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6 探偵ごっこ。ぶっちゃけ楽しんでる

「プリムラ・ジャイン男爵令嬢。ハーヴェイ・ジャイン男爵の第五子。兄が四人。ジャイン男爵夫妻は女児を望んでおり、プリムラ様は待望の女の子だったようです」

「ん〜、その話だけでも甘やかされて育ってそうな感じ」

「はい。実際、継嗣のロディアス・ジャインは、父親が妹に甘すぎるとよく友人に愚痴を溢しています」


 ふむふむ、とシエルはパスタを口に詰めながら話を聞く。

 シエルは今、アグノスと昼食を囲みながらプリムラ関連の報告を聞いている所だ。


 どうやら聖魔法使い専用らしい神殿内の個室。そこにこっそり招き入れられ、神殿騎士さんの給仕で食事をしている。

 テーブルに着いているのはシエルとアグノスのみ。横で神官さんが直立して報告しているのを聞きながらの食事は微妙に居心地悪かったが、向こうにしてみれば主人と同じ席に着く方が有り得ないので呑み込むしかない。


「賜わった祝福(ギフト)は、【聖魔法】の他に【花と恋の女神】より【美しさ】と【若さ】。プリムラ様の祝福(ギフト)はこの三つで全てです。神殿専属の鑑定士が【鑑定】した結果なので、確かかと」

「【魅了】や【洗脳】の類いは無い訳ね。でもあの外見と話術があれば、人を操るのは十分可能ね」

「むぐむぐ……。同感だけど、エリクの様子はそんな感じじゃなかったよ。なんで自分がこんな行動取るのか、分からなくて怯えてたくらいだし」

「う〜ん、自分の行動に違和感持つ、ってなると……一体何?」


 アグノスは真剣な顔で呟き、フォークにパスタを巻いて、パクリ。

 ちなみに二人は同じメニューで、トマトベースの海鮮パスタだ。魚介類特有の旨味とトマトの旨味のコンビネーション最高です。

 それにサラダと多分コンソメ系のスープ。このスープとパスタがまた合うんだ……。


「【鑑定】も、掛けられてる時以外は正常ってタイプだとタイミング合わせないと意味無いし……。正体不明じゃ、警告しようもないわね。引き続き探りましょう」

「うん、て言うかアグノス、信じるんだ?」

「そりゃシエルくんの言う事だもの。……って言いたいけど、報告の中に似たような事例があるのよ」


 アグノスはあれからエリクとプリムラ関連を割と本格的に調べた。

 転生者同士であると同時にヲタク仲間、それもBL談義に付き合ってくれる男子と言う希少種のシエルを、アグノスは重宝しているのだ。腐的な関心を除いても、シエルの為に動くのは吝かではない。


 その結果、予想以上にプリムラが悪質である事が判明した。

 例えばエリク。

 二人きりで居る時の様子は、端から見れば完全に恋人同士のそれだ。プリムラはエリクに気安く触れ、甘え、時にほんのり頬を染めて見詰める。気を許しているのだと、特別な好意があるのだと全身でアピールする。

 けれど人前では一切そんな様子は見せない。「聖魔法使いとしてきちんとしてないと」とエリクには説明し、一定の距離を取らせる。


 そして誰かにエリクとの仲を聞かれると、あくまで友達だと説明する。冷静な態度で、事務的に。

 そして「お父様も気に入っていて、私のお婿さんにって考えていたの。私もエリクは嫌いではないし、反対はしなかったから……」と、少し困った顔で言葉を濁す。


 他の貴族子息や男性神官・騎士に対しても似たり寄ったり。

 人前では節度を保った態度で、人目が無くなると『特別感』のある様子で接する。他の男との親密さを咎められれば、「だって、〇〇様に失礼な真似は出来ないじゃない……」と涙目で訴えたり「普通程度に気を遣ったつもりだったけど……勘違いさせちゃったかしら」と落ち込んで見せたり。


 そうやって『自分こそプリムラの想い人だ』と自負してる男は十人を超えていた。思い掛けない要職に就いている者までがプリムラの餌食になっていた。頭痛い。


 言葉では嘘はつかず。けれど表情で、声のトーンで、身振りで、相手を自分の思う方向に誘導する。

 プリムラはそれがやたら上手い娘だった。厄介なのは、作り上げたストーリーに破綻が無く、辻褄が合っていて周囲に違和感を与え無い事だ。


 シエルの件が無かったら、気付くのは大分遅れていただろう。

 アグノスを始め、プリムラのズルさに気付いていた者はそれなりに居る。しかし小狡いだけの男好きだと、欲を張っても直ぐに露見する程度の小物だと甘く見ていた。

 プリムラは賢い。シエルとは別ベクトルの頭の良さで、気付かれる事なく周囲を操っていた。


 気付けて良かった。この昼食は、そのお礼でもある。


「確かに、上手い具合いに踊らされてるのも多いんだけど、偶に『なんで自分がそんな事したのか分からない』って証言もあったの。その時は小娘の色香に惑わされたのを認めたくないだけかと思ったけど……」

