8 彼女のいない夜 アロイスside
「……これは一体どういうことだ」
「どういうこと、と言われましても……」
アロイスの後ろに控えていた侍従が、困惑したように答えた。
「何故フィオナがいないんだ?」
「そ、それは私にもわかりかねます……」
フィオナがフェンダル家を出て行ったことを知っているのは、侍女一人だけだった。
当然、彼や彼の侍従が知っているはずがない。
彼は物の少なくなった部屋を眺めた。
「……俺があまりにも遅く帰ってきたからか?」
彼は今日、侍女を通じて昼頃には戻るとフィオナに伝えた。
しかし、結局は仕事が長引き、夜になってしまった。
そのことにすねているのだろうか。
愚かな彼は、フィオナが彼の元を離れていったという可能性を考えなかった。
アロイスは呆れたように部屋の扉を閉めた。
フィオナが机の上に置いておいた置き手紙は、彼の目には入っていないようだった。
(アイツ……こんなことをして俺の気を引こうとするのか)
ただでさえ仕事で疲れているというのに。
不機嫌そうな彼に、侍従が声をかけた。
「あの、旦那様……セレナイト公爵令嬢を探しに行かれなくてよろしいのですか?」
「その必要はない、すぐに帰ってくるさ」
どうしてそんなことがわかるのかという目を向けると、アロイスが付け加えた。
「フィオナは実家と縁を切っているも同然だ。帰る場所なんてない。今もきっとすねて家出しただけだろう」
「旦那様……」
フィオナが実家に帰り、家族と過ごしていることを彼は知る由もなかった。
彼女はすぐに帰ってくると本気で思っていた。
そんなことあるはずがないというのに。
「部屋に戻る、今日は疲れた」
フィオナの部屋の前から移動した彼は、自室に入り、ソファに腰を下ろした。
「……」
一人になった彼は、フィオナのことを考えていた。
仕事以外で彼女が彼の傍にいないのは久しぶりだった。
(あまりにも長く一緒にいすぎたせいか……何だか違和感を感じる)
フィオナが傍にいないことを思うと、アロイスはどうも落ち着かなかった。
彼女が今どこで何をしているのかをついつい考えてしまう。
こんなのは初めてだった。
「フィオナ……早く帰ってこないかな……」
無意識に、そんなことを口にしていた。
彼女がこんなにも遅くまで外出しているのは初めてだ。
言葉にならない不安が押し寄せた。
「……俺は何を考えているんだ?」
自分が愛しているのはセレシアただ一人であり、フィオナではない。
しかし、無意識にセレシアではなくフィオナのことを考えていることに気付いた彼は、慌てて彼女を頭の中からかき消した。
「……どうかしてしまったようだな」
やはり疲れているんだ。
彼はソファからベッドに移動し、目を閉じた。
その日、アロイスはフィオナの夢を見た。




