表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女は世界をハックする 〜見た目は魔法!?超古代技術で貧しい村を天空都市に育てます〜  作者: 七森ふれあ
祈りの道は村を越える

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
113/193

第107話 草に埋もれた祠

 石段は、思ったより低かった。


 三段、と思ったが、土を払うと五段あった。上の二段は草に埋もれ、苔が厚くついている。端の石は欠け、真ん中は少しへこんでいた。けれど、段はまっすぐ奥へ続いている。


 ミオは一段目の前で足を止めた。


「ここから先、祠前だよね」

「はい。急がず、段を踏み荒らさないようにしましょう」

「分かった」


 リタが供物のかごを胸の前で抱え直した。村人たちも荷を少し低く持ち替える。白狐は石段の前で、珍しく動かなかった。耳を立て、目を細めている。


「白狐さん?」

「……少し、待ってください」

「危ない?」

「危ない、ではありません。ただ、近いです」


 白狐の声は小さかった。


 ミオは透明な板を石段へかざした。


[APPROACH TRACE]

――――――――――

祠前石段:確認

祠道外縁:微弱上昇

接続先:古い祠

応答:周期微弱

読み取り範囲:入口層

――――――――――


「反応はある。まだ弱いけど、消えてない」

「では、上がりましょう」


 神官が最初に一段目へ足を置いた。静かに、石を起こさないように。次にミオ、リタ、村人たちが続く。白狐は最後ではなく、ミオの横へ並んだ。


 石段を上がるたび、草が足元でさわさわ鳴る。石の下から、かすかな光が返る。歩く音が、さっきまでの道よりも小さく聞こえた。空気が少し冷たい。木々が近いのに、そこだけ風の通り方が違っていた。


 五段目を上がると、視界が開けた。


 小さな祠があった。


 石と木が混ざった、古い祠だった。屋根は片側が沈み、柱の一本は傾いている。扉は閉じているが、片方の板が割れ、隙間から暗い奥が見えた。周囲には草が生い茂り、根が石台の下へ入り込んでいる。祠の前には、低い供物台があり、中央の溝だけが土の中からのぞいていた。


 村人の一人が、息をのんだ。


「本当に、祠が……」


 リタはかごを抱えたまま、目を丸くしていた。


「こんなところにあったんですね」

「昔は、道から見えていたのでしょう」

「忘れられていたのですね」


 神官が静かに言った。


 その声に、少しだけ痛みが混じっていた。壊れているからではない。忘れられていたからだ。祠は、誰かが祈る場所だった。そこが草に埋もれて、誰にも見られなくなっていた。


 ミオは透明な板を胸の前で持ったまま、祠を見た。


 村人には、朽ちた祠に見える。


 神官には、忘れられた祈り場に見える。


 ミオには、眠っている外縁端末に見えた。


 祠の奥に、細い構造線が残っている。石段、供物台、扉、奥の石板。それぞれが弱くつながり、さらに奥へ伸びている。水路や標識より複雑ではない。けれど、祈り場としての手順が絡んでいるせいで、ただの端末よりずっと触りにくい。


[SHRINE TRACE]

――――――――――

対象:古い祠

状態:休眠

祠道外縁:接続微弱

供物台:未応答

扉:応答待ち

奥部:不明

祠側応答:待機

――――――――――


「祠側が返事待ちだ」

「順番を大切にしてください」

「まだ触ってない」

「今の声は、触る前の声でした」


 白狐は祠を見たまま言った。


 いつもの調子ではなかった。食べ物の話をする時の軽さも、ミオを止める時の少し得意な感じもない。目の奥が、どこか遠くを見ていた。


「白狐さん、ここ知ってる?」

「……知っている気がします」

「また、気がする?」

「はい。ここに来たことがあるような、ないような。祠の前で、誰かが手を合わせていたような気がします。でも、誰だったか、いつだったか、分かりません」

「そっか」


 ミオはそれ以上聞かなかった。


 白狐の尾は、光っていない。けれど、毛先が少しだけ立っていた。緊張しているのか、懐かしいのか、封印が痛むのか。分からない。


 神官が祠の前で膝をついた。


「まず、草を払ってもよろしいでしょうか」

「うん。根を無理に抜くと、石台を壊しそう」

「では、手で払える範囲だけにしましょう」


 村人たちは荷を下ろし、祠の前の草を少しずつ払った。鎌で刈りたくなる場所もあるが、今日は刃を入れない。根がどこへ絡んでいるか分からないからだ。ミオも手で草を寄せ、供物台の中央の溝を出した。


 土の下から、浅い線が出てくる。


 右、左、中央。祈り場の石台と似ているが、こちらの方が少し古い。中央の溝の奥に、小さな丸いくぼみがあった。


「ここに何か置くのかな」

「祈りを置く場所です」

「物じゃなくて?」

「物も置くかもしれません。ですが、先に祈りでしょう」

「順番、大事」

「はい」


 リタが供物のかごをそっと地面へ置いた。


「ミオ様、ここに置くのは、まだ待った方がいいですか」

「うん。神官の祈りが先。供物はそのあと」

「はい」


 リタの手は少し震えていた。祠が見つかった嬉しさと、触れてはいけないものを前にした緊張が混ざっている。


 ミオも同じだった。


 見つけた。


 第三標識の先に、本当に祠があった。村は行き止まりではなかった。祠道はただの山道ではなかった。ここまでの手順は、全部この場所へつながっていた。


 けれど、見つけたからといって、すぐ直していいわけではない。


 祠は、こちらをまだ見ているだけだ。


 神官が祠の前で手を合わせた。


 長い祈りは置かなかった。忘れていたことへの詫び。道を通してくれたことへの礼。乱さず、欲ばらず、まずは戻すために来たこと。それだけを、静かに告げた。


 風が止まった。


 草の音が、すっと消える。


 祠の奥で、低い音が鳴った。


 ごく小さな音だった。石の奥で、水滴が落ちるような、木が軋むような、遠い太鼓が一度だけ鳴るような音。


 村人たちは顔を上げた。


 ミオには聞こえなかった。いや、耳では聞こえなかった。透明な板の中に、波が走った。


[SHRINE PING]

――――――――――

祈り入力:検出

供物台:待機

扉:応答待ち

奥部応答:微弱

状態:初期確認前

――――――――――


「返事した」

「はい」


 白狐が短く言った。


 その声が、少し震えていた。


「今の、白狐さんにも聞こえた?」

「聞こえました」

「どんな音?」

「とても古い音です」

「古い音」

「はい。長く眠っていたものが、寝返りを打つような音です」


 ミオは祠を見た。


 祠はまだ閉じている。灯りもない。扉も動かない。何かが劇的に変わったわけではない。


 それでも、ここは空っぽではなかった。


 祠の奥に、まだ何かがいる。


 リタが小さく頭を下げた。


「おはようございます、でいいのでしょうか」

「いいと思う」

「では……おはようございます」


 リタが祠へそう言うと、白狐が少しだけ目を細めた。


「よいあいさつです」

「本当ですか」

「はい。食べ物の前にあいさつをするのは大切です」

「白狐さん」

「少しだけ、いつもの調子を戻しました」

「それは見れば分かる」


 ミオは笑いそうになって、祠の方を見た。


 供物台の中央のくぼみに、ほんの小さな光があった。


 針の先ほどの光だ。


 祠は、見つかっただけではない。


 こちらのあいさつを、受け取ろうとしていた。

「続きが読みたい」と思ったら下の評価とブックマーク登録をどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