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聖女は世界をハックする 〜見た目は魔法!?超古代技術で貧しい村を天空都市に育てます〜  作者: 七森ふれあ
外縁祠群と星見台の先

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第99話 レンの名へ、道を作る

 ぽう石一号と二号のまわりには、朝露が残っていた。草の先に小さな水がつき、灯りがその粒を淡く照らしている。湯場へ向かう人は、もうその二つの石を目印にして歩いていた。


 ミオは小祠一の石段に透明板を置いた。星見台、環祠、小祠群、ぽう石一号、ぽう石二号。昨日、輪として鳴った場所が、薄い線で表示されている。線の先には未登録の祠候補が二つ。名前はない。けれど、そこにも低い反応が残っていた。


「白狐さん、今日はRENの出た場所を重ねます」

「はい。外縁環の上に、ですね」

「はい。灯りの輪を先に整えてから、星見台側の読みを入れます」

「見ています」


 白狐さんは小祠一の灯りの横に座った。しっぽは一本。耳は静かに星見台の方を向いている。


 透明板には昨日の記録が残っていた。


[外縁環・観測準備]

――――――――――

地方管理外縁環:部分成立

外縁祠群:低出力同期

未登録祠候補:二

CROSS観測履歴:REN

守護者系統:保護状態

――――――――――


 REN。


 その文字を見ただけで、ミオの指に力が入った。透明板のふちが少し鳴る。白狐さんがこちらを見たので、ミオは慌てて指をゆるめた。


「大丈夫です」

「はい」

「今、変な押し方をしそうでした」

「正直でよいです」


 ミオは息を吸い、星見台の入口に触れた。


 ぽう。


 星見台が灯る。環祠が返す。小祠群へ光が移り、ぽう石一号、二号が遅れて応えた。草の根元に低い弧ができる。昨日より、光のつながりが少しなめらかだった。


 透明板の上で、地方管理外縁環の文字が浮かぶ。その下に、小さな星図のような線が重なった。村の外縁の輪と、どこか遠い線が、薄く重なる。


 白いノイズが走った。


[CROSS OBSERVATION]

――――――――――

REN:TRACE

DURATION:02.8 SEC

LINK:NOT ESTABLISHED

――――――――――


 ミオは声を出さなかった。


 出しそうになった。けれど、唇を閉じた。透明板の中の文字だけを見る。RENの三文字は、前より少し長く残っていた。


 白狐さんが静かに言った。


「見えています」

「はい」


 ミオは環祠の戻し線を少し整えた。外縁の弧が細くそろう。ぽう石一号と二号の灯りが、同じ低さで揺れる。未登録祠候補の二つが、薄く反応した。


 RENの文字が一度薄れ、すぐに戻った。


[CROSS OBSERVATION]

――――――――――

REN:STABLE

DURATION:05.6 SEC

OBSERVATION ROUTE:OUTER RING

――――――――――


 五・六秒。


 ミオは透明板を見たまま、息を止めた。文字が残っている。白いノイズの中で、レンの名が消えずにいる。前より長い。ほんの少しだけ、輪が支えている。


 ベンが小声で聞いた。


「レン、また出た?」

「出ました」

「遠い人」

「はい」

「今日は、長い?」

「少しだけ」


 少しだけ。そう言うと、胸の奥が熱くなった。少しだけでも、長い。透明板の数字は短いのに、ミオにはその数秒が妙に重かった。


 白狐さんのしっぽがゆっくり揺れる。


「ミオ、手元」

「はい」


 ミオは透明板へ伸びかけた指を止めた。何かを打ち込みたい。名前を呼びたい。届かなくても、一文字だけ置きたい。けれど、今の輪は文字を運ぶ道ではない。名前を見つける灯りだ。


 ミオは指を戻し、ぽう石二号の出力だけをほんの少し整えた。


 外縁の弧が、また細くそろう。


[外縁環・観測補助]

――――――――――

星見台:同期

環祠:戻し線安定

外縁道標一:低灯

外縁道標二:低灯

未登録祠候補:反応微弱

――――――――――


 リタが水桶を置き、外縁の灯りを見た。


「今日は、奥の方まで光が続いて見えます」

「未登録の祠が、少し反応しています」

「祠がまだあるのですね」

「ありそうです」


 村の人に見えているのは、淡い弧と草の間の小さな灯りだけだ。けれど、その灯りの上で、RENの文字が数秒だけ残っている。


 白狐さんが目を細めた。


「わたしの方も、少し鳴っています」

「白狐さんの奥ですか」

「はい。でも、今日は遠い鈴です」


 透明板の端に、守護者系統の文字が浮いた。


[守護者系統]

――――――――――

候補照合:白狐

保護状態:継続

外縁環:観測補助

――――――――――


 ミオは白狐さんを見た。白狐さんは座ったまま、外縁の灯りを見ている。影は濃くならない。しっぽの毛先だけが、風に合わせて揺れた。


 RENの文字が薄くなる。


 五・六秒の表示が残り、白いノイズが散った。星図のような線も細くなり、透明板には外縁環の地図だけが残る。


 ミオはしばらく動かなかった。


「ミオ」

「はい」

「今日は、道が少し伸びました」

「はい」


 白狐さんの言葉は、待つ、ではなかった。届かない、でもなかった。道が伸びた。それだけで、ミオの胸の奥が少し落ち着く。


 ミオは透明板に保存の印を置いた。


[観測記録]

――――――――――

REN:STABLE / 05.6 SEC

地方管理外縁環:観測補助

未登録祠候補:二

守護者系統:保護状態

――――――――――


 ログの文字は硬い。けれど、今日の数字は前より少し長い。


 ベンがぽう石二号の前で、草を踏まないようにしゃがんだ。


「レンの道、ぽう石も使ってる?」

「たぶん、少しだけ」

「ぽう石、強い」

「名前の力が強くなってきましたね」

「強い」


 リタが笑った。白狐さんも、少しだけ目を細める。


「ぽう石の名は、村に残りそうです」

「やっぱりそうなりますか」

「はい。もう、かなり」

「……では、せめて番号は整理します」


 ミオは透明板を胸に抱えた。外縁の弧はまだ残っている。星見台が淡く光り、環祠が返し、小祠群が続く。ぽう石一号と二号が、草の根元で低く灯っていた。


 レンの名は消えている。


 けれど、記録には五・六秒と残った。外縁の輪が、前より長くその名を支えた。


 ミオはぽう石二号の灯りを見た。


「次は、もっと長く持たせます」

「はい」


 白狐さんは短く答えた。


 小祠一の灯りが、ぽう、と揺れる。星見台が遠くで返す。草の間の灯りが、低く、細く、外縁をつないでいた。

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