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聖女は世界をハックする 〜見た目は魔法!?超古代技術で貧しい村を天空都市に育てます〜  作者: 七森ふれあ
浮く村を、帰る場所にする

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第182話 短く浮いて、同じ場所へ降りる

 ミオは村中央の石のそばに、水を張った浅い鉢を置いた。


 鉢の横には、承認布とルーナの石、白狐さんの白糸が並んでいる。朝の光が水面に揺れ、倉庫の方からは薄く焼いたパンの香りが届いた。南第一灯へ強く祈る代わりに、井戸番は水面を見て、リタは芋袋と布袋を左右へ分け、神官は短く祈ってから承認布の端を押さえた。


「浮かせる時間を見るんですね」


 リタが言った。


「はい。長く浮くためじゃなくて、短く浮いて、同じ場所に降りるためです」


 ミオは透明板を開いた。聖石板に白い文字が浮かぶと、神官が頭を下げる。働き手たちは水鉢の外側に指を置いた。村中央、ルーナの石、白狐さんの白糸。その三つがそろっていることを、まず手で確かめる。


[短時間浮上・安全枠確認]

――――――――――

対象:空帰還鍵片割れ/村底荷重線/共同承認

条件:村中央、地上標識、守護系統

維持:井戸、倉庫軽荷、帰り便、休み席

禁止:移動、完全帰還、長時間浮上

――――――――――


 ミオは水面に、昨日の荷重線を薄く映した。倉庫側へ寄っていた線は、芋袋と布袋を分けると少しだけ丸くなる。完全な丸ではない。けれど、昨日よりは中央へ戻る。白狐さんが水面を覗き込み、耳を少し立てた。


「重さの返事が早いですね」


「はい。だから、長く浮くと追いつけません」


 ミオは水面へ、短い白い帯を出した。南第一灯の低い灯りと、鍵の片割れと、村中央の承認が重なるところだけが、細く明るくなる。帯の両端には、揺れた水が赤くにじんだ。片方は荷重の偏り。もう片方は降りる場所を見失う危険だ。


「これ、短いですね」


 井戸番の子どもが言った。


「短いから、安全に戻せます」


 ミオはそう答えてから、自分にも言い聞かせるように頷いた。空へ帰る線を見つけたのに、遠くへ行く話をしないのは、少しだけもどかしい。でも、村は家で、井戸があり、倉庫があり、帰り便がある。浮いて終わりでは困る。降りて、また水を汲めなければならない。


 リタが小石を三つ、水鉢の縁へ置いた。上がる印、保つ印、降りる印。木札ではなく、今ここで水面に映る小さな石だ。


「上がる、止まる、降りる。移動は入れません」


「はい。場所を変えません」


 神官が承認布の端を押さえ直した。


「完全な空帰還も、ここには入れないのですね」


「入れません。まずは、村が少し浮いて、元の場所に戻るところまでです」


 白狐さんが静かに頷いた。


「帰る場所を残すための浮上です。遠くへ行くための浮上ではありません」


 その言い方で、周りの肩が少し下がった。働き手の一人が、焼きパンの籠を休み席へ戻す。香ばしい匂いが水鉢のそばまで来て、硬くなりかけた空気を少しほどいた。


 ミオは透明板の表示をもう一段下げた。水面の白い帯が、三つの石の間だけで光る。長くはない。でも、上がって、保って、降りるには足りる。荷重線が乱れたら、中央の石を待たずに降ろす。ルーナの石が返らなければ、そもそも上げない。白狐さんの白糸が薄くなれば、灯りを閉じる。


「これなら、村の人が見て止められます」


 リタが言った。


「はい。私だけが見る時間にはしません」


[短時間制御浮上枠]

――――――――――

目的:短時間浮上と元位置への安全降下

許可:上昇、短い保持、同位置降下

対象外:移動、完全帰還、長時間浮上、空帰還路進入

停止:荷重線の偏り、地上標識応答低下、守護灯低下、水面乱れ

維持:井戸、倉庫軽荷、帰り便、休み席

必要:鍵の片割れ、共同承認、荷重再配分、短時間保持枠

次作業:鍵、荷重、承認を一枚の制御浮上計画へまとめる

――――――――――


 ログが落ち着くと、おばさんが小さく切った焼きパンを配った。表面はぱりっとして、中はやわらかい。白狐さんは白糸から目を離さず、差し出された一切れを丁寧に食べた。


「白狐さん、短い浮上は怖いですか」


「怖くない浮上はありません」


 白狐さんは、焼きパンを飲み込んでから続けた。


「ですが、戻る場所が見えている浮上なら、守れます」


 ミオは水鉢を見た。白い帯は短い。けれど、その下には村中央の石があり、ルーナの石があり、白狐さんの白糸がある。上だけを見る線ではない。降りる場所まで含んだ線だ。


「短く浮いて、同じ場所へ降りる」


 ミオが言うと、リタと神官が同じ言葉を小さく繰り返した。井戸番の子どもは水面を見て、三つの小石の位置を覚えるように指でなぞる。


 次は、この短い白い帯を、鍵と荷重と承認の手順にする。


 村は、空へ逃げるのではない。


 帰ってこられる高さだけを、まず選んだ。

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