離れるという選択
翌朝、私は重い気持ちで目を覚ました。
昨晩のことが頭から離れない。
――モコを狙う者が街にいる。
普段なら、こんなことで動揺する私ではないはずだった。
でもモコが標的になると、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
「モコ……」
もふもふは、いつものように丸くなって寝ている。
見上げる黒い瞳に、何の不安もない。
それが余計に、私を追い詰めた。
私は宿の外へ出た。まだ街は静かで、朝の光が石畳に反射している。
深呼吸をすると、心を決めた。
「……私、離れる方がいいかも」
モコと一緒にいることで、危険が私たちに迫る――
それなら、一時的に距離を置くのも手だと思ったのだ。
宿に戻ると、モコは気づいたのか、私の足元にすり寄ってくる。
「……ごめん、モコ。ちょっとだけ、離れてもらうかも」
もふもふは鼻を鳴らした。
まるで「わかった」と言っているかのようだ。
その後、私は神殿を訪ね、計画を相談した。
「契約主様、離れる……とは?」
神官は眉をひそめた。
「一時的に街の外で過ごす、ということです」
神官は少し考え、やがて口を開いた。
「聖獣は契約主を守るため、どこへでもついていきます」
……あれ? それって離れても意味ない?
「……え、モコも一緒に来るの?」
「もちろんです」
もふもふの力は、逃げても隠れても、変わらないらしい。
「……意味ないじゃん」
私は頭を抱えた。
それでも、モコの存在に救われる自分を否定はできない。
夜、宿でモコと並んで座り、窓の外を見つめる。
街の灯りが遠く、風が心地よく吹いていた。
「……逃げても、結局一緒か」
モコは満足そうに寝転び、私の膝に頭を乗せる。
「……いいか、モコ。なら一緒にいるだけで、十分だ」
もふもふの温かさが、全てを包み込む。
離れることも、戦うことも、今の私には必要ない――
ただ、隣にいてくれるだけで、心は満たされる。
異世界での生活はまだ始まったばかりだ。
でも、モコがいれば――怖くはない。




