愛犬がでかい。ここはどこ。
最初に感じたのは、地面の冷たさだった。
「……ん?」
目を開けると、見知らぬ空が広がっている。やけに青くて、雲が近い。寝転んだまま首を動かすと、周囲は深い森だった。
「え、ここどこ……?」
昨日までの記憶ははっきりしている。
仕事を終えて、いつものように愛犬のモコと夜の散歩に出かけて――そこから先が、ない。
「夢……じゃないよね」
起き上がろうとした瞬間、腕が何か柔らかいものに当たった。
――もふっ。
「……?」
恐る恐る視線を向ける。
「……でっか」
そこにいたのは、白くてふわふわした巨大な毛の塊だった。私の胴体くらいある。心臓が跳ねる。
「ちょ、なにこれ……!」
「ワン!」
元気な鳴き声と同時に、毛の塊が動いた。
大きな黒い目、ぴんと立った耳。
「……モコ?」
呼ぶと、その巨大な犬――間違いなく私の愛犬モコが、尻尾をぶんぶん振りながら顔を近づけてきた。
「ワフワフ!」
「待って待って、近い近い!」
顔が埋まる。息ができない。
けれど、知っている匂いと温もりに、混乱より先に安心が込み上げた。
「……ほんとに、モコだ」
やっとの思いで距離を取ると、改めて周囲を見る。見たことのない木々、遠くで聞こえる不思議な鳴き声。そして――
「グルルル……」
低い唸り声。
振り返ると、角の生えた狼のような生き物が、茂みの奥からこちらを睨んでいた。牙が光る。
「……うそでしょ」
足がすくむ。声も出ない。
その瞬間、モコが私の前に立った。
大きな背中。揺れる白い毛。
いつも散歩のとき、車が来ると前に出てくれた、あの背中だ。
「モコ……?」
モコは振り返らず、低く唸った。
「――ガウッ!」
次の瞬間、視界が揺れた。
モコが一瞬で距離を詰め、角の狼を弾き飛ばす。鈍い音とともに、魔物は木に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
「…………え?」
呆然と立ち尽くす私の前で、モコは何事もなかったかのように戻ってくる。
「ワン!」
誇らしげな顔で、尻尾を振りながら。
「……強すぎない?」
答える代わりに、モコは私の頬を舐めた。
もふもふで、温かくて、確かに現実だった。
異世界かどうかは分からない。
でも一つだけ、はっきりしている。
「……一人じゃないんだ」
私はモコの首に抱きついた。
この世界で、何が起こっても――
このもふもふがそばにいる限り、きっと大丈夫だ。




