53 惑う
状況を整理しよう。
一、シラー夫人は自分が何らかの干渉を受けている自覚があり、それをシエルが解除した事もぼんやりながらも察している。
二、その上で助けて欲しいと乞われた。
三、でも実際に求められたのは、子供達と仲良くして欲しい、とだけ。
で、シエルとしては。
一つ、ライフェルトとは既に仲良いので今更実家が出て来たくらいで友達辞める気はない。
二つ、ぶっちゃけ、フェルディナンドとフレデリクも嫌いじゃない。
三つ、でも貴族との関わりは面倒くさいから嫌なんだよねー。
四つ、……正直、深い関係を築きたくない。エリクはもうしょうがないとして、これ以上、この国を切り捨てた時に気掛かりになる誰かを作りたくない。
そもそも、この先また精神干渉あるか? って問題もあるけど、ここは不透明過ぎるので様子見として。
「んー……」
「何か問題あるかしら?」
眉間に皺を寄せて唸るシエルに、シラー夫人が心配そうに訊ねる。
本音を言えば断りたい。けれど、こうして助けを求めて来た人を突っ撥ねるのは気が引ける。あの鋏の主に対抗出来るのは、十中八九自分だけだろうと思えば、尚更。
悩みの根幹は、彼等にどこまで開示するか、なんだよね。
あの鋏の主に関しては、手出し出来ないようにする事は、多分可能。
でもそれを言ったらどう頑張っても鋏の主について触れない訳にはいかないし、なんで、どうやって知ったかって話になるだろうし。
ただ「嫌です。仲良くしたくないです」と言うには、彼等に好意を持ち過ぎている。
どう返事をしたものか、と悩んでいると。
「シエル? 今すぐに応えを出さなくてもいいんだよ?」
「フェル……」
ひょこ、とライフェルトが横から顔を覗き込むようにして言う。
「母上のお願いは今返事しなきゃいけないものじゃないし、なんなら無視して良いよ?」
いや流石にそれは。
「ライフェルト? あなたね……」
「母上だってシエルを困らせるのは本意ではないのでしょう?」
「それは、勿論」
「だってさ。さっきの話は気にしないで」
「……ええと」
本当に良いの? とシラー夫人を見れば、苦笑して頷く。
本当にいいらしい。……後ろの方でグライデル伯爵がなんかソワソワしてるけど。
「……あの、ごめんなさい。あんまり貴族と深く関わりたくないです。それに、助ける、と言われても……ええと……」
ああ、なんて言えばいいんだろう。
困っているとシラー夫人は「ごめんなさいね」と言いながら立ち上がる。
「結局困らせてしまったわね。さっきの話は忘れて頂戴。ああでも、ライフェルトとはこれまで通り遊んであげて。この子、シエルくんが大好きなのよ」
「母上!?」
「それは大丈夫、です」
「シエル……!」
ライフェルトは大袈裟なほど嬉しそうな顔をしてシエルを見詰めた。
む、照れる。シラー夫人が空気変えようとして、ライフェルトは即座に乗ったのだと理解しててもこれは……うん、恥ずい。
その後は何でか「おれもシエル大好きだよー!!」とエリクが参戦して、なぜかシラー子爵が「オリヴィエ好きだよ!」と始めてジョセフィーヌまで混ざって……と大好き合戦に。
そして訳分からんまま解散した。なんだったんだ。
そしてどさくさに紛れて今度フェルディナンドやフレデリクも交えて遊ぶ約束もしてしまい、「あれ? 結局シラー夫人が望んだ通りになってる?」と気付いたのは帰宅した後の事だった。
帰りもライフェルトが送ってくれた。
神殿に着いてライフェルトと別れ、道の途中でエリクとも別れて、さて秘密基地へ行くか。
……と思ったら。
「シエルくん、おかえり」
孤児院周辺の草むしりをしていたディランに見つかりました。
「た、だいま?」
しまった、ついキョドってしまった。
ディランは草を毟る手を止め、シエルへと近付く。
「今日は貴族の屋敷に行ってたんだよね? 大丈夫だった?」
「へ? 大丈夫だけど?」
なぜか心配された、と本気で首を傾げたシエルは、一拍の間を置いてミュリエルの事件を思い出した。
そうだよ、揉め事起こした相手に会いに行ったんだから心配して当たり前じゃん。
