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【ひとまず完結】異世界の偏屈爺、かく語りき  作者: 槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ


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20:竜の頭、蛇の尻尾

筆者:石臼翁



 物事の始まりというものは、いつだって華々しく、人の心を躍らせるものだ。まるで天を衝く竜の頭のように、勇ましく、壮大で、これから始まる物語への期待に満ち満ちている。


 とはいえ、現実はそう上手くいくものばかりではない。その竜がいざ天へと昇り始めたかと思えば、いつの間にかその勢いを失い、気づけば地面を這うみすぼらしい蛇の尻尾になっていた。などという顛末は、この世には掃いて捨てるほど転がっている。


 近頃、王都を騒がせている「新生・王宮騎士団」にまつわる一連の騒動。これはまさしくこの「竜頭蛇尾」という言葉を、これ以上なく的確に体現していると言えるだろう。


 話の発端は、数ヶ月前に遡る。新しく即位された我らが若き国王陛下が即位後、最初の大仕事として、王宮騎士団の大規模な改革を宣言された。曰く、「旧弊にまみれた騎士団を刷新し、国内外の脅威に迅速に対応できる、精強無比な新たなる組織を創設する」と。その宣言は実に勇ましく、国民の誰もが胸を熱くした。長らく貴族の子弟たちの名誉職と化し、その剣は飾り物、その鎧は見栄を張るための道具に成り下がっていた騎士団。その腐敗ぶりに、多くの民が辟易していたからだ。


 国王陛下の改革案は、実に画期的なものであった。

 まず、家柄や門閥を一切問わず、純粋な実力のみで団員を選抜するという。平民であろうと、辺境の出身者であろうと、剣の腕と忠誠心さえあれば誰にでも門戸は開かれる。

 次に、装備の一新。ミスリルやアダマンタイトといった、国庫の底を叩いてでも最高級の素材を揃え、最新の魔術が付与された鎧と剣を、全団員に支給してみせると豪語した。

 さらに、伝説の「剣聖」を指南役として招聘し、その秘技を惜しみなく伝授させるとまで言ってのけた。

 まさに、竜の頭。これ以上ないほどに、壮大で、希望に満ちた船出であった。


 王都は期待と熱狂に包まれた。腕に覚えのある若者たちが、我こそはと国中から集まり、選抜試験の会場は、かつてないほどの熱気に満ちたという。私も、馴染みの武具屋のせがれが試験に挑むというので、冷やかし半分で見物に出かけたものだ。そこには確かに、新しい時代の到来を予感させるような、きらきらとした希望が満ち溢れていた。


 数週間の厳しい選抜と訓練を経て、ついに「新生・王宮騎士団」が、その威容を民衆の前に現した。中央広場で行われた叙任式は、それは見事なものだった。陽光を浴びて輝く、揃いの銀色の鎧。その背には王家の紋章が誇らしげに刻まれている。彼らが掲げる剣は、抜き身にしただけで周囲の空気を震わせるほどの魔力を放っていたという。民衆は熱狂し、その完璧な布陣に、王国の輝かしい未来を見た。私も、その時は柄にもなく少しばかり胸が熱くなるのを感じたものだ。ああ、この国もまだ捨てたものではないのかもしれぬ、と。


 だが、である。その輝かしい竜の頭が、みすぼらしい蛇の尻尾へと成り下がるのに、それほど長い時間はかからなかった。


 問題が露見し始めたのは、騎士団が本格的に任務を開始してから、ひと月も経たぬうちのことだった。最初の任務は、王都近郊の森に出没するというゴブリンの群れの討伐。屈強な騎士団にとっては、朝飯前の、慣らし運転のような任務のはずだった。ところが、彼らはそのゴブリン相手にまさかの苦戦を強いられたのである。死傷者こそ出なかったものの、何人もの騎士が傷を負い、装備を破損させ、ほうほうの態で王都へと逃げ帰ってきたのだ。


 一体、何が起きたのか。最初は誰もが信じられなかった。だがその後の調査で、実に情けない、そして滑稽でさえある事実が明らかになっていく。


 まず、あの輝かしい鎧。あれは、確かにミスリルをふんだんに使った一級品ではあった。だが、問題はその設計にあった。見栄えを重視するあまり、装飾過多で、やたらと重く、そして関節部の可動域が極端に狭かったのだ。見た目は立派だが、実戦では満足に剣を振るうことさえままならない、ただの「動く棺桶」であったという。

 次に、あの魔力を秘めた剣。確かに、威力は絶大だった。だがその強力すぎる魔力を制御するには、相応の訓練と精神力が必要となる。実戦経験の乏しい若者たちが、いきなりそんな代物を手にしても、その力をまともに引き出すことなどできはしない。むしろその力に振り回され、仲間を危険にさらす場面さえあったという。


 そして何よりも致命的だったのは、彼らの「心」の問題だった。実力主義で選抜されたはずの彼らは、いつの間にか「自分たちは選ばれたエリートだ」という、根拠のない傲慢さに取り憑かれていた。平民出身の者は貴族出身の者を見下し、貴族出身の者はその血筋を鼻にかける。互いに協力し、連携するという、集団戦闘における最も基本的な鉄則を忘れ、我先に手柄を立てようとバラバラに突出しては、ゴブリンの巧妙な罠にはまっていったのだ。あの伝説の剣聖も、彼らのそのあまりの未熟さと、忠告に耳を貸さぬ傲慢さに愛想を尽かし、早々に指南役を降りてしまったという。


 結局のところ、彼らが持っていたのは、見栄えの良い竜の頭だけだったのだ。その巨大な頭を支えるべき強靭な胴体も、しなやかな四肢も、何よりそれをひとつの生き物として機能させるための統一された意志も、彼らには欠けていた。鎧も、剣も、そして「実力主義」という理想さえも、すべてが机上の空論。ただの、見栄えの良い飾りに過ぎなかったのである。


 この顛末を聞いて、私は、ただただ深い溜息をつくしかなかった。物事を始めるのは誰にでもできる。大きな理想を掲げ、立派な計画を立てるのも、そう難しいことではない。だが本当に難しいのは、その最初の熱意と理想を、地道な努力と、現実的な修正を繰り返しながら、最後まで維持し続けることなのだ。竜の頭を描くことはできても、その長い胴体と、力強い尻尾までを描き切るだけの、根気と、誠実さと、そして何よりも謙虚さを持ち合わせている人間は、そう多くはない。


 新生騎士団は、今や王都の笑いものだ。彼らはあの輝かしい鎧を誇ることもできず、城の片隅で、基礎の基礎から訓練をやり直させられているという。あの華々しい竜の頭は、今や見る影もない。ただ地面を這う、惨めな蛇の尻尾が、そこに残るだけだ。


 まあ、これもひとつの教訓だろう。見かけ倒しの竜になるくらいなら、小さくともしっかりと地を踏みしめる力強い蛇であった方が、よほどましだということだ。


 さて、あの若き国王陛下は、この手痛い失敗から何を学ばれるのか。若さゆえの過ちが、この程度のことで発露したということは幸いとも言える。王と言えども、まだ若いのなら未熟さもあろう。志高い偉大な竜となれるか。年寄りらしく、成長を見守っていこうと思う。



 -了-

読んでいただきありがとうございます。

次回の更新は、12月17日の予定です。


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