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64 【色持たざる神】

「シエル様は【色持たざる神】を御存じですね?」


 一体何を言われるか。

 そう構えていたシエルは、予想から離れた話題に警戒しつつ疑問符を浮かべた。


「そりゃ知ってるけど」

「でしょうね。以前、シエル様が口にした祝福(ギフト)は、全て【色持たざる神】によって授けられたものでした」


 ――俺は構わないよ。祝福(ギフト)が【愚者】だの【家無し】だの【遊び人】だのでも――


 あの時の事か。


「ディランこそ、よく【色持たざる神】なんて知ってたね。数が少ない上に、変な祝福(ギフト)ばっかで隠されがちなのに」


 【色持たざる神】が与える祝福(ギフト)は上に挙げたような「それのどこが祝福だ」とツッコミたくなるようなものばかり。

 それゆえ親御さんは周りにそれを隠すし、神殿だっておおっぴらに話したりはしない。

 結果、存在自体ろくに知られていない祝福であり守護神なのだ。

 ちなみに非社会系祝福(ギフト)なんて呼ばれ方をしてる。


「私も、シエル様の事を報告して初めて教えられました」


 ……うん?


「私の所属するエアレフト伯爵家は、いわゆる王家の影。表では一般の官吏として働いていますが、秘密裏に調査をしたり裏工作をしたりと言った事が本業です」

「待って? 流石にそれ俺に教えていい事じゃないよね?」

「どうかお聞きください。それとは別に、エアレフト家は特殊な位置付けの家でして、変わった習わしが有ります。それが『【色持たざる神】の祝福(ギフト)を持つ者が居たら、その者の身分立場を問わず当主に据えるべし』と言うものです。そして、その祝福(ギフト)を持つエアレフト当主には、国王ですら従う義務があるとか」


 なるほど了解。


「まだ決まってないから! 違う可能性あるから!!」

「お言葉ですが、シエル様は社会的立場や権力への関心の薄さ、向けられる悪意への耐性の高さなど、【色持たざる神】に祝福(ギフト)を授けられる者の特徴を備えております。何より、穢れに影響を受け無さすぎる所が。ご自身でもそう思うから、あのように仰られたのでしょう?」

「………………!」


 過去の俺が、首を締めてくる……!

 てかそんなシステムあったのかよ! 聞いてねぇよ誰だよそんな取り決めしたの! ヨーコか!? ヨーコだな!? そりゃ【色持たざる神】の祝福持つような奴なら色々任せられるわ納得だよ畜生!!


 クソッ、穢れ対策といい自然に祝福を伏せられる事といい、取る予定の祝福候補第一位だったのに、こんな罠が潜んでるなんて。


「ほ、他にもよく探せば居るよ! 多分!」

「そうですね、私も一人だけ【色持たざる神】の祝福(ギフト)持ちを知っています」

「え、居るの?」

「ええ、先程話題に出たネスト皇子です。【道化】と言う祝福(ギフト)だそうです」

「…………」

「さすがに他国の皇子を当主に据える訳にはいきませんからね。候補が見つかって、皆喜んでおりました」


 ……【色持たざる神】の祝福持ってる奴は希少。仮に一国に一人くらいだとして、既に二人見つかった今、更に他を探せと言うのは無茶か……。

 くっ、ディランの眼差しが痛い……!


「もし、仮に、俺の祝福(ギフト)が【色持たざる神】からのものだったとしても、俺に貴族は務まらないよ。無理、絶っっっ対、無理!!!」

「シエル様」

「……何?」

「こんな奇妙な習わしがある事には、疑問を持たれないのですね」

「………………………………………………………………………………………………」


 今日、俺、どんだけ自爆してるんだろう……(遠い目)

 これをどう乗り切れば、と考え掛けたシエルだが、一瞬でその考えを捨てた。どうせ既に魔物ふっ飛ばした所やあっちゅーまに三人を治癒した所を見られているのだ。

 黙っていて貰いたいネタが増えただけさ。ハハッ。


 ……まてよ?


