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【ひとまず完結】異世界の偏屈爺、かく語りき  作者: 槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ


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09:オリジナリティを欠く

筆者:石臼翁



 近頃、若い連中の間で奇妙な病が流行っているように思える。それは「人と同じは、格好が悪い」という、実に厄介な病だ。


 先日も馴染みの武具屋の主人が、やれやれといった顔でこぼしていた。駆け出しの冒険者だという若者が店に来て、こう言い放ったのだそうだ。「皆が使っているような、ありきたりの剣はいらない。俺だけの、特別な一本が欲しい」と。主人が、初心者に最も扱いやすく、実戦で証明された定番のロングソードを勧めると、その若者は鼻で笑い、「そんな量産品は、オリジナリティに欠ける」と吐き捨てて帰っていったという。


 オリジナリティ。独創性、とでも訳せばよいのか。実に結構な響きを持った言葉だ。だが私に言わせれば、これほど扱いを違えやすい言葉もない。


 彼らが言う「オリジナリティ」とは、一体何なのだろうか。他の誰も持っていない奇抜な形の武器を持つことか。誰もやらないような突飛な戦い方をすることか。


 彼らは、ただ「違う」という一点においてのみ価値を見出し、その他すべてを切り捨てているように見える。それはもはや独創性などという高尚なものではなく、ただの子供じみた天邪鬼、意地っ張りに過ぎないのではないか。


 そもそも、世の中に「定番」と呼ばれるものが、なぜ存在するのか。それは、数えきれないほどの先人たちが、血と汗と、時には命を代償にして、「これが最も効率的で、最も安全で、最も信頼できる」という最適解を導き出してくれたからに他ならない。あの武具屋が勧めたロングソードにしてもそうだ。あの長さ、あの重さ、あの重心。そのすべてが、何百年という歳月をかけて、無数の戦いの中で研ぎ澄まされてきた、いわば人類の知恵の結晶なのだ。それを、まだ剣の握り方さえおぼつかないような若造が、「オリジナリティに欠ける」の一言で切り捨ててしまう。これほど傲慢で、愚かなことがあるだろうか。


 彼らは、基本を学ぶという、最も重要で、そして最も地味な過程を軽んじている。まずは、先人たちが築き上げた「型」を徹底的に己の身体に叩き込む。なぜこの形なのか、なぜこの手順なのか、その意味を骨の髄まで理解する。

 その上で、初めて「型破り」という領域に足を踏み入れることができるのだ。型を知らぬ者のそれは、ただの「形無し」だ。この言い回しを聞いたことがある者は多かろう。


 見様見真似で奇抜なことをしたところで、それは付け焼き刃の芸当に過ぎない。いざという時にまったく役に立たないことも、先人たちの散った命の数が証明している。基礎という揺るぎない土台があってこそ、その上に独創性という名の家を建てることができるのだ。その道理が、彼らには分かっていない。


 この奇妙な病は、なにも武具選びに限った話ではない。ダンジョン攻略の戦術にしてもそうだ。ベテランたちが確立した、最も安全で確実な連携というものがある。盾役が敵の攻撃を受け止め、その隙に魔法使いが詠唱を始め、戦士が側面から切り込む。あまりに教科書的で、面白みがない、と彼らは言うのかもしれない。そして、誰もやったことのないような奇策を弄し、結果、仲間を危険に晒す。彼らはそれを「挑戦」と呼ぶのだろうが、私には無謀な「博打」にしか見えない。彼らが守るべきは、己のちっぽけな自尊心か、それとも仲間全員の命か。その天秤さえ、正しく測れないのだ。


 思うに、彼らは「自分は特別だ」と信じたいのだろう。大勢の中に埋もれてしまうことを何よりも恐れている。だから、手っ取り早く「違うこと」をすることで、己の存在を証明しようとする。だが本当の個性というのは、そんな表面的な差異の中に宿るものではない。同じ剣を握っていても、それを振るう者の練度によって、その太刀筋は千差万別に変わる。同じ戦術を用いていても、状況判断の的確さ、仲間との呼吸の合わせ方によって、その成果は天と地ほども開く。個性とは、与えられた道具や定石の中に、いかに己の魂を注ぎ込むか、というその深さにおいてこそ立ち現れてくるものなのだ。


 奇抜な形の剣を振り回し、自己満足に浸っている若者に言いたい。お前がその剣で斬れるのは、せいぜい風くらいのものだろう。一方、お前が馬鹿にしたあの「量産品」の剣は、これまで幾万という兵士の手に握られ、国を守り、家族を守り、そして歴史そのものを斬り拓いてきたのだ。その一本の剣に込められた、先人たちの願いや祈りの重みを、お前は理解しているのか。


 オリジナリティとは、人と違うことを追い求めるあまり、先人たちが積み上げてきた知恵や歴史をないがしろにすることではない。むしろ逆だ。その偉大な遺産を、謙虚に学び、敬意を払い、そしてその上で、自分にしかできない、ほんのわずかな「何か」を上乗せしていくこと。その地道で、果てしない営みこそが、本物の「独創性」を生むのだ。


 こんなことを言ったところで、あの類の若者には「年寄りの説教はオリジナリティに欠ける」とでも言われるのが関の山。だが独創性に富んだ言動などを振り回していては、ダンジョンなどで咄嗟に自分や仲間の命を救えない。守れない。大多数の人間は、経験を積んでそのことに気付いていく。だからこそ「自分は特別だ」と思い込みたいのかもしれない。その蒙が啓かれるのが、ダンジョンでしくじり命を散らす寸前、などということにならなければいいのだが。



 -了-

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