ご主人を見ているとわかること
わんこの日常を書いてみたかった
居間の時計が短い針を十二の上に置いたころ、ご主人が立ち上がる。
ふわりとした動きでソファの上のリモコンを置き、クッションを整える。
この一連の流れの後、わたしは毎日、小さな期待をこめてしっぽを振る。
「お散歩だよ」の声。
うれしくてたまらない。
ハーネスを付けてもらうのもどかしく、急いで外に出る。
知っている道を、知っている風の中で歩く。
毎日同じでも、やっぱりうれしい。
それが「お散歩」だ。
でも、ときどき、ご主人はポケットにスマホと財布を入れ、
服を着替える。
それは、いつもと違う何かが起きるサイン。
その時、わたしはうれしい予感で心が躍る。
尻尾は二倍の速度で動き、玄関のマットがぐちゃぐちゃになるくらい、くるくる回る。
そのサインの先にあるのは公園の日だったりする。
走っても走っても広くて、木のにおいがたくさんあって、
知らない犬もいるけれど、匂いをかいだり、かがれたりして、それもまた楽しい。
もっと特別な日にはドッグランに連れて行ってくれる。
あれは、もう……なんだろう。
風そのものになったような気持ちになる。
走って、走って、走って。
知らない誰かと追いかけっこをして。
走って。
ただ、それだけで、うれしい。
ある日、またあのスマホ・財布・着替えの時が出た。
わたしは喜びすぎて大きく跳ねた。
ぐるぐるまわって、わんわん吠えた。
きっと今日は公園だ。あるいはランだ。
でも、着いたのは動物病院だった。
「あ゛゛゛゛」声にはならないけれどがっかりだ
知らない犬の匂い。
針の気配。
そういう日もある、というのは知っていたけれど、
ついにこの日が来てしまった。
注射は、まあ、我慢した。
じつはビビッて固まっていただけだが
「よく我慢したね」とご主人にも
お医者さんにも窓口の方にもほめられた。
そんなんでは足らない。
意気消沈してご主人と車に戻った。
そして、車はまた別の方向へ進んで、公園に着いた。
しかも、おやつをいつもの倍くれた。
たぶん、ご主人には、わたしのがっかり顔が伝わったのだと思う。
ちゃんと、見ていてくれる。
だから、今日は良い日だった。
注射のことは、まあ、置いておこう。
わんこからみたらこんな毎日なんだと思います