「……ん? ディランはなんで、その話したの? 黙ってれば、俺は何も知らないまま、非社会系祝福(ギフト)だったよ、って周りに言ってたのに」

「端的に言えば、保身の為です」

「うん?」

「この事を黙ったまま祝福の儀を迎え、厄介な事になった時、私が事前にその事を知っていたとなれば、シエル様の中の私の信用は暴落するでしょう。私は、あなたと敵対しない事を、最優先にしているのです」

「……」


 ディランの判断は、至極当然のものだろう。それだけの事を、シエルは示した。

 あるいは裏稼業の勘だろうか。実際シエルは、いつでも好きな時にディランを殺せる。そして今は、ディランが行方不明になろうと死体で見つかろうと何ら不自然ではない状況だ。

 だからディランは示そうとしてる。「私はあなたの敵ではない。だから殺さないで」と。

 その恐れを真正面から表す当たり、潔いし勇敢だと思う。


 そう、当然だ。

 けれどシエルはディランの言葉に目を逸らし、唇をキュッと引き結んでしまった。

 これまでは職員と孤児として、気安く接して来た。

 でもこれからは、ディランはシエルの一挙手一投足に神経を配り、自分の言動がシエルの不興を買わないよう、よくよく吟味して行動しなければならないのだ。

 そしてシエルは、自分の言動がディランから見て脅迫になっていないか、注意しなくてはいけないのだ。

 ……もう、ユリアの事言えないな。


 そして、想像する。

 もし、エリクやライフェルトにこの力を、シエルの存在理由を知られたら。

 二人もディランのように、シエルの機嫌を伺うようになるのだろうか、と。


 シエルは一度目を閉じ、一つ呼吸をして、開く。

 覚悟を決める。好ましく思っていたものを、自ら壊す覚悟を。


「敵対したくない、と思うなら、今日見聞きした俺に関する事は、黙っていてくれる?」


 脅す。任務とはいえ、自分の身を案じてくれた人を。


「はい」


 シエルが己の能力を隠したがっている事は、とうに察していたのだろう。ディランは即座に頷く。

 ただ、とディランは続ける。


「私の周りは、異変を察知したり、隠し事に敏感なものが多いのです。特に先代様など、私が全てを話していない事は即察知し、それがシエル様に関する事だと簡単に特定するでしょう」

「ただ黙っているだけじゃ、意味ない?」

「ええ。とはいえ、シエル様の実態を正確に知るのは困難でしょうが」


 あまりに荒唐無稽ですから、とディラン。

 そうなのか……。仕方ない、ある程度シエルが特殊な事は知られる前提で行こう。


 それからエリク達への説明内容も含めて細かく打ち合わせをした。

 あーでもないこーでもないと話し合い、大枠が決まって一息ついて。




 エリク達は目を覚ましたのは、夕方になってからの事だった。




 ややこしい話に疲れたのと、そろそろ時間だからとディランと夕食を作っている時の事だった。ここには保存食の他に小麦粉やら香辛料やら、なんなら肉や()()()野菜もある。

 シエルが引っ張り出して来たそれら食材に、ディランはなんとも言えない顔をしていた。でも品質に問題が無いと分かると率先して調理してくれた。

 メニューはクリームシチュー。

 ディランは小麦粉をバターで炒める所から作れる人だった。凄い。シエルはディランを尊敬した。

 ちなみにシエルは葉っぱをちぎってグリーンサラダを作る係。……もうちょっと難しい仕事くれても大丈夫よ?


 そしてバターのかぐわしい香りが部屋中に漂い、聞こえたのだ。


 ぎゅるるる……

 ぐるるるる……


 と、お腹の音の二重奏が。

 思わず顔を見合わせるシエルとディラン。次いで同時に調理の手を止め、音のする方へ揃って向かう。


 ごそごそ……うぅ……


 近付けば、誰を寝かせたベッドから音がしてるのかはっきり分かった。

 シエルとディランは一瞬目を合わせ、シエルはエリクの、ディランはミハイルのベッドのあるカーテンの向こうへ。


「エリク?」


 カーテンをめくりながら、そっと声を掛けた。

 見ればエリクは上体を起こし、途方に暮れたような顔をしていた。


「シエル……」

「エリク! 良かった、気分はど――」

「シエル! 何か食べ物ない!? お腹空いて死にそうだよ!!」


 この場所にもシエルが居る事にも触れず、泣きそうな顔で真っ先に食事を欲しがるエリクに、シエルは声を上げて笑った。


「シエル! 笑ってていいから食べ物を!!」

「あはははっ、ご、ごめん、今、用意してる、から……あははっ」


 笑い過ぎて目尻に涙が浮かび、それを指で拭うシエル。――そう、これは笑いから来た涙だ。そういう事にしよう。


 食欲があるなら、大丈夫。

 必死に食べ物を求めるエリクに、シエルはようやく安心した。


 一方。


「すまないが、まず食事を……」

「承知しました」


 すぐ横でも、よく似たやり取りが交わされていた。

 威厳も何もありはしない。ミハイルとの初対面は、ちょっと残念な感じになった。

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