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51 大人達の密談

大人組視点


念の為、当主夫妻の名前と簡単な設定を。

・オリヴィエ・シラー

 シラー子爵夫人。ライフェルトの母親。□ッテンマイヤーみがある。

・リーフェルト・シラー

 シラー子爵。ライフェルトと瓜二つ。当主なのに影が薄い。ここまでほぼ空気。


・リカルド・グライデル

 グライデル伯爵。ミュリエルの父親。成り金系中年デブ親父。見た目とは裏腹に仕事は出来る人。でも家庭ではポンコツの疑惑有り。

・ジョセフィーヌ・グライデル

 グライデル伯爵夫人。ミュリエルの母親。ミュリエルそっくり。こっちはリーフェルトと違い、ちゃんと存在感ある。何の差だろうね。

「なんで!!? 私は間違ってないのに! お父様の分からず屋! ちょっと離しなさいよわた――」


 メイド二人に両脇を抱えられたミュリエルがズルズルと部屋の奥へと連れ込まれる。そして。


 バタン!!


 ミュリエルのカン高い声を掻き消すように、大きく音を立てて扉を閉めた。

 扉を経ても尚、ミュリエルが騒いでるのが聞こえるが、姿が見えなくなっただけでどこかホッとした。


「……はあああぁぁぁぁぁ……」

「このまま帰るまで出さないように。扉の前と、窓の外にも見張りを。要求は、お茶くらいなら応じても良いけど、基本は無視しなさい」

「承知しました」


 扉の前でガックリと肩を落とし、長い溜め息を吐くグライデル伯爵。その傍らでシラー夫人がテキパキと執事に指示を出す。


「すまない、シラー夫人。世話を掛ける」

「あら良いのよ。今度鉱石を安く譲ってくれれば、それで」

「ははっ、君らしいね。分かった後で協議しよう」


 「気にしないで」などと言わず、キッチリ対価を要求するシラー夫人の対応はむしろ有り難い。グライデル伯爵も快く応じる。


「またあなたは安請け合いして……」

「あう、す、すみません……」


 その傍らで、それぞれの伴侶が小言を言ったり恐縮するのもお決まりの流れだ。


 ミュリエルを閉じ込めた客室から離れ、当主夫妻二組は執務室へと移動した。

 ソファに座り、出されたお茶で先ずは一服。 

 芳しいお茶の香りが、精神的な疲れを慰撫してくれる。お茶を飲んで一息つくと、グライデル伯爵は徐ろに頭を下げた。


「娘が迷惑を掛けた。本当にすまない」

「申し訳ありませんでした」


 その隣で夫人も共に頭を下げる。


「止めてくれ! 君と僕の仲じゃないか!」

「だからこそだ。酷く迷惑を掛けてしまったが、こんな形で友情を壊されるなんて真っ平だ。私はこれからもリーフと友達でいたいんだよ。その為にも、こうした事はきちんとしておくべきだ」

「リカルド……」

「あんた本当にリーフ好きよね」


 男二人が二人の世界に突入仕掛けた所を、シラー夫人がツッコミを入れて阻止した。グライデル夫人はいつもの事と気にしない。

 彼等四人は学生時代からの付き合い。その頃からの変わらないやり取りだった。


 シラー夫人がパシンと音を立てて扇を閉じ、それによって場の空気が変わる。


「その話は後でゆっくりと。今は急ぎ纏めるべき話を進めるわよ。具体的に言うと、シエルくんが居る内でないと、意味の無い話を、ね」

「シエルくん、ね。神殿で会った時は実感が無かったけど、今ならオリィの言う事が分かるわ。……このわたくしが、実の娘のあんな無様を許すなんて。どうしてここまで放置してしまったのかしら」


 グライデル夫人が言いながら閉じた扇を握り絞める。

 貴婦人の笑みを浮かべ、声音も穏やかなまま。けれどビキッと罅の入った扇とどこか薄ら寒くなる圧に、男二人がそろりと距離を取った。

 一方、オリヴィエはジョセフィーヌの言葉に重々しく頷いた。


「本当、そうだわ。いつもの私だったら、あんな世迷言、さっさと切り捨てていたのに。放置して疑問にも思わなかった。……異常を自覚出来ない、それがこの件の恐ろしい所よ」

「うむ、それだ」


 妻の気迫に呑まれ掛けた伯爵は、コホンと咳払いして言う。


「一体、何が起きてる? 異常が起きてる事には、もう異論は無い。この身で確かに体感した。何らかの精神干渉を受けているとな。しかし、神殿で【鑑定】して貰っても、何も異常は見つから無かったんだ」

「あら、【鑑定】を依頼したの。高かったでしょうに」


 神殿で【鑑定】する。

 これは普通の知識と経験による鑑定ではなく、祝福(ギフト)による鑑定という意味だ。


 異世界転生モノの定番『鑑定』。

 多くの作品でそうあるように、学ぶ必要はほとんどなく、知りたいと思えばその対象に関する情報が『視える』祝福(ギフト)である。


 この【鑑定】で得た情報は神から与えられた情報と解釈され、その結果に疑いを持つ事は基本的に無い。


 無いのだが、問題もある。

 【鑑定】で見られる情報は膨大で、その分使用者への負担がかなり大きいのだ。


 例えば、人物を【鑑定】する場合。

 名前、年齢、性別といった基本的なプロフィールから生まれるまでと生まれてからの経歴、遺伝子的な特徴とそれによる将来的な病気のリスク、身体的な特徴は各感覚の精度やら味覚の傾向その他、精神面も膨大と文字に起こしたら広辞苑何冊分にもなる情報が一気に脳に押し込まれるのだ。


 普通にぶっ倒れる。


 なので、【鑑定】を依頼する時には、「この子なんか可怪しいんだけど原因何?」なんてアバウトな質問はNG。質問は具体的且つ限定的なものにしなくてはならない。


 例えば「対象者は精神面に、魔法による干渉を受けているか」と言うような。

 けれどこの質問だと魔法に依らない干渉だったら意味が無い。なので魔法の所を祝福、薬物、脅迫など思い付くものに置き換え質問するのだが、その都度別途料金が掛かる。


 この料金は、【鑑定】保持者に無駄な負担を強いない為の措置であり、同時に加齢と共に脳に異常が出やすい【鑑定】保持者の為の資金稼ぎでもある。


 そうした手間暇と金を掛けても、質問者が問題の本質を見誤っており、的外れな質問ばかりしていては意味が無い。

 【鑑定】は強力な祝福(ギフト)だが、それを活かすのはなかなか難しいのだ。


「質問を吟味して幾つか【鑑定】したのだが、魔法・祝福・薬物・呪詛、いずれも『私が感じた異常』の原因ではないとしか」

「そう……」


 グライデル伯爵は、異常が見つからなかったのは自分の質問内容が悪いせいだと考えている。

 そうした事例は山程あるし、自分はこの件に何もピンと来るものが無い為、見当違いをしているのだろう、と。

 幾つかの可能性を排除出来ただけ上出来だと思おう。


 こうした時、いつも頼りになるのはオリヴィエだ。


 オリヴィエは賢く、自分に無い視点を持ち、何より【直感】を持っている。

 【直感】は、何も無い所から正解をピンポイントに掴み出すような祝福(ギフト)。今回も異常に最初に気付いたのはオリヴィエだし、打開策もどこからともなく掴み出してくれるとリカルドは信じて疑わなかった。


 少しの間を置いて、オリヴィエは言った。


「おそらく、だけど……【鑑定】でも【占術】でも、どんな質問をしても異常は見つからないと出ると思うわ」

「は? いや、でも確かに」

「言いたい事は分かるわ。私も納得出来ない。でも……そう、“異常だとは認識されていない”。そんな感じがするの」

「どういう意味だ?」

「私も訳が分からないのよ。どう考えても、今までの私達は可怪しかった。なのに、同時に“異常ではない”とも感じるのよ」


 なんだそれは。

 口に出かけた言葉を、リカルドは寸前で呑み込んだ。オリヴィエは苛立たし気で、言った本人が一番納得していないのだと察したからだ。


 なんとも言えない沈黙が執務室を包んだ。

 そして今度それを打破したのはジョセフィーヌだった。


「よく分からないけれど、原因を特定する事は出来ない。そういう事なのよね?」

「……ええ、そうね」

「ならば、どうにもならない事は横に置いて、建設的な話をしましょう。目下の課題は『私達はこのまま正気でいられるのか』ね。それから、『また同じような精神干渉を受ける可能性はあるのか』と言った所かしら」

「そして、『それらにどう対抗するのか』、か」


 グライデル夫妻が直近の課題を纏める。

 そう、惑っている場合ではない。この奇妙な異変に、抗わなくては。


「それに関しては、もう結論は出ているわ」


 グライデル夫妻の纏めに、オリヴィエは今度ははっきりと応えた。


「どれも応えは一緒。……『シエルくん次第』よ」

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