9 誓い
「お父様、おはようございます」
「ああ、おはよう」
翌朝、フィオナはセレナイト公爵家の廊下を歩き、すれ違った父親に挨拶をした。
彼女はアロイスが未だに手紙を読んでおらず、彼女の帰りを待ち続けていることなど知る由もなかった。
「こんなにも気持ちのいい朝は久しぶりかもしれません。やっぱりセレナイト家に帰ってきて正解でした」
「私も朝から愛する娘に会えて嬉しいよ」
父親はフィオナに笑い返した。
セレナイト公爵は目に入れても痛くないほどに娘を可愛がっていた。
彼はアロイスがフィオナを愛していないことを知っていたため、彼女の選択に猛反対していた。
公爵は彼女が帰ってきてくれたことを未だに夢ではないかと思うことがあった。
「フィオナ、今日は出かけるのか?」
「はい、お父様。ベルーシア侯爵家のアイリス様の茶会に招待されたので行こうと思います」
「お前が茶会に参加するとはな……珍しい」
フィオナはアロイスの元へ行ってからというもの、茶会などにはあまり参加していなかった。
参加しなかった理由はただ単に、彼以外に興味が無かったから。
(今思えば、何て愚かだったのかしら……)
そのせいでフィオナにはアロイス以外の友人がおらず、社交界でも壁の花となることが大半だったのだ。
今世ではアロイス以外の人とも親しくなりたい。
そのような理由から彼女は茶会への参加を決めた。
「ところで……フェンダル公爵家を出て行くとき、アロイスとは何もなかったか?」
「アロイス?特に何もありませんでしたよ」
「そうか、それはよかった」
フィオナの返答に、公爵は安堵の息を吐いた。
彼は、フィオナがまだアロイスに未練があるのではないかということを心配していたのだ。
(お父様ったら……)
フィオナはそんな父親の杞憂に気付き、安心させるように口を開いた。
「お父様も知っているでしょう?アロイスの愛する方がロレン……いえ、第三側妃様だけであることを」
「フィオナ……」
アロイス・フェンダル公爵が元恋人であるセレシア第三側妃を未だに忘れられないということは、国中の誰もが知っていた。
「お父様。私、以前は愛されなくても私がその分彼を愛せばいいと思っていたんです」
「フィオナ」
「努力していればいつかはきっと彼も私を見てくれるって、そう思ってアロイスの傍にい続けてきました」
フィオナは前世での二十四年間を思い出していた。
何度も期待を裏切られ続け、ただ消耗していくだけの日々。
とても幸せとは言えない日々だった。
「だけど、それが間違いだって気付いたんです」
二十四年の歳月の果てに、彼女はようやく気付いた。
どれだけ頑張っても得られないものがあるということ。
「お父様、私はこれから私と――私を大切に想ってくれる人たちのためだけに生きていきたいんです」
「フィオナ……」
家族や優しい使用人たち、そんな人たちのために彼女は生きていきたい。
前世での経験を経て、フィオナが出した結論だった。
(私はもう二度と……お父様たちを悲しませるような真似はしないわ……)
彼女は涙ぐむ父を前に、そう心に誓った。




