14 傍にいる アロイスside
「……」
紙を持つアロイスの手が小刻みに震えた。
公爵邸を出る?
あのフィオナが出て行っただと?
突然のことでまったく理解が追いつかなかった。
「だ、旦那様……」
侍従はそんな彼を不安げに見つめていた。
アロイスがこれほど動揺しているところを見たのは、彼がセレシアを失ったあの日以来だった。
しばらくして、アロイスがフィオナからの手紙を握りつぶした。
「これは一体どういうことなんだ……!」
「先ほど、一人の侍女から話を聞いたのですが、セレナイト嬢は荷物をまとめて実家である公爵家に帰ったようです」
「実家に帰っただと?フィオナが?」
アロイスは信じられなかった。
フィオナだけは、これからもずっと永遠に彼の傍にいると確信していたからだ。
(俺は……何故そう思っていたんだろうか……)
今考えてみれば、結婚しているわけでもないのに何故このままずっと傍にいてくれると思っていたのだろう。
彼は自分が恐ろしく感じた。
握りつぶした紙をゴミ箱に投げ入れると、アロイスは上着を羽織って部屋の扉へ向かった。
「旦那様……!どちらへ行かれる気ですか……!」
「……………セレナイト公爵家だ」
フィオナに会いに行く。
そう呟いた彼の顔は、生気を失ったように青かった。
***
馬車に乗っている最中、彼は昔のことを思い出していた。
六年前、アロイスが最愛の女性を失ったときのことだ。
彼は部屋で一人、酒を飲み続けていた。
誰も入れることなく、真っ暗な部屋で酒の空き瓶が何本も床に転がっていた。
外から自身を呼ぶ声が聞こえても、彼は扉を開けなかった。
アロイスはもう何日も寝ていなかった。
横になって目を閉じても眠れなかった。
理由は明白だった。
『あぁ……セレシア……』
彼はこの日、愛する女性を失った。
両親を説得してようやく一緒になれると思ったのに。
運命は何て残酷なのだろうか。
女好きの皇帝に連れていかれる彼女の後ろ姿を、アロイスはただ眺めていることしかできなかった。
彼女がいなくなった瞬間、彼の世界から光が消え、全てがどうでもよくなった。
俺はこれから、何のために生きればいいんだろうな――
そんなことを考えていたそのときだった。
『アロイス!!!』
『………………フィオナ?』
固く閉ざされていた部屋の扉をこじ開けて入ってきたのはフィオナだった。
『アロイス!』
彼女は彼をギュッと抱きしめた。
『フィオナ……何故お前がここに……』
『アロイス……辛かったわね』
彼女に抱きしめられると、不思議とアロイスの目から涙が溢れた。
しばらく抱き合ったあと、フィオナが彼と目を合わせた。
『アロイス』
『フィオナ……?』
『――私だけはこれからもずっと……あなたが死ぬまであなたの傍にいるわ、だから心配しないで』
そうはっきりと口にしたフィオナの目を、アロイスは今でもハッキリと覚えていた。




