60 謎遺跡in瘴魔の森
ミハイルの金属鎧は、背中部分は無事だった。
内側には革が張られており、今ディランが慎重にナイフを差し込んでいる。
金属鎧って内側あんなんなってんだー、とシエルはのんびりと思う。そういや、剣を使うようになっても装備するなら軽い奴だよな、と金属鎧には興味が無かった。
それ故金属鎧に関し全く知識が無い事に気付き、前世からの悪い癖だな、とシエルは反省する。冒険者になるなら、興味が無くても関わりそうな事なら知っておかなくては。
「――っ、シエル様!」
なんて考えていると、ディランが焦ったような声を上げ、意識を目の前に戻した。
裏打ちされた革はぺらりと捲れ、姿を現したのは呪符。姿があらわになった途端、禍々しい魔力とも穢れとも違う、でろりとした不気味な何かが呪符から溢れ出した。
ホラーでもよくあるけど、ずっとなんでもないものの振りしてるのに、見つかったら正体表すみたいに分かりやすくなるのなんなんだろう? 自我あるの? 自己主張なの?
それはともかく、この世界、魔法の他に呪いもある。
魔法と呪いはよく似ていて区別がちょっと難しいが、とりあえず、感情により左右されるのが呪い、と思って貰えればそれで良い。
そして呪符とは、紙、布、木材等に呪いを込めたもの。まんまだね。
今回出て来たのは布製だ。黒地に白糸でなんかごちゃごちゃと書かれている。呪い関係は子供が簡単に近付ける世界ではなく、シエルもよくは知らない。
ただ、さっきこの呪符が穢れを刺激していたのでこれが魔物暴走の原因なのは確か。
今はシエルが効果を遮断しているが、気付くのが遅れ放置されていたら、魔物暴走はいつまでも続き、ヤバい事になっていただろう。
「聖水持ってる?」
「っ、ええ」
ディランの顔が青白くなってる。シエルは例によってなんともない、せいぜいGに出会したかのような不快感がある程度だが、ディランには辛いのかも知れない。
ディランは腰のポーチから小瓶を出し、中身を慎重に呪符に掛けた。
ジュウ……と音を立て、黒い煙が呪符から上がる。……ふむ、魔力からして製作者はプリムラか。あいつちゃんと仕事してるんだろうか……。あ、駄目だ浄化し切れてないや。しょうがねぇな、こっそり浄化。
「……これで大丈夫、でしょうか?」
「うん、もう嫌な感じは無いよ」
保証しますよ、ええ。
シエルが頷いて見せるとディランは少し肩の力が抜けたようだった。
そして証拠の品だからと、呪符をやたら高級感溢れる布に包んでポーチに仕舞った。めっちゃ嫌そうだった。
「……預かろうか?」
「すみません、頼みます」
固辞されるかと思ったらあっさり差し出された。
そんなに嫌か、これ。
ちなみに金属鎧(胴体部分)も腰のポーチに仕舞われた。マジックバッグだ。一応この世界にはある。
数が少なく、めっちゃ高級品。ディランはミハイルの世話の為にマジックバッグを貸与されてるそうな。容量は馬車一台分ほどで、時間停止は無し。
それでもただの伯爵子息が持つには破格なんだって。へー。
「さて、話も聞きたいし、落ち着ける所に移動しよう」
「それは構いませんが、どこへ? 森の外には……」
言葉を濁すディラン。うん、ここはなんかのんびりしちゃってるけど、森の外は今頃阿鼻叫喚だろうね。
「ディランは、瘴魔の森にも遺跡が点在してるのは知ってる?」
「! ええ、休憩所として主に冒険者が利用していると。シエル様、もしや」
「うん、ここからそんな遠くない所に一つあるよ。とりあえず、そこに行こう」
そこは孤児院や図書館のアレと違い、隠されてはおらず、前述した通り冒険者ギルドで調べられるし、利用者もそこそこ居る。
場所が中層より奥になる為、一定のランクになった冒険者にしか開示されないけど。
ちなみに騎士も利用してる。別に冒険者ギルドの所有物ではないので。
