狙われる聖獣
街の生活にも少しずつ慣れてきた頃、私は初めて「危険」の気配を感じた。
それは、昼下がりのことだった。
広場でモコと子どもたちと遊んでいたら、遠くから何か視線を感じる。
「……誰か、見てる?」
モコが低く唸る。
いつもなら無警戒に尻尾を振るのに、今日は警戒している。
視線を辿ると、黒いマントの男が一人、建物の影からこちらをじっと見ていた。
目が合うと、スッと姿を消す。
「……なんだ、あれ」
胸騒ぎが止まらない。モコは私の前に立ち、背中を丸める。
「……まさか、危ない人?」
宿に戻ってからも、気配が消えない。
夜、窓の外に黒い影がちらりと見えたとき、私は初めて恐怖を覚えた。
「モコ……どうしよう」
もふもふは安心させるように、私の手に鼻を押しつけてきた。
その重みと温かさに、少し心が落ち着く。
翌日、神殿に出向くと、例の若い神官が眉をひそめて待っていた。
「契約主様、昨晩のことですが……」
「……見られてた?」
「はい。聖獣を狙う者が、この街にも近づいているようです」
どうやら、モコの存在が街に知れ渡ったことで、狙う者が現れたらしい。
その力を手に入れようとする輩が、少なくとも二人は動いているらしい。
「え……じゃあ、モコも私も危ないってことですか?」
「危険はあります。しかし、逃げる必要はありません」
神官の言葉に、私は混乱した。
逃げない……? でも、力のない私たちを狙う者がいるのに?
モコは、私の足元で低く唸る。
見上げる瞳には、確かな覚悟があった。
「……大丈夫かな、私たち」
神官は微笑んだ。
「聖獣は、契約主を守ります」
その言葉に、少し安心する。
でも、頭の片隅で、心臓が早鐘を打つ。
この街は、平和だけど――
私たちの生活は、これから少しずつ、戦いと隣り合わせになるのだ。
モコの毛に顔をうずめ、私は誓った。
「……守ろう、モコと一緒に」
もふもふと共に、まだ見ぬ試練に立ち向かう決意を胸に。




