12 皇家の事情
オランジュ帝国の現皇帝陛下は女好きで有名だった。
皇帝はすでに五十を過ぎていたが、未だに女性関係での噂が絶えなかった。
平民から貴族令嬢、別の国の王女まで。
身分や年齢問わず多くの女性たちに手を出し続けていた。
何も最初からそのような人だったわけではない。
皇帝は、三十年前に最愛の皇后を病で亡くしたという過去がある。
彼が女遊びを始めたのはその頃からだった。
愛する女性を失った彼は、寂しさを紛らわせるように多くの女性と一夜を共にした。
その中で運良く彼に気に入られた者だけが皇妃として皇宮へ上がることができた。
しかし、正妻である皇后の座だけは未だに空いたままだった。
彼にとってその地位につける者はただ一人であり、代わりなど存在しない。
皇帝陛下には今、十人以上の子供がいた。
もちろんその中には婚外子として生まれた者や、母親から捨てられた者もいた。
彼は自分の血を引く子供たちに関心がないのか、特に調べもせず次々と子供を迎え入れている。
そのため、皇子や皇女の中には皇家の血を引いているか疑わしい子までいた。
「皇帝陛下は自由奔放なお方ですから、仕方がありませんわ」
「そうですね、陛下にとって愛しているのは亡くなった皇后陛下だけでしょうし」
セレシアの話から始まり、話題は自然に皇子たちへと移った。
「ところで、皇家といえば、第三皇子殿下がとても麗しいそうです」
「以前皇宮へ行ったときに見かけましたが、まるで彫刻のようでしたわ!あんなにも綺麗な方がほかにいません」
(いかにも女の子たちが好きそうな話題ね……)
フィオナは微笑みながら彼女たちの会話を聞いていた。
「いくら何でも大げさでしょう」
「そんなことはありませんわ!かつて美姫と呼ばれた第一側妃様にそっくりでした」
「そこまで言うなら……期待できますわね」
フィオナは前世を含めると、既に五十年以上生きている。
茶会の参加者のほとんどは十代の少女だ。
(話が合うかちょっと心配だったけれど……)
色恋に胸をときめかせる女の子たちは見ていて楽しい。
思わず笑みがこぼれた。
「セレナイト公女様は誰が一番素敵だと思いますか?」
「…………え、私ですか?」
考え事をしていたフィオナは、急に話を振られてハッとなった。
「皇家の皇子殿下たちです!やっぱり、第三皇子殿下が一番ですよね?」
「私は紳士的な第二皇子殿下一択ですわ!」
フィオナはまくしたてるような二人に、気後れしながらも答えた。
「すみません、私、皇太子殿下以外とはほとんど会ったことがないんです」
「そうだったんですね……皇太子殿下……」
フィオナが皇太子の名を出すと、場の空気が凍り付いた。
「皇太子殿下だなんて……」
「そうですね、あの方はちょっと……」
「……」
やらかしたことに気付いたのはそのあとだった。
(皇太子の名前を出すのはやっぱりマズかったかしら……)
気まずい空気の中、フィオナの初めての茶会は終わりを迎えた。




