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54 闇の神と光の神

「『かくも人は愚かしい! 人間など滅びてしまえ!!』」

「『いけません兄上。どうか落ち着いて』」


 いつもの図書館横の空きスペース。

 いつものメンバー、シエル達三人の他に、今日は二人の新顔がいる。


 大仰に……と言うか、思いっ切りわざとらしく人間を罵倒するフェルディナンド。


 それを宥めるフレデリク。


 そんな二人の手には、シエルの書いたシナリオがある。


 約束通り勉強会にやって来た二人に、早速配役を振ってみたのだ。ちょうど威圧感のあるフェルディナンドにピッタリな役があったのでやって貰ったのだが……予想を遥かに上回る(下回る?)大根役者でした。残念。

 対してフレデリクは至って自然。普段から誰かのフォローしてるのかな? ってくらい手慣れた感がある。期待の新人ですね。


「『人間に我が光の力を使うなど許さぬ! 闇よ、我が兄弟、そなたも闇の力を人間に与えてはならぬぞ』」

「『いいえ。光に見放され、私まで見放したら人間はどうやって穢れと戦えばいいのですか。私は人間に祝福を贈ります。それに、人間全てが罪に加担した訳ではありません。罪に手を染めなかった者も居るのですよ? 罪無き者も、罪ある者と同じ扱いをすると言うのですか? それは筋が違います。公平な兄上らしくない』」

「『ぐ……!』」


 うーむ、やっぱ闇の神の台詞が説明臭くなってるなぁ。要検討、と問題の台詞を赤ペンで丸く囲む。


「『……こうして光の神は、ほんの僅かな人間にだけ祝福を授ける事に同意しました。この為、生活魔法でも光に関係するものは人間には扱えず、【光魔法】の祝福もごく稀にしか見つからないのです。おしまい』」


 ナレーションはシエルでお送りします。

 おしまい、と締め括ると、ふーっ、と息を付く音が数ヶ所から響いた。

 そのうちの一人、フレデリクが言う。


「はあ……、なんだかドキドキしたよ」


 フェルディナンドも続く。


「ああ、ただ用意された言葉を言うだけかと思ったら、なんとも言えない緊張感があったな」

「でも、楽しかった」

「うむ、不思議な心地良さがあるな」

「分かります! なんかこう、ワクワクしますよね!」

「皆さん楽しめたようでなにより」


 こういうのは楽しめる人とそうでない人とに別れるが、この場に集まった面子は全員楽しめるタイプのようだ。若干一名、下手の横好きが居るが。


「なるほど、今回は【光魔法】の使い手が極稀にしか現れない理由を物語にしたのだな。なかなか面白いが、罪とはなんだ?」

「あ、これ一応続きものなんですよ。英雄ヴァルヴェンドの邪神退治の話をですね、邪神じゃなくて大地の神との諍いの末の殺害、って話にしたんです」

「……それは、また……」

「あの、シエルくん? 神殿から何か言われたりしないの?」

「今の所何も。と言うか、こんな子供の空想に文句付けるほど、神殿は大人げなくないですよ」


 しれっとシエルは言う。

 フェルディナンドは「そうか……」と困惑気味に頷いて弟を見、ライフェルトはただ苦笑して見せた。


「それでも、【光と正義の神】が人間滅ぼしたがっているとするのはやり過ぎじゃないかな? それに、正義を司る神が虐殺を主張するなんて可怪しくない?」

「そうですか? 俺はむしろ、そういう過激な事をする時って、正義を理由にしてる事が多いと思ったんですが」


 シエルが言うと、全員がなんとも言えない顔で沈黙した。

 えーと、地球だとそう言う虐殺が起きる時って、国の為とか神の為とか恒久的な平和の為とかだったと……いや待て、こっちの世界だと違ったか?


 …………。いや、こっちの世界でもそう言う暴挙やる時って、だいたい耳触りの良いお題目が掲げられてるな。


「そう言えば、この話では闇の神は慈悲深い神になってるね。闇の神は邪神とも言われてる神なのに、どうしてこんな内容になったの?」


 と、ライフェルトが話題を変えに来た。シエルとしてもこの空気をどうにかする能力は無いので有り難く乗っかる。


「それね。そもそもの話、俺としては闇の神が邪神扱いされてるのが気に入らないんだよね」

「え?」

「は?」

「うん?」

「シエル? どう言う事?」


 シエルの発言に、思い思いの疑問符が漏れる。

 まぁ、暗闇は普通に怖いし、暗がりは犯罪の温床になりがちだし、恐れ、排除しようとする気持ちは分からないでもない。

 けれど。


「エリクとフェルには前にも話したけど、神話の中に、闇の神を邪神とみなせるような話は無いんだ。闇と邪神が結び付けられてるのは、単なる印象。闇は怖い、排除したい。闇は排除すべき。排除すべきは悪。こんな連想みたいなのが起きたんじゃないかな」

「待ってくれ、それは流石にこじつけが過ぎる」

「そう? そう言う人その辺に居ない? 自分が気に入らない理由に、その対象が悪いって言う人」

「「「…………」」」

「えっと?」


 シエルの言葉に貴族三人はなんとも言えない顔で沈黙し、エリクは分からない、と言う顔をする。言い回しがややこしかったかな?


「んーとね……例えばピーマンが嫌いな人が居るとします」


 ちなみに、正確には“ピーマンによく似た野菜”。名前とか違うけど、シンプルにする為にピーマンと称します。


「ピーマンかぁ、おれも苦手だな。あの苦いのとか青臭いのが駄目」

「うん。おれもピーマンは苦手。頑張れば食べられるし、調理方によっては美味しく食べられるんだけどね」

「シエル偉いな〜、おれは避けちゃう」

「あはは。で、俺達は今『自分が苦手なんだ』って言ったけど、そうだな……『あんなものは食べ物じゃない』とか『不味く作る農家もしくは料理人が悪い』とか言ったりする人って居るよね」


 あ〜いるいる〜、とエリクと盛り上がる。

 一方貴族組は静かに二人のやり取りを聞いていた。


「こんな風にね、“嫌い”の原因を自分の中に見るか、自分の外に見るかで別れるもんなんだよ。闇の神を邪神だって思う人は、きっと暗いのが苦手なんだ。怖がりかもしれない。それで闇を避けるようになる。でも臆病とか弱虫とか言われるのは嫌だ。それで、それを誰かに指摘された時、反射的に言うんだ。『だって闇は悪者じゃないか』ってね」

「……ああ、そっか、そう言う事なんだ」


 ふと、物思いに耽る顔になるエリク。何か思い当たる事があったのかな。


「ピーマンは実際苦いけど、その苦味が好きって人もいる。苦い事はただの事実で、そこに良し悪しは無い。闇も同じなんだよ。暗がりには確かに悪い人が隠れるのに最適だ。何かが起きても気付き難くて対応が遅れたりもする。けどさ……エリク、こんな明るい中でゆっくり眠れる?」

「あ」

「俺は無理。そりゃ疲れてれば寝れるだろうし、お昼寝も好きだけど、しっかり熟睡するなら静かで暗い所が良い」


 あと、流石にこの場では言わないけど、男女の営みとかな。


「あとね、俺は夜に散歩するのも好きなんだ。シンと静かで、でも昼間は聞かない虫の声とかしたりして。月や星も好き」

「うん……おれもお風呂上がりに外を歩くの好きだよ。涼しいのと、こう、『ああ、今日が終わるな』って感じがして」

「それも良いねぇ。ま、そんな感じで闇も好きだから、悪く言われるの、気に入らないんだ」

「そっか」


 短く言って、エリクは笑う。納得してくれたかな。

 貴族組はどうだろうか? 実際に闇の神は邪神じゃないし、ましてや【闇魔法】を与えられた人が差別される理由なんてもっと無いのだけど、少しは伝わっただろうか。


「「…………」」


 フェルディナンドは真顔で、フレデリクは不思議なものを見るような顔でシエルを凝視してた。

 うん、それどう言う反応?


「そっか……だからシエルの描く闇の神は優しいんだね」


 やがてぽつりと言うのはライフェルト。


「邪悪な闇の神に慣れてるから驚いたけど、話を聞いてみれば凄くシエルらしいね」


 と、にこりと笑うライフェルト。

 その笑みのままに。


「ところでシエル? 夜中に出歩いてるの?」


 あ、しまった。


「え、いや、その…………孤児院の周りくらいだよ?」

「今の沈黙は長かったね? エリクは知ってた? まさか一緒に夜更かしなんて」

「エリクを連れ出したりなんてしないよ!」


 神殿騎士は門限厳しいから連れ出すのは難しいし、第一エリクの心象悪くするような真似はさせられません!


 ふんす、と力強く言い切ったシエルは、全員のなんとも言えない沈黙を返され首を傾げた。

 ――夜中に出歩いている事を自白してしまった事に気付いたのは、この数秒後の事である。

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