「あの、シエル様。彼等をどうするので? 私は一人背負うのが精一杯ですが」
と、ディランは問う。うん、気絶してる成人男性が三人だからね。二人じゃ厳しいよね。しかも一人はちっさい子供だもんね。
しかしなんだろう、物言いに『どうにか出来るんでしょ?』みたいなニュアンスを感じる……。なぜ。
まぁ、出来るんですけど。
シエルは無言で魔法を発動した。横になっている三人の下の地面がボコリと盛り上がる。
土はそのまま、乗せている人間と同じサイズの楕円形になり、横からニョキニョキと細長い棒状の物が生え、何度か折れ曲がって地面に着き、グッと体を持ち上げた。その姿はまさに。
「蜘蛛……型のゴーレム? ですか?」
「そんなトコ。さ、行こう」
シエルはさらっと言って移動する。結界を移動させつつ歩を進めた。
ところでずっと描写を省いてたが、今もずっと雨は降り続いている。雷も鳴ってる。
何を言いたいかと言うと。
ズリッ
「シエル様!」
足場がめっちゃ悪い。
地面を乾かしたエリアから一歩出た所でぬかるみに転びかけた。ディランが素早く支えてくれたので無事だったが。
「あ、ありがと」
「どういたしまして」
体勢を立て直したシエルは無言で蜘蛛ゴーレムを追加し、乗った。ついでなのでディランの分も作った。
顔が赤くなってる事に触れないでくれた礼だと思って、そのまま何も言わないでくれると嬉しい。
蜘蛛ゴーレムでサクサク移動出来た為、ものの数分で目的地に着いた。
目の前に聳えるは高さ五〜六メートル程の崖。ぱっと見ただの崖だが、よく見るとこれ扉だよねって感じの長方形の切れ込みがある。
そして低い位置に生えた植物に偽装した取っ手を引っ張れば、切れ込みが手前側にせり出し、左にずれて、ぽっかりと空洞が現れる。
入ってすぐは、そこそこ広い空間。右側には水場があったり、左側にはベンチがあったりして、汚れが酷い人はまずここでざっくりと汚れを落とすのだ。
今回はシエルが魔法で全員綺麗にしたのでそこはスルーして正面にある扉をさっさと潜る。
そこはかなり広い、保健室っぽい空間。
奥に広い長方形で、手前右側には簡易キッチンや薬などを置いてる棚やテーブルが。左側にはソファにローテーブルがあってリビングっぽいスペースがある。
その左側の壁にはまた扉があり、トイレやシャワー室へと続いている。
そして奥側。左右に四つずつ、計八つのベッドが並んでおり、仕切りとしてカーテンが吊り下げられている。
保健室っぽいと表した理由がこれ。ベッドも白いパイプにマットレスが乗ってるタイプで余計それっぽい。と言うかここ作った奴、絶対保健室モデルにしてる。
シエルはそのベッドの前まで来て蜘蛛を止めた。
シエルは蜘蛛の高さを下げて降り、ディランは興味深そうにあちこちを見ながらヒョイと降りた。
「これが森の遺跡ですか。始めて見ました」
「王宮や神殿と同じ形式の遺跡だから、あんま説明は要らないと思う。とりあえず、三人の装備脱がせよう」
「はい」
最初、手分けしようとしたのだがシエルが鎧の知識が無さすぎて、結局ディランが全員脱がせる事になった。シエルは身軽になった三人を蜘蛛を操作してベッドに移す係りだ。
ベッドは最初から清潔なシーツが被せてあり、布団も足側に畳んである。
利用者が綺麗に使っているというのもあるが、この遺跡は無人になると汚れが一掃され、消費した備品も補充される仕組みなのだ。
これが瘴魔の森の中でなく、穢れが充満していなければ勝手に人が住み着いていただろう。
シエルはエリクをベッドに移しながら、顔色や脈を確認する。
問題は無い。……しかし、移動の最中もだけど、一向に目を覚ます気配が無い。
毛布をエリクの肩まで引っ張り上げながら、少し不安になるシエルだった。
ちなみにシエルは、容量無制限、時間停止可能な空間収納を使ってます。
空間収納ってか、時空魔法。