ガチで忘れてた。あれだ、勃発した大好き合戦インパクトが全部持ってったせいだ。
「あ、えっと、本当に大丈夫。シラー家の人は庶民の流儀に合わせてくれるような人だし、グライデル伯爵家の人も、気遣かってくれて嫌な思いはしなかったよ。……あー、グライデル嬢以外は」
「……そう。うん、本当に大丈夫そうだね。何かあったら、直ぐに神官様に相談するんだよ。担当した神官様の名前分かる? 連絡の取り方は?」
「レスディア神官ね、だいじょぶ分かる」
本気で心配してくれたみたいだ。なんだか居心地が悪い。
……心配されて、居心地悪いとか。
ふと引っ掛かった思考に、シラー家でのやり取りが引き摺り出される。
自分は……。
「シエルくん?」
呼ばれてハッとする。うっかり黙り込んでしまった。
「やっぱり何かあった?」
「ううん、なんでもない。……取り敢えず、今日の事じゃないから」
「そう」
シラー・グライデル両家に要らん疑いが掛からぬよう、それだけは言っておく。
本当に、彼等のせいじゃないから。
あれだけ優しくしてくれて、好意を向けてくれて。
下心ありきでもちゃんと相手を思い遣ったおもてなしをしてくれて。
そんな風に良くして貰ったのに、拒絶一択な自分に、思う所があるだけだから。
小さな影がのんびりと孤児院へ入って行くのをディランは見送った。
そのまま草毟りを続け、一段落着いた所で引き上げ、孤児院の中に入る。細々とした仕事を片付けながら中を検め、シエルがどこにも居ない事を確認する。
その後でまた外へ出る。
今度は裏手に回り、ザッ、ザッ、と小さく音がしたのでそちらの方へ進む。
音は箒で枯れ葉を集める音だった。腰の曲がった老爺が、一人黙々と箒を掃いている。
ディランはその老爺へ声を掛けた。
「こんにちは、精がでますね」
「お? おお、こんにちは」
耳が悪いのか、一拍遅れて反応する老爺に穏やかに対応するディラン。老爺は最近神殿に雇われた庭師だ。一度は歳を理由に引退したものの、体を動かしたいと簡単な仕事を始めたのだ。
「手伝いますよ」とディランは手を貸し、一通り作業が終わると共に休憩小屋に移動し、一服した。
今小屋に居るのは、ディランと老爺の二人だけ。庭師用の休憩小屋なので人目に付きにくく奥まった場所にあり、とても静かだ。
その静寂が、おもむろに破られる。
「予定時刻より少し遅いですが、少し前、確かに帰還しました。その後屋内を探しましたが、姿は見えず」
「うむ。こちらも少年の姿は確認出来なんだ。彼の少年は隠し通路を使っていると見て良いな」
そう言葉を交わす二人の様子は、外で箒を掃いていた時と何ら変わりない。
変わらないまま、どこか鋭さを含んだ会話が交わされる。
「優先事項を変更する。ディラン、シエルと言う少年の様子を探れ。そして信頼を勝ち取れ」
「メッラ院長の虐待の件は」
「同時進行でやれ。出来るだろう? ――我等の主となるやもしれんお方じゃ、くれぐれも丁重にな」
大好き合戦一部始終 〜収集付かなくなったので仕方なくカットしました〜
エリク「お、おれもシエル大好きだよ!」(謎の焦り)
フェル「エリク……! そうだね、恥ずかしがる事じゃない、シエル大好き!!」(なぜか決まる覚悟)
リーフェルト「良いね〜僕も混ぜて〜、オリヴィエ大好き!」(オリヴィエにハグ)
オリヴィエ「あらまあ」(フラットなテンション)
ジョセフィーヌ「あら! 私の方がオリヴィエを好きでしてよ!」(強引にオリヴィエの腕を取る)
リカルド「私は!?」(放置される伯爵)
フェルディナンド「む、なんか分からんが我々も続くぞ! 大好きだぞフレディ」(旺盛なチャレンジ精神)
フレデリク「え、ええ!? 僕もやるの?」(狼狽える一般人)
シエル「なんだこのカオス……」(なぜかリーフェルトにハグされつつ)
侍女A「侍女長ー、ルシアさん(43話あとがきの不審な侍女)が鼻血吹いて倒れてまーす」
侍女長「またあの子は……」
〜某映画館にて〜
『✡世界創造の意思✡』「ナッツさん大好きです!!!」
ナッツ・ココ「流れ弾来た!?」




