4 家族
「二十四年ぶりか……」
しばらくして、馬車はセレナイト公爵邸へ到着した。
馬車から降りたフィオナは、目の前に広がる大邸宅を見上げた。
彼女にとってはおよそ二十四年ぶりとなる帰省だった。
フィオナは両親や兄と縁を切ったときのことを思い起こした。
『お父様、お母様!私、アロイスの元へ行くわ!』
『何だと……?フィオナ、馬鹿なことはやめるんだ!』
荷物をまとめて家を出て行こうとするフィオナを、父親は引き留めた。
『アロイスはお前を愛しているわけでもないだろう。未だにあの側妃のことを想っているのはお前も知っているはずだ。そんな男のためにすべてを捨てる気か!』
『そうよフィオナ、私たちはあなたにきちんとした人と結婚して幸せになってほしいのよ』
母も父に同調した。
しかしフィオナはそれでも意思を曲げなかった。
『お父様、お母様。心配してくださってありがとうございます』
彼女は両親を見つめ返した。
『――でも私は行きます。アロイスの傍にいること、それが私の幸せですから』
『そんな……フィオナ……!』
フィオナは泣き崩れる母親を無視し、そのままカバンを持って邸宅を出て行った。
『父上、母上。あんな馬鹿は放っておきましょう。アイツは私たちがいくら言っても聞かないですよ』
背後から兄の冷たい声が聞こえたが、フィオナは振り返らなかった。
彼女がこうしている間にも、アロイスは死にそうだったからだ。
早く彼の元へ行きたい、行って私が救ってあげたい。
そんな気持ちでいっぱいになっていた。
「懐かしいわね……」
フィオナは当時のことを思って泣きそうになってしまった。
今思えば、両親の言うことがすべて正しかった。
そのことに気付いたのは、アロイスが亡くなってからだった。
すべての希望が崩れ去ったあと、彼女はようやく自らの過ちに気が付いた。
そして、いつも冷たかった兄が自分を慮ってくれていたということも。
アロイスが亡くなり、彼女が郊外で一人寂しく暮らしていた頃。
毎年誕生日になると、彼女の元には匿名で贈り物が届けられていた。
『わぁ、とっても美味しそう!』
最初に贈られたのはクッキー缶だった。
フィオナは甘い物に目がなかった。
そして次に贈られたのはオルゴール。
彼女は幼い頃から、曲を聴くのが好きだった。
ここまで来れば誰が送り主かなんて聞かなくともわかる。
『お兄様……』
フィオナの好きなものをこれほど把握しているのは、兄しかいない。
そして中に入っていたカードからは、いつも兄が好んでつけていた香水の香りがした。
このとき両親はすでに他界し、公爵位を継いだ兄も結婚して子供が生まれていた。
(お兄様……私のことを嫌っていると思ってたのに……)
彼女の目から涙が溢れた。
フィオナの兄は彼女の動向を密かに調べ、見守っていたのだ。
「お父様もお母様もお兄様も……みんなちゃんと私のこと大切に想ってくれていたんだわ」
彼女は邸宅の前で呟いた。
これからは二度と家族たちに迷惑をかけないようにしなければならない。
「もう二度と、愚かな真似はしない。家族ともしっかり向き合うのよ」
二十四年ぶりとなる再会に、何だか緊張してしまう。
フィオナは意を決して、邸に足を踏み入れた。




