ここが、帰る場所
戦いから数日後、街は平穏を取り戻していた。
市場では子どもたちの笑い声が響き、広場には色とりどりの花が咲いている。
でも、私の胸には、一つの迷いがあった。
「……元の世界に戻るか、このまま異世界にいるか」
神殿で、神官からその選択肢を示されたのだ。
モコは何も言わない。ただ、私の隣に座り、いつものように温かさをくれる。
私は窓の外の夕陽を見つめながら考える。
元の生活、友達、家族――確かに懐かしい。
でも、モコと一緒に歩んだこの街、この日々――それを捨てる勇気は、私にはなかった。
夜になり、宿の屋上でモコと並んで星空を見上げる。
「……ねえモコ。私、こっちに残るよ」
もふもふは低く鼻を鳴らし、嬉しそうに顔を擦りつけてきた。
「……うん、やっぱりここが私たちの居場所だね」
街の灯りが、優しく私たちを包む。
戦いも危険もあったけれど、それ以上に大切なものがここにはあった。
神殿の神官がそっと声をかける。
「契約主様の選択を尊重します。聖獣も、喜んでいるでしょう」
モコが小さく尻尾を振り、私の手に頭を乗せる。
その温もりが、言葉以上に私の心を満たす。
深呼吸をして、私は笑った。
「……よし、モコ。これからも、一緒に暮らそうね」
もふもふは嬉しそうに吠え、私たちは肩を寄せ合う。
異世界での生活は、まだまだ未知でいっぱいだ。
だけど、モコがいれば怖いものはない。
強くなくても、戦えなくても、知識がなくても――
この世界で、私は確かに“守る側”であり、守られる側でもある。
そして、心からそう思った。
ここが、私たちの帰る場所だ、と。
もふもふと一緒に歩む日々。
異世界の風が、やさしく頬を撫でる。
新しい毎日が、今、始まった――。




