2 回帰
再び目を開けると、見慣れた天井が視界に入った。
「ここは……フェンダル公爵邸……?」
忘れるはずがない。
彼女は二十年もの間、この場所で過ごしたのだ。
辛い記憶ばかりだったが、フィオナはそれでもこの場所にいることを望んだ。
全ては愛する彼のため。
「どうして私がここにいるのかしら……」
フィオナはベッドから起き上がり、寝間着のまま部屋を出た。
「おはようございます、令嬢……って、その格好は……!」
「あれ、貴方は……」
寝間着のまま廊下を歩くフィオナに、たまたますれ違った侍女は驚きを隠せなかった。
とても貴族令嬢が取るような行動ではなかったからだ。
一方のフィオナは、理解が追いついていなかった。
今目の前にいる侍女は、フェンダル公爵家の者だった。
彼女はたしかに死んだはずだった。
ならこの侍女も共に死んだというのか。
それは困る、たしか彼女には夫と子供がいたはずだ。
結婚できなかったフィオナと違い、彼女はちゃんとした家庭を持っていた。
「令嬢、旦那様は今日外せない用事で出かけていらっしゃるそうです。昼には戻るとおっしゃっておりました」
「旦那様……?」
旦那様とは一体誰のことなのか。
フェンダル公爵家の侍女だった彼女がそう呼ぶ人物はこの世で一人しかいない。
しかし、その人はもう――
「旦那様は既に亡くなったはずでは……」
「……何をおっしゃっているのか」
侍女はきょとんとした。
彼女のその反応を見たフィオナはさらに困惑した。
「令嬢、もしかして忘れていたんですか?今日は旦那様の二十五歳のお誕生日ではありませんか。あれほど盛大に祝うと楽しみにしていたのに……」
「二十五歳…?アロイス様が…?」
彼は四十三歳で病により亡くなったはずだった。
フィオナは十八の頃、愛する女性を失って疲弊していたアロイスを支えるために自ら公爵家へ入った。
それからは毎日のように彼の公爵としての業務をサポートし、彼の傍に寄り添った。
公爵夫人でもないくせにと陰口を叩かれることもあったが、常にアロイスを第一に考える彼女は特に気にしなかった。
「私はたしかにあの日亡くなったはずよ……ならこれは夢?夢にしてはリアルだわ……」
「さ、さっきから何をおっしゃっているのですか……?」
ふと、窓に反射した自分を見ると、シミ一つない若い貴族令嬢が目に入った。
アロイスが二十五歳ということは、彼女は今二十四歳だ。
窓に反射した彼女は、最後に見たときよりもずいぶんと若く美しかった。
フィオナは驚いて思わず自分の顔を何度も触った。
頬をつねってもみたが、夢ではなさそうだった。
「つまり、時間が戻ったということ……?それ以外には考えられないわ……」
「れ、令嬢……?」
困惑する侍女をよそに、フィオナはすぐに部屋へと戻った。
「令嬢、何をなさるおつもりで!?」
心配になった侍女は慌てて彼女について行った。
「荷物をまとめるわ」
「……どこかへ行かれるのですか?」
今ならまだやり直せるかもしれない。
彼女は振り返ると、きっぱりと言い切った。
「――ここを出て行くわ」
「はい、令嬢……え!?!?!?」




