間に、石列は入口広場から二十歩ほど先まで見えるようになった。


 木々の奥の祠へまっすぐ向かう道ではない。途中で、北東へゆるく曲がっている。祠へ向かう支道と、村の外へ続く巡礼道が、ここで分かれているのだ。


「分岐だ」


 ミオは思わず言った。


 透明な板に、分岐の線が表示される。


[PILGRIM ROAD BRANCH]

――――――――――

第一標識:起動

分岐確認:祠支道/北東巡礼道

次標識候補:北東方向

外縁祠候補:未確定

巡礼道機能:部分復帰

――――――――――


「分岐……」

「祠へ向かう道と、外へ向かう道が分かれてます」

「では、この入口広場は、村の祈り場であり、巡礼道の分かれ目でもあるのだな」


 神官さんの声が、少し震えていた。


 村人たちがその言葉を聞いて、あたりを見る。


 昨日までは草地だった。


 今は祈り場があり、標識があり、分岐がある。


 リュミナ村の外れに、道の要が戻ってきた。


「すごい……」

「ここから、外へ行けるのか」

「巡礼者が来るかもしれないのか」

「逆に、こっちからも行けるのか」


 村人たちの声が明るくなる。


 ミオは透明な板を見た。


 まだ低出力だ。すべてが動いたわけではない。次の標識も遠い。祠本体もまだ外縁だけ。けれど、今日の変化は小さくない。


 祈り場が、ただの入口ではなくなった。


 巡礼道の分岐になった。


「ミオ」

「はい」

「これは、よい戻り方です」

「そうですね」


 白狐は分岐の石に前足を乗せ、少しだけ目を細めた。


「昔、ここを多くの足が通ったのかもしれません」

「巡礼者ですか」

「はい。祈る者、供物を運ぶ者、道をたずねる者」

「また来るようになりますかね」

「道が戻れば、いずれ」


 ミオは北東へ伸びる石列を見た。


 その先に何があるのか、まだ分からない。次の標識か、別の祠か、古い村か。けれど、少なくともリュミナ村は、そこへ向かう入口を持っている。


 それが今日の報酬だった。


 村の外れに、道が戻った。


 神官さんが石標識の前で頭を下げる。


「この標を、リュミナの第一標とする」


 村人たちが静かになった。


「祠へ向かう者も、巡礼道へ向かう者も、ここで手を合わせる。供物を置く。道へ礼をする。今日より、この場所はリュミナ村の祈り場であり、巡礼道の入口だ」


 ぽう。


 入口広場の灯籠が一斉に明るくなった。


 水鉢の水が、かすかに揺れる。


 供物石の麦が、朝の光を受けて小さく光った。


 ミオの板には、短いログが残った。


[PILGRIM ROAD STATUS]

――――――――――

入口祈り場:復帰

第一標識:起動

祠支道:表示

北東巡礼道:部分表示

巡礼道機能:低出力復帰

次目標:第二標識

――――――――――


「第二標識……」


 ミオは小さくつぶやいた。


 次の目的地が、はっきり出た。


 ただの灯籠ではない。次の標識だ。そこへ行けば、村の外へ続く祈りの道がさらに分かる。


「白狐さん」

「はい」

「次は第二標識です」

「はい」

「それと、供物は麦と塩で足りそうですね」

「油揚げも、いつか」

「まだ言いますか」

「重要です」


 白狐はまじめな顔で言った。


 ミオは笑った。


 入口広場の小灯籠が、ぽうっとまた明るくなる。第一標識の正面には、祠へ向かう線と、北東へ伸びる線が残っている。


 リュミナ村は、もう行き止まりではなかった。

「続きが読みたい」と思ったら下の評価とブックマーク登録をどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