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玄関で、待つ

家族が出かけているとわんこは玄関で待ってます

そのままを描きました

ソラは、今日も玄関で耳を澄ませている。


白く短い毛に、ピンと立った耳。もう三年になる、この家で過ごすのは。庭の隅に咲くツツジのにおい。朝のパンの匂い。郵便受けのカタンという音。そのすべてが、ソラの一日を彩っていた。


けれど、一番の楽しみは、ユウトが「ただいま」と言いながら帰ってくる時間だった。ランドセルをバンと玄関に置き、「ソラ!」と駆け寄ってくる。耳を撫でてくれる手は、少し汗ばんでいた。


だが、ある日から様子が変わった。


ユウトはよく眠ってばかりになった。ご飯も少ししか食べず、ソラともあまり遊ばなくなった。髪がふわっと抜けた日、お母さんは声を出さずに泣いていた。


ユウトが病院に行ったきり、帰ってこなくなったのは、その少しあとだった。


ソラはそれでも、玄関にいた。ユウトが戻ってくるのを、じっと待ち続けた。雨の日も、風の日も。耳を澄ませ、誰かの足音が近づくたびに、しっぽを振って立ち上がる。でも、それは違う人で、違う匂いだった。


朝になると、お母さんはソラと一緒に散歩に出る。途中、町の神社に立ち寄って、長い時間祈っていた。ソラはその間、じっと横に座っていた。


「どうか…ユウトを、もう一度…」


小さな声だった。でもソラには、ちゃんと聞こえていた。


それから何年かが過ぎた。


ソラの耳は遠くなり、目も白くかすんできた。足取りもゆっくりになった。でも、玄関で待つのは変わらなかった。ユウトの匂いも、声も、忘れていない。


ある日の午後、聞き慣れた「ただいま」が、ふっと玄関に響いた。


最初は幻かと思った。けれど、あの足音が近づいてきて、ソラの鼻先に、あの匂いが戻ってきた。


「ソラ、ただいま」


ユウトだった。少し背が伸びて、声も低くなっていたけれど、確かにあの子だった。ソラはよろけながらも立ち上がり、しっぽを振り、体ごとぶつかるようにしてユウトに飛びついた。


お母さんが、静かに涙をぬぐっていた。


玄関には、やっと戻った家族の匂いが満ちていた。

こんなわんこは世の中にいっぱいいると思います

みんな大事にされるといいですよね

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