5 セレナイト公爵家
「フィ、フィオナお嬢様!?」
「あら、あなたはもしかして庭師のマーカス!?大人になったのね!」
セレナイト公爵家に足を踏み入れてすぐ、フィオナは庭師のマーカスと出会った。
マーカスは彼女の四つ下で、弟のような存在だった。
「私がここにいたときなんてまだ子供だったでしょう。今はいくつになったのかしら?」
「二十歳です……お嬢様……一体何の用でこちらへ……?」
「あら、帰ってきたのよ。フェンダル公爵邸からね」
フィオナの言葉に、マーカスは驚きを隠せなかった。
アロイスを愛してやまないフィオナが彼を捨てて帰ってきたということが信じられなかった。
しかし、フィオナの持つ大きな荷物を見る限り嘘というわけではなさそうだ。
「ということは、セレナイト公爵家にお戻りになるということでしょうか……?」
「ええ、そうなるわね。これからよろしくね、マーカス」
「お、お嬢様……!」
フィオナはそれだけ言うと、マーカスの前から立ち去った。
去っていくフィオナの後ろ姿をじっと見つめていたマーカスは、未だに困惑していた。
「フィオナお嬢様……まるで別人のようだったな……」
彼がフィオナと会うのは六年ぶりだった。
以前のフィオナはアロイスのことしか頭になく、あまり周囲が見えていないように感じた。
しかし今の彼女は違う。
明るく前を向き、すでに過去を割り切っているようだった。
「お嬢様……フェンダル公爵家で一体何があったんだ……?」
フィオナがアロイスの元へ行ってからというもの、彼女は実家であるセレナイト公爵家とは絶縁状態だった。
帰省することもなければ、手紙を寄越すこともない。
あのような出て行き方をしたのだから当然のことだろうが、幼い頃から彼女と付き合いのあるマーカスは少し寂しかった。
「何はともあれ……お嬢様が帰ってきたことでまた賑やかになりそうだな」
彼は彼女の楽しそうな後ろ姿を見つめながら、口元に笑みを浮かべた。
***
邸の中に入ったフィオナは、すれ違う使用人たちに挨拶をしていた。
「みんな、久しぶりね!何も変わっていないのね!」
「フィ、フィオナお嬢様!?」
「フェンダル公爵家にいるはずでは……」
六年ぶりに帰ったフィオナの姿に、彼らはみんな驚きを隠せない。
その中で目に涙を浮かべて声をかけてきたのは、彼女の専属侍女だったキャシーだ。
「お嬢様……!ご無事だったんですね!いつになっても手紙の一つもくださらないので、不安で不安で……」
「たくさん心配かけたわね、もう勝手な真似はしないわ」
フィオナとキャシーは抱き合った。
「フィオナ!?何故お前がここにいるんだ……!」
「………………お兄様?」
聞き覚えのある冷たい声に振り向くと、フィオナの実の兄――キース・セレナイトが怒りに満ちた顔で立っていた。




