10 お茶会
その日の午後三時。
「セレナイト公爵令嬢、本日はお越しいただきありがとうございます」
「こちらこそ、招待してくださってありがとうございます」
昼食を食べたあと、フィオナはベルーシア侯爵家へ訪れていた。
目的はベルーシア侯爵家の長女・アイリスが開いた茶会に参加するため。
アイリスは社交的で、顔が広かった。
今回の茶会に参加しているのも、社交界で名を知られた高位貴族の貴族令嬢ばかりだった。
(やっぱり視線を集めているわね)
初めて参加するフィオナは、早々参加者たちの好奇の目に晒されることとなった。
彼女たちの視線を気にすることなく、フィオナは椅子に座った。
テーブルにはお茶やお菓子が並べられている。
彼女はこのような甘い物をあまり食べなかった。
アロイスが甘い食べ物を好まなかったからだ。
「公女様、私はオルタナ伯爵家のリリアンヌと申します。セレナイト公女様とお茶ができるだなんて、とっても嬉しいですわ」
「私もです」
茶会の参加者の一人がフィオナに声をかけた。
その目には、底知れない野望が見えた。
フィオナは帝国に四つしかない公爵家の一つ・セレナイト家の令嬢だった。
そして彼女の兄・キースは次期公爵でありながらも、結婚はおろか婚約者すらいない。
眉目秀麗なキースに惹かれる令嬢は多く、彼の妻の座を狙っている者もかなりいると聞く。
結局彼はその中の誰も選ぶことなく三十を手前に、皇女と政略結婚することとなるのだが。
「公女様がこのような会に参加されるだなんて、珍しいですね」
「ええ……これからはできる限り参加したいと思ってます」
フィオナがニッコリと笑った。
参加者たちが何を企んでいようと、彼女には関係のないことだ。
「――ところで、公女様は今おいくつでしたっけ?」
突然の質問に、フィオナは顔を上げた。
(あの方は……)
彼女の視界に、金髪縦ロールを二つにまとめた若い令嬢が映った。
――マリアーノ・クルシュ男爵令嬢
父親が大富豪で、莫大な資産を使って爵位を購入した成金の貴族令嬢だ。
成金の名に相応しく、全身を宝石で固めている。
(茶会に参加するとは思えない服装ね……クルシュ男爵は娘の教育をしっかりしているのかしら……)
マリアーノは男爵令嬢で、フィオナは公爵令嬢。
挨拶もせずにいきなり話しかけるのは無礼に当たる。
平民の両親を持ち、貴族になったばかりの彼女はまるで気付いていないようだ。
フィオナは答えたくなかった。
しかし、自分よりかなり年下なうえに、貴族になりたての女の子相手にそのような意地悪をするのは気が引けた。
「……二十四です」
「あら、まぁ……」
彼女がそう答えると、マリアーノはフフッと口角を上げて笑った。
そして一部の令嬢たちが、フィオナを憐れむような目で見つめた。
「その年で結婚もされていないとは……」
「公女様ともあろうお方が……」
「フェンダル公爵閣下には相手にされていないようね……」
帝国では、フィオナの年代の貴族令嬢が結婚していないのはかなり珍しいことだった。
大体の貴族令嬢は十代の頃に婚約をし、遅くとも二十二までには結婚している。
二十五を過ぎたら完全な嫁ぎ遅れだ。
(お兄様だって二十六歳だけど未だに結婚してないし……)
女性だけがそのように言われるのは、この国が男尊女卑であるからだろう。
「私のことを心配してくれているようですね」
「ええ、だって令嬢、その年で婚約者すらいらっしゃらないんですもの。令嬢のことが心配でたまりませんわ。よろしければ、私の知り合いの男性を紹介し……」
マリアーノの言葉を、フィオナは遮った。
「――クルシュ男爵令嬢、こちらにはこちらの事情があるのですよ。セレナイト公爵家の長女である私に釣り合う男性たちがいらっしゃらなくて困っているんです」
「……」
マリアーノが眉をピクリとさせた。
「そういえば、クルシュ嬢も婚約者がいませんでしたよね?私が縁談を断った殿方を紹介しましょうか?」
「な……!」
フィオナは公爵家の令嬢であり、彼女に釣り合う身分の令息はそうそういない。
四つある公爵家では、未婚の令息はアロイスだけだった。
皇家には皇太子を始めとした未婚の皇子が何人かいるが、彼女の生家であるセレナイト家はあまり皇家と親しくなかった。
(まぁ、もちろん相手の身分なんてあまり気にしてないけど)
何だかんだ一番大事なのは性格だ。
結婚相手がどれだけハイスペックでもアロイスみたいな人なら苦労するだろうし。
「あら、伯爵家の令息なら男爵家のクルシュ嬢には良縁ではありませんか?私はあまりにも身分が違いすぎてお断りしましたけど」
「……」
マリアーノは馬鹿にされたことに気付いたのか、顔を真っ赤にして拳を握りしめた。
売られた喧嘩は買う、フィオナの完全勝利だった。




