表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女は世界をハックする 〜見た目は魔法!?超古代技術で貧しい村を天空都市に育てます〜  作者: 七森ふれあ
外縁祠群と星見台の先

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
100/192

第95話 レンの名が、数秒だけ残った

 外縁の弧は、朝の草の下に細く残っていた。星見台から環祠へ、環祠から小祠群へ、小祠群から外縁道標へ。見た目には小さな灯りの点がいくつかあるだけなのに、透明板の上では一本の細い輪として読める。


 ミオは小祠一の石段に透明板を置いた。白狐さんは隣で座り、しっぽを体の横にそろえている。リタは少し後ろで水桶を持ち、ベンは外縁道標の灯りを見ないようにして、でもたまに見ていた。


「今日は、昨日の輪をもう一度読みます」

「地方管理外縁環、ですね」

「はい。名前が出た場所だけ見ます」

「分かりました」

「白狐さん、耳の奥は」

「静かです」

「よかったです」


 ミオは透明板を開いた。昨日の記録を重ねると、外縁の祠が淡い線でつながった。輪はまだ欠けている。けれど、欠けている場所も含めて、古い形が見え始めていた。


[地方管理外縁環・再読込]

――――――――――

外縁祠群:部分環状応答

星見台:同期候補

環祠:戻し線安定

外縁道標:低出力灯

守護者系統:待機

――――――――――


 表示は硬い。けれど、昨日より線が太い。ミオは息を小さく吸い、星見台の入口を押した。


 ぽう。


 星見台が灯り、環祠が返した。小祠群が遅れて光る。外縁道標の豆火も、草の根元で低く揺れた。灯りは昨日と同じ道を通り、封じ祠の手前で細くなって、外側の弧へ戻る。


 白狐さんの影は濃くならない。しっぽの毛先が少しだけ立ったが、すぐに戻った。


「通りました」

「はい。今日は、鳴り方が軽いです」


 ミオは透明板をのぞき込んだ。地方管理外縁環の文字が、昨日よりはっきり出ている。その下に、小さな地図が開いた。村の外縁、星見台、環祠、小祠群。さらに遠く、まだ名前のない点がいくつか浮かぶ。


 その一つに、白いノイズが重なった。


[CROSS OBSERVATION]

――――――――――

REN:TRACE

DURATION:01.9 SEC

LINK:NOT ESTABLISHED

――――――――――


 ミオの指が止まった。


「レン」


 小さく呼んだ声は、外へ届かない。ただ、自分の口から落ちただけだった。それでも、透明板の文字はすぐ消えなかった。RENの三文字が、白いノイズの中に細く残っている。


 リタが息をのんだ。


「ミオ様?」

「大丈夫です。……名前が出ました」


 白狐さんは透明板を見た。目の色が少し深くなる。けれど、昨日のように呼ばれる気配ではない。


「レン、ですか」

「はい」


 ミオは透明板に触れかけ、指を止めた。押す場所はない。声を送る場所もない。これは通信ではない。透明板にも、そう出ている。けれど、名前だけはそこにある。


 RENの文字が、一度薄くなった。


「もう少しだけ」


 ミオは灯りを強くしなかった。環祠の戻し線を少し整える。外縁の弧が細くそろい、道標の灯りが低く揺れた。


 RENの文字が、また浮いた。


[CROSS OBSERVATION]

――――――――――

REN:STABLE

DURATION:04.2 SEC

LINK:NOT ESTABLISHED

――――――――――


 胸の奥が、きゅっと縮んだ。


 四秒。たったそれだけなのに、前より長い。消えかけた名前が、透明板の中央に残っている。ミオは息を止めて、その文字を見ていた。


 ベンが小声で聞いた。


「レンって、人?」

「人です」

「遠い人?」

「……とても」


 言ってから、ミオは少しだけ笑った。遠い、で済む距離ではない。けれど、今はそれでいい。ベンにはそれで伝わる。


 白狐さんが静かに言った。


「ミオ」

「はい」

「手が白いです」

「え?」


 透明板を握る指に力が入りすぎていた。指先が白くなっている。ミオは慌てて力を抜いた。


「押しても、届きませんよね」

「今は、名前を見ているだけです」

「はい。分かっています」


 分かっている。けれど、名前が出れば、呼びたくなる。透明板に触れたくなる。何か一文字でも置きたくなる。


 表示の下に、別の文字が浮かんだ。


[守護者系統]

――――――――――

候補照合:白狐

権限状態:保護中

取得条件:不足

連動:地方管理外縁環

――――――――――


 白狐さんのしっぽが、ゆっくり揺れた。


「わたしの方も、見えましたね」

「はい」

「取るものではありません」

「はい。見えただけです」


 ミオは短く答えた。ここで説明を増やすと、また手が動きそうだった。RENの文字。白狐さんの守護者権限候補。地方管理外縁環。全部が、同じ輪の上に少しずつ重なっている。


 リタが水桶を置き、外縁の灯りを見た。


「今日は、灯りがきれいです」

「はい」

「昨日より、つながって見えます」

「そうですね」


 村の人たちに見えているのは、淡い弧と小さな道標の灯りだけだ。透明板の文字は見えない。RENも、守護者権限候補も、地方管理外縁環も、ミオの手元にだけある。


 それでも、灯りは同じ場所で揺れている。


 RENの文字が薄くなる。四・二秒。表示はそこまでだった。白いノイズが散り、地図だけが残る。


 ミオは何も押さなかった。


 外縁の弧を細く整え、記録だけを残した。


[外縁環・観測記録]

――――――――――

地方管理外縁環:再表示

REN:STABLE / 04.2 SEC

守護者系統:候補照合

通信:未成立

――――――――――


 ログの文字が、透明板の中で静かに並ぶ。冷たくて、正確で、少しだけ残酷だった。


 白狐さんが、ミオの横に座り直した。


「ミオ」

「はい」

「待つだけではありません」

「はい」


 ミオは外縁の灯りを見た。星見台が淡く光り、環祠が返し、小祠群が小さく続く。外縁道標の灯りは、草の中で低く残っている。


「届く場所を作ります」

「それがよいです」


 白狐さんの声は静かだった。


 ミオは透明板を胸に抱えた。RENの文字はもう消えている。けれど、記録には残った。見間違いではない。祈りでも、気のせいでもない。


 外縁の輪が、ほんの数秒だけ、遠い名前を連れてきた。


 小祠一の灯りが、ぽう、と揺れた。


 ミオはその光を見ながら、指先の力をゆっくり抜いた。

「続きが読みたい」と思ったら下の評価とブックマーク登録をどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