「改めて精査します」


 アグノスは言いながら神官に視線を向け、それを受けて神官も頷く。

 その様子に、シエルはホッと肩の力を抜いた。

 シエルはアレを何らかの異能だと思っている。その確信は有れど確証は無いので、信じて貰えなければそれまでだった。


「鋏の音、ねぇ……。ヒントっぽいけど、何も思いつかないわ」

「ね。いつも聞こえる訳じゃないし」


 今の所、エリクと居る時だけ、というくらいしか共通点もない。それも、エリクが居ても常に聞こえる訳でも無し。

 何が出来るか、何を知るべきか、二人はしばし話し合った。




 それからまた数日経ったある日。

 いつも通り図書館に行くと、入り口で馴染みの司書に呼び止められた。


「シエルくん、エリクくんが」

「来ないって?」

「ええ……」


 司書は伝えただけなのに、申し訳無さそうな顔をする。


「分かりました。ありがとうございます」


 言ってくるりと踵を返すシエル。

 いつもならそのまま本を読んで行くシエルが出て行こうとした事に、司書が声をかける。


「シエルくん?」

「今日は帰ります」

「……。そう、気を付けてね」


 むぅ、何でも無い風に振る舞ったつもりだが、めちゃくちゃ気の毒、って顔をされてしまった。そんなんじゃないのだけど。


 シエルはそのまま神殿を出て、聞かされた通りへ向かう。キョロキョロと居並ぶ店を覗きながら進む事しばし……居た。


 エリクとプリムラだ。屋台で揚げ菓子を買っている所だった。


 エリクから話を聞いた後、シエルは『次にプリムラと会ってそうなったら、逆らわずに従って』と指示を出していた。


「え、でも」

「そういうのは、下手に逆らうと心身に負荷が掛かる場合が多い。逆らわない代わりに、観察して」

「かんさつ」

「そう。自分を観察するの。そうなってしまう時、どんな気持ちになる? 気持ち悪い? ぼーっとする? 何も考えられなくなる?」

「え? えーと……?」

「今は、分からなくてもいいよ。次に会った時、意識してみて」

「……やって、みる」


 それと同時に、いつもどこへ行くのか教えて貰った。一度はプリムラをしっかり見てみたいし、プリムラとデートする時に鋏の音が聞こえるかも知りたい。


 そんな訳で今、シエルは二人を尾行している。

 エリクには二人を視認した瞬間見付かった。「あ、居た」と思うと同時に振り返ってシエルを認めたのだ。なんで分かったんだろう? 視線? 気配?

 エリクはシエルを見つけると、ホッと安堵の顔をした。

 それに小さく手を振り、適当に着いて行く。

 鋏の音は、しない。


 二人は買ったお菓子と飲み物を手に広場に行き、適当なベンチに座って食べながらお喋り。その後はぶらぶらと露天を覗いたり、ウィンドウショッピングしたり。

 普通に上手く行ってるカップルの姿。


 露天を見てる時に、直ぐ隣の店を見る振りして接近してみたが、鋏の音はしない。他に怪しい点も見つからなかった。

 そのままデートは終わり、エリクは神殿近くまでプリムラを送り、人気の無い所で別れた。


 プリムラの姿が見えなくなると、エリクはシエルの方へやって来た。


「おーッス」

「シエル! あんな近くまで、心臓に悪いよ、もう!」


 露天での事だろうか。


「端から見てて不審な点は無かったね。エリクはどう?」

「……それ、なんだけど」


 エリクは釈然としない、と言う顔で言う。


「なんか、こう……嬉しくなかった」

「うん?」

「村に居た頃はさ、プリムラと一緒に遊ぶのは、凄く楽しくて、フワフワした気持ちになって、ずっとこうしていたくて……帰る時間になると寂しくて、残念で。そんな感じなのに、今日はそんなフワフワしなくて、ええと……」


 エリクは自分の感情や感覚を言語化する習慣が無いのだろう。もどかしそうに、拙く、それでも懸命に自分の感じた事を言葉にしていく。


「……なんだろう、お手伝いしてる時みたいな、嫌がる程じゃないけど、好きでやってる訳でもないような……」

「必要だからそうしてるだけ?」

「うん……。なんで、だろう。あんなにプリムラと一緒に居たかったのに。プリムラの事は好きなのに」


 エリクはむしろ、プリムラと居ても嬉しくない自分にショックを受けているようだった。


「プリムラ様の事は、好きなんだ?」

「え? うん。それは変わらないよ」


 臆面もなくエリクは肯定する。こういう時、エリクは恥ずかしがったりせず、あっけらかんと好意を示す。

 ……こういう所も、貴族から見れば不愉快なんだろうなぁ……。

 伝え聞く貴族文化を思い、シエルは出そうになった溜め息を呑み込む。


 そこからまた、状況は変わる事無く、日々が過ぎる。

 徐々に気温も上がっていき、そろそろ夏かな、と言うある日の事。


「シエル……おれ、もう辞める」

「うん?」

「おれなんかが神殿騎士なんて無理だったんだ……」


 憔悴した様子のエリクが、そうリタイア宣言をして来た。

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